45. 伝説の鳥
「……………………はぁ~」
「もういい加減決めたら?」
「うーん...」
「フェニックスって言ったらあの伝説の鳥ですよね?」
タツキは卵を眺めながら質問する。卵はほんのりと熱を持ち暖かかった。
「ええ、伝説の魔獣エンシェントウルフやエンシェントドラコンなんかと同等の存在ね。特にフェニックスは希少で目撃した者はここ数百年では皆無。文献や古代の石碑何かにたまに出てくるくらいね。」
とてつもなくレアな存在のようだ。
フウナさんやシルエルよりも人里には出ていかないようである。
「加えてこの模様…………あったわ。これを見て頂戴。」
シリラさんが2つの絵を見せてきた。
右側には赤一色の卵、左側には目の前の卵のような絵があった。
「これはベナ砂漠っていう所にあった石碑の絵よ。それをいろんな文献や情報を元に私が色をつけたものなの。」
「シリラさん絵上手いんですね。」
タツキがそう言うと「ふふん!」と鼻を鳴らすと得意そうに言った。
「これでも昔は絵描きとしてそれなりに稼いだものよ。ああ!そうだわ、これ見てちょうだい可愛いでしょう?」
シリラさんが一枚の絵を見せてきた。そこには一人の可愛らしい赤ちゃんが描かれていた。
「産まれたばかりのセスよ。可愛らしいでしょう?もうほんと天使よ。いや天使何てセスと比べたらナメクジみたいなものね。」
ニコニコしながらしゃべっていたシリラさんがスンッと真顔になりだした。
この人凄いこと言うな………。唐突にナメクジ認定された天使の皆さんが不憫でならないよ。
「でね、こっちの絵が子供の時の絵で、こっちが………」
次々とセスさんの絵が出てきた。何枚書いたんだこの人。
ていうかこのままだと話が進まないな。
「シリラさん。それで卵は………」
「!……ごめんなさいね。つい興奮しちゃって。」
まあ、悪い人じゃないんだけどね。少し………ほんの少し癖があるだけで……
「話を戻すわね。つまりこの卵は特別な種類ということが研究で分かったわ。太古の人たちはこのフェニックスを"太陽の化身" "虹より産まれし者"何て呼んでいたみたいね。」
ページをめくると人々がフェニックスを崇めている絵が出てきた。シリラさんの話によるとその石碑はフェニックスの誕生から死までの一生が描かれていたようだ。
「これを私は炎帝種と名付けたわ。炎を征する者。おそらくフェニックスの希少種といったところかしらね。」
「この卵はそのフェニックスということになるんですか?」
樹生がそう言うとシリラさんが「難しいわね」という。
「この卵がフェニックスという確たる証拠は正直どこにもないのよ。長々説明した上でわるいんだけど……………。そもそも伝説種の研究って全くと言っていいほど進んでないのよ。だからその卵が孵ったら魔物学の発展に大きく貢献できるわよ!」
シリラさんの目に火が灯り始めた。
「タツキ君、貴方にお願いがあるの!」
ガシッと手を握られる。
ギリギリと骨が軋み始める。
「あ、あはは………なんでしょう?」
痛すぎるがここで痛がっていては男が廃る。
「私と一緒に孵化するまでを見守ってほしいの。」
なるほど………そう来たか。
「だいたいでいいんですけど、孵化までどれくらいかかりそうですか?」
もともとカンドラに樹生の包丁を作るために始まった旅である。他に塩漬けクエストの消化やイルドランの冒険者ギルドに依頼しているワイバーンの肉の解体も受け取りに行かなければならない。
ゆっくりしている時間は余り無いんだが………
「そうね………三週間から四週間って所かしら?」
だいたい1ヶ月位か………まぁそれくらいなら大丈夫か?
「こっちにいる間は私が貴方の面倒を見るわ。何か欲しい物や気になる物があれば買いそろえてあげるわよ?悪くない条件だと思うけど?」
確かにデメリットは少ない。
フェニックスの孵化を手伝ってくれるだけでなく、衣食住の提供、さらに欲しい物があれば買ってくれると来た。
だからこそ怪しいのだ。
「何か企んでませんか?」
失礼なことを言っているのは十中承知だがここは異世界である。変なことに巻き込まれ生きていられる保証は何処にもない。自分を守れるのは結局自分なのである。
「お姉さんのことが信用できないのかしら?私はただフェニックス誕生をこの目で見たいだけよ。」
「···························」
樹生は何も言わず、シリラさんを見る。
「……………………はぁ。確かに出会ったばっかりの人にこんな事を言われても怪しいだけよね。いいわ、付いてきて頂戴。」
シリラさんが立ち上がると部屋をでる。樹生は膝の上で寝ていたクウを抱き抱えると後に続き部屋をでた。
「何処に向かうんですか?」
「私の研究所よ。そこじゃないと説明が難しいのよ。」
シリラさんがそう言いながら歩こうとすると……
「お姉ちゃん!!」
ダダダっ!と見たことある人が飛び出してきた。
「セス!? 今日も可愛いわね。それでどうしたの?」
焦っているのか、落ち着いているのかわからない言葉になっていた。
「セスさん!お久しぶりです。」
「タ、タツキさん!?………どうしてここに?いやそれよりも。」
セスさんが今にも泣きそうな声で驚愕な事を言い出した。
「二人が………アリスとマーヤが死にそうなの!!」
「なんですって?」
ついには泣き出してしまったセスさん。流石のシリラさんもこの状況には同様しており、セスさんをなだめていた。
「ワフゥ………(兄さん……)」
クウも不安を感じ取ったのか、目を覚まし不安そうに鳴いた。
「いったい何が起きてるんだ?」
樹生も嫌な予感を感じていた。そして事件や困り事とは重なるものである。
「学長!!」
今度はノマンさんが息を切らしながら走ってきた。
「ノマン先生……何かあったのですか?」
ただならぬ雰囲気のノマンさんが飛んでもないことを言い出した。
「ドラゴンのダンジョンが…………ドラゴンのダンジョンが強大な魔法により消滅しました!!」
「……………………はあ!?」
「………マジかよ」
「アウゥ……(やっちゃった……)」
四人全員が慌てふためくなか、クウだけが何故か困り顔と言うか………呆れ顔をしていたことをこの時の樹生は気づかなかった。
「ワフッ!(知ーらない!)」
~saidフウナ
「………シルエル、生きてるかしら?」
瓦礫の山を吹き飛ばし、シルエルが出てきた。
「ゴホッゴホッ………あいつ今度あったら八つ裂きにしてやるわ!」
何やら戦闘があったようだが。
「すぐにタツキの何処に行くわよ。アイツは危険ね。」
「そうね。ダンジョンも吹き飛んじゃったし。まぁお宝は無事だけどね。」
ダンジョンが吹き飛ぶ際自分達だけでなく、周りにある戦利品にも結界をはっていた。
「タツキへのお土産を台無しにされたくないからね。」
荷物をまとめ、ダンジョンを出るフウナさんとシルエル。
そこにはすでにダンジョンの形跡はなく、ただの大穴がポッカリと空いていた。
「次あったら逃がさないわよ。必ず殺してあげるわ♪」
「ええ、もちろん。」
いったい何をされたのか………フウナさんとシルエルは怒りに燃えていた。
その目線は逃亡者のいる方角というよりは位置をはっきりととらえていた。
~said ???
「ここまで来れば、大丈夫でしょう。」
綺麗な礼服に身を包む穏やかな少女。
その手には天秤剣が握られていた。
「貴方様でも倒しきれないとは………奴の召喚した悪魔は相当なようですね。」
一方もう一人の女性はシスター服を着用していた。手には聖書?らしき物を持っており金と銀で作られた目隠しを付けていた。
「一刻も早くあの異端者を捕まえなければ………。この世界に悪が蔓延してしまう。」
ギリギリと天秤剣を握り締める少々。その雰囲気には並々ならぬ気配が感じられた。
「異世界人タツキ!絶対に逃がしませんよ!」
何故か、異端者認定されていた樹生であった。
どうする樹生?ニコニコしながらクウを撫でている場合じゃないぞ?
どうする樹生?ナメクジ認定された天使よりも異端者認定された自分を心配した方がいいぞ?…………まぁ、知るよしもないか。
頑張りたまえよ少年。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました!




