30. 紫電
そういえば、あなたどうやって信託を下すつもりなのかしら?
ふっふっふ………ずばり!夢よ!
イルドランを出て一時間ほど、ゆっくりとしたペースで樹生達はカンドラに向かっていた。
「ええっと最終地点がカンドラで、それまでにいくつか依頼を終わらせるのよね?」
シルエルが樹生に聞いた。
「そうだね。まぁどの依頼も大変そうではあるけどね」
「ふふ、大丈夫よ。私たちがいればどんな敵も相手にならないわよ。」
どや顔を決めながらフウナさんはそういった。
……こういうのをフラグって言うんだよなぁ
「フウナさん、あまりそういうこと言うと……」
グルルル!!!!
ほらぁ……やっぱり出たよ。
「ふん、たかがウルフが私の前に立とうなんていい度胸ね!」
ゴウッと風が吹き荒れる。
「ふん、口ほどにもないわ。」
風が止むとウルフ達は姿を消していた。
流石はシルエルである。
しかし………
「あのウルフ達、ガリガリに痩せてたなぁ。」
樹生の言葉にフウナさんが頷く。
「ええ、それにこの森、生き物の気配が少ないわね。」
鬱蒼とした森林を前にタツキ達は不穏な気配を感じ取っていた。
「それじゃあ………行くか……」
···························
「嫌な感じね。森自体が死んでしまってるのかしら……」
「そうね……微精霊の気配も無いわね。いったいどうなってるの?」
「クゥーン……」
クウがよりかかってきた。あまり気分がよくないようだ。
「フウナさん、一気に抜けちゃいましょう……」
「そうね。しっかり掴まっているのよ。」
フウナさんが走り出そうとしたその時だった!
「グガアアアアアアアア!!!」
「っ!!、何だ!」
急に轟く咆哮。聞いたこともない恐ろしい叫び声だが、一度聞いただけではっきり分かることがある。
それはあまりにもどす黒い怨嗟を纏った咆哮であった。
「まずいわね。こっちに向かってくるわ。シルエル、クウと樹生を頼んだわよ。」
「·········」
フウナさんの雰囲気にクウが悲しい顔をするが、
「あらあらクウ、大丈夫よ。この程度敵じゃないわよ。」
クウは少し不安そうな顔をするがすぐに切り替え、周りの警戒を始めた。
「フウナ、気を付けてね。あれは多分………」
ドカァァァァン!!
すると声の主が木々を吹き飛ばして現れた。
「ま、マジかよ……」
「はぁ……本当にここで何があったと言うの?」
目の前に現れたのは巨大なドラゴンだった。
だが様相がおかしく、全身が腐りはて所々から骨が飛び出しており、全身に斬られたような後が無数に残っていた。
どう見たって生きている風貌ではなかった。
「ドラゴンゾンビか!!」
「グガアアアアアアアア!!!」
むわっと濃い瘴気が立ち始めた。
森の異変もこいつが原因だろう。
「この瘴気……タツキには猛毒ね。吹き飛ばすわ!
ウィンドトルネード!!」
シルエルが魔法を唱えると、巨大な竜巻が発生し瘴気が吹き飛ばされた。
だがドラゴンゾンビがいる限り瘴気はおさまらないだろう。
「せめてもの慈悲よ。一撃で終わらせてあげるわ。」
フウナさんがそういうと全身が帯電し始め紫色の電流が流れ始めた。
「フッ!」
バリバリバリバリッ!!
ドカァァァァン!!
巨大落雷がドラゴンゾンビに直撃した。
「くっ!………タツキ!離れるんじゃないわよ!」
シルエルがシールドを張ってくれたおかげで巻き込まれずにすんだ。
落雷の衝撃がおさまるまで数十秒………
「カッ……」
ズゥゥン…………
ドラゴンゾンビが倒れた。全身が真っ黒になり所々が溶け始めていた。
「ドラゴンゾンビは高い再生能力が特徴なんだけど……流石はフウナね。」
聞くとドラゴンゾンビは半身を吹き飛ばされる程度なら一瞬で回復してしまうそうだ。倒すためには体内の何処かにある核を破壊しなければならないそうだが………
「ふふ、今ので3割ってとこかしらね♪」
どうやらまだ余力があるそうで……
「それにしても、ドラゴンに合う前にドラゴンゾンビに会うことになるなんてな………」
樹生の呟きにシルエルが反応した。
「さっきのアイツは、フォレストドラゴンっていう種類よ。
普段は穏和な奴でね、ドラゴンゾンビになるような種類ではないと思うんだけど……」
う~ん、そうなのか?
じゃあ、あのドラゴンゾンビはいったい………
「ワフッ!(見て!)」
クウが赤黒い塊と、綺麗な……指輪?を持ってきた。
「ありがとう、クウ……うわ!」
拾い上げようとすると、フウナさんに手を叩かれた。
「不用意にさわっちゃダメよ。核の方は良いけど、その指輪は危険よ。」
どうやらこの指輪は危険なものであるようだ。
「ははっ……すごいわねこの指輪。怨念とか呪いとかがぐちゃぐちゃに混ざってて凄いことになってるわよ。」
あっぶねぇ………
なんちゅうもん拾おうとしてたんだよ俺……
「あれ?クウは大丈夫なの?」
「クウは高い呪術耐性を持っているから、これくらいなら問題ないわ。」
なら良いんだけど……‥‥
「これどうしようか?」
「そうねぇ……放置すればさっきみたいなことに成りかねないし。」
う~ん………
「タツキ!ちょっとそれ貸して!」
シルエルに言われたため取ってもらった
「····················はい。出来たわよ。」
うん?何か変わったのか?
「浄化したのよ。少し時間がかかっちゃったけど………もうただの指輪よ。」
マジかよ…‥
「シルエル……ありがとう。」
シルエルを軽く撫でると、ふふん!と胸を張っていた。
それにしても、こんなヤバい呪物なんて自然に出来るものなんだろうか?
樹生はそんな事を考えながら、指輪を保管庫にしまったのだった。
ドラゴンゾンビ………骨なら出汁を………
うぅ……ひどい匂いだ。止めておこう。
樹生……異世界でもゾンビは食えんのよ。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました!




