60. 怖~いダンジョン
………………面倒くさいことになったにゃあ。
君、いいね。頑張って!
……………どうしてこんなことに。ニャァァア………
「サクッと採って帰るわよ。」
シルエルがそう言いながら、クッキーを食べる。
「シルエル食べすぎだよ。もうすぐお昼にするんだから。」
タツキが鍋を振りながら言うとシルエルは「別腹よ。」と答えてもぐもぐと食べていた。
「はぁ……………っとと、焦がすとこだった。」
奥ではフウナさんとクウが魔術の訓練をしている。興味本意で眺めていると手元の焼き肉を焦がすところだった。
ジュー………っと肉汁が音を立てる。
今日のお昼はレッドドラゴンのガーリックステーキ丼。他にも肉が大量にあり腐らないとは言え、早く何とかしたいものだが………
ズルズル………
「良い香りねぇ………まだかしら?」
「ワフゥ………(お腹減った……)」
ナイスタイミングで帰ってきたフウナさんとクウ。
「今日の晩御飯よ。」
ドサッと巨大な鳥が放られる。
「放った魔術がたまたま当たったのよ。う~ん………良いサイズね。」
巨大な大鷲のような鳥。グリフォン………とは違うのか?
「また、肉が増えましたね。とりあえず晩御飯には使えませんよ。」
樹生がそう言うと少し残念そうにするが、ステーキ丼を見ると途端に顔を明るくするフウナさん。
「食べますか。冷めない内に………」
「「「おかわり!!!」」」
…………ふぅ、早ぇ。
樹生は肉を焼きながら、コーヒーを飲む。ステーキにはあんまり合わないがそう言う気分なのだ。
「フウナさん………何となく気づいてるんですけど、純正鉱石って生き物ですよね?」
樹生がそう言うとフウナさんは目を丸くして驚いた。
「あら、知ってたの?驚かせようと思ったのに。」
やっぱりかぁ………
「まぁ………何となくですけど、クリスタルドラゴン的な感じですか?」
「アレと比べちゃ駄目よ。そうねぇ………説明が難しいのよ。背中に鉱石が生えた…………鼠?かしら。」
う~ん……いまいち想像がつかないな。
「まぁ、見ればわかるわよ。」
気づくと目の前にフウナさん用の丼がおかれていた。どうやらまだ食べるようだ。
「クウとシルエルはどうする?まだ食べる?」
「私はいいわ。ごちそうさま。美味しかったわ!」
「ワフー(ごちそうさまー)」
どうやらフウナさんでラストのようだ。
「やっぱり、タツキのご飯は美味しいわね。最近食べてなかったら余計に美味しく感じるわ。」
そう言って貰えるのは嬉しいが………1日ちょっとしか立ってないんだけどね。
「ごちそうさま。…………さて、もうすぐダンジョンにつくわよ。」
フウナさんが立ち上がると遠くを見つめていた。
「醜悪のダンジョン………でしたよね?」
「ええ、光り物に釣られた者達が醜い死に方をする事が多いからそう言う名前がついたそうよ。」
光り物………ってことは他にもお宝が?
「期待してるところ悪いけど、タツキが考えてることは少ないわよ。」
シルエルがタツキの肩の上でそう言う。
「あのダンジョンはね……………本当に、本っ当に酷い所なのよ。正直言うとあんまり近寄りたい場所じゃ無いんだけどね。」
「…………………そんな所に行かなきゃならんのか。」
樹生ががくりと項垂れてるとクウがテシテシと頭を叩く。
エンシェントウルフの背に股がり、肩に精霊、頭の上にエンシェントウルフの子供を乗せながら項垂れている絵面。一体樹生は後どれほど強くなれば自信がつくのだろうか?
「見えてきたわ。あれが醜悪のダンジョンよ。」
近付くにつれ、何だか無性にダンジョンに入りたくなってきた。あれほど行きたくなかったのに。
「タツキ、聖剣とマフラーを着けなさい。」
フウナさんに言われ着けると…………
「あれ?欲求が無くなった?」
ダンジョンを見ていても先程までのような感覚は無くなり、むしろ不気味さが強く感じられる。
「な、なんなんですか?ここ。鳥肌が止まらないですよ。」
弱いタツキだからこそ感じられる得体の知れない恐怖。それがここにはあった。
「ここが醜悪のダンジョンよ。名前の由来はさっき説明したけれど………入れば言わずともわかるはずよ。」
そう言いながらフウナさんはダンジョンに向けて歩みを進める。
「……………………」
樹生はと言うと、恐怖の余り言葉が出ず聖剣をグッと握りしめいつでも戦えるように覚悟を決めるのであった。
side~???
「リーシェルさーん!!どこですか~!」
そう呼び掛けるが返事はない。
少女は一人暗闇の中さまよってしまっていた。
「はぁ…………いくら上からの命令とは言え、こんなとこ入りたくないですよ。リーシェルさんも居なくなっちゃうし………」
ため息を着きながら壁によりかかる。
「いくら純正鉱石が必要だからって何で私達にこんな命令が下ったんでしょうか?…………異端者を早く追いかけなければならないと言うのに!」
苛立ちから、足元にあった石を蹴り上げる。
「こんなことをしてる場合じゃないですね。早くリーシェルさんと合流しないと……………」
カサ…………
「!!!」
少女は物音のした方向を警戒する。ここに来るまでに散々魔物に襲われていた。油断は出来ない。
「…………………………………」
じっと物陰を見つめる。そこに人の形をした何かがいることは間違いなかった。オークかゴブリンか……………。
お互いに膠着した状況が続き、苛立ちが増してきた少女はついに攻撃を開始した。
「そちらが動かないと言うならこっちから仕掛けるまで!!
"光よ 聖槍の形となりて 我が敵を貫け" 」
「!!ちょ、ちょっと待って!!」
ライトニングスピアの詠唱が完成し、今まさに射出される寸前で男の声が聞こえた。
「貴方は誰ですか?」
ギリギリで魔術をキャンセルし、警戒を続けたまま少女は質問をした。
「驚かせてすみません。こちらも貴方の事を警戒していましたから……。」
男はそう言うと姿を表す。少なくとも少女の知り合いではなかった。
「まずは、挨拶からですね。自分は九条樹生と言います。君は何て………あれ?」
再度魔術の詠唱を開始する少女。
知り合いではなかったが、敵ではあったようだ。
「そうですか…………………死ね!!」
「何でぇぇぇ!?」
迫り来る光の槍を前に樹生はそう叫び、爆発が全てを包み込んでしまった。
「ここどこにゃ?………まったく、深淵のお嬢様には困っちゃうにゃ~。」
「んにゃ?……にゃにゃ?誰にゃ?」
「…………ガァァァアァァァアア!!!」
「ニャァァアァァアァア!!??!!」




