26. 焼き魚は時間がかかる
もう………しっかりしてちょうだい…
あなたの眷属よ。あなたがしっかりしなさい。
朝起きたら、周りが血と臓物にまみれていたことがあったが
今回は少し違ったようだ。
「う、う~ん……」
「……シュワシュワぁ……ふふふ……」
「い、息が……」
息苦しさの正体は顔面に張り付いたシルエルが原因だった。
それともう一つ……
「スピー……」
胸の上でクウが静かに寝息を立てていた。
そりゃくるしくもなるな。
タツキは顔に張り付いたシルエルを優しく引きばかし、胸の上のクウを静かに動かした。
「………うーん、はぁ、良い朝だ。」
グーっとけのびをして、周りを見渡す。どうやらフウナさんは何処かへ行ったらしく姿がなかった。
「まぁその内帰ってくるだろうし、朝ごはんでも作ろうかね。」
早速朝ごはんの準備に取りかかろうとしたところで、声がかかった。
「うーーん!……タツキ!おはよう!」
シルエルが起き上がり、元気に挨拶をした。
「ああ、シルエル。おはよう。今から朝ごはんを作るから少し待っててくれ。」
そういうとシルエルは目を輝かせた。
「朝ごはん!朝から食べられるのね!」
シルエルがくるくると回りながら喜んでいた。感情表現が豊かな精霊である。
「いいことを思い付いたわ!タツキ!火を起こしておいてちょうだい。すぐに戻るわ!」
「えっ?ちょっと……」
タツキが引き留める前にどこかへ行ってしまった。
いったい何をするつもりなのか……
とりあえず火を起こし、いまだ寝ているクウを撫でながら待つことにした。
side~シルエル
「ここにいるわね!」
彼女は星見の森の中にある湖に来ていた。
「ふふふ、逃げられるとは思わないことね!」
シルエルがそういうと湖にいたすべての魚が中に浮いた。風属性魔法の応用である。本来ならこんなことは出来ないが、精霊である彼女だからこそできた芸当である。
「う~ん……あ!あいつ何て良さそうね!」
シルエルは何匹か、魚を選んでタツキのもとへ戻るのだった。
「しかし、何を持ってくるのやら……」
少し嫌な予感がする。
フウナさんも何処かに行ってしまったし、何かあった時に対応できるかどうか。
「…………まぁ、何とかなるか」
しばらくして………
「タツキ!戻ったわよ!」
「ああ、お帰り………」
ドン!!
ビチビチ!!ビチビチ!!
「なんじゃこりゃああ!!」
タツキの目の前に体長2メートル以上ある巨大な魚が五匹いた。すべて別の魚で見たことあるような奴や、始めてみる化け物もいた。
「あの……シルエルさん?これは……」
「ふふふ、朝ごはんよ!全部美味しいのよ。」
シルエルは誇らしげに、胸をそらしていた。
「取ってきてくれたのは嬉しいけど………どうしようか?」
ビチビチと暴れまわる魚達。ヒレや尻尾など鋭く俺が手を近づければ、一瞬で切られてしまうだろう。
「とりあえず、頭を落とすわね。」
シルエルがそういうと、暴れていた魚達がピタッと魚が動かなくなった。まるで何かに押さえつけられているような……
「えいっ」
ザンッ!
「うわぁ……」
タツキも生きた魚を捌いたことはある。だが……これは……
「さぁ!食べましょう!」
「………ああ、塩焼きにでもするか」
食べることの意味を改めて考えさせられた樹生であった。
パチパチッ………
クツクツ
「あら、今日は魚かしら?美味しそうね。」
どうやらフウナさんが帰ってきたようだ。
「フウナさん!お帰りな……」
ドサッ
「お土産よ。立派でしょ?」
でっけぇ鹿だなぁ………こんなのどこにいたんだ?
「あら、こいつはビックディアーじゃない。さすがね」
シルエルがフウナさんを称賛していた。
君たち、一瞬で仲良くなったね。
「ええ、朝の運動がわりにちょうどよかったわ。」
このレベルが運動がわりか。
相変わらずの最強っぷりに頼もしさを覚える樹生であった。
「そうだ!タツキ、魚が焼けるまでしばらくかかるでしょう?ついてきて欲しいの。」
「まぁ、いいけど……。フウナさん、ちょっと行ってくるね」
フウナさんは頷くと、クウのもとへ行った。
「ここよ」
シルエルにしばらくついていくと開けた場所に到着した。
「あれは?」
広場の中央に剣が刺さった石が鎮座していた。
選定の剣って奴ですかねぇ……
「あれは聖剣よ。聖剣オメガプロキシモ、風属性の魔力を帯びているのよ」
へぇ~
「あれは、ずっとここで主人を待っているのよ。」
へぇ~……そうなんだ~……
「さぁ!抜いちゃいましょう!」
「そんなことだと思ったよ!!っていうかあれってそんな簡単に抜いちゃっていいの?勇者とか英雄とかそういう人達が抜くもんじゃないの?」
タツキは何となくわかっていた。これ抜けちゃう奴だ。
「何言ってるのよ……エンシェントウルフと従魔契約結んでるのよ、今さら聖剣の1本や2本何てこと無いわよ。」
シルエルに引っ張られながら、剣に近づいていった。
「さぁ、早くやらないと魚焦げちゃうわよ?」
············
「………はぁ。」
タツキは剣の柄を掴むと力いっぱい引き抜いた。
その瞬間、 リンッと心地いい音が響き渡った。
どうやら聖剣に認められたようだ。
「さぁ、用事はすんだわ。朝ごはん食べましょう。」
シルエルはそういうとピューっと戻っていった。
「まっ、待ってくれよ!!」
聖剣は強いが使い手が雑魚なため、一人は相変わらず危険なのである。
しかし、なぜ聖剣は樹生を選んだのだろうか?
樹生はそんなことを考えながら、シルエルを追いかけた。
聖剣オメガプロキシモはなぜ樹生を選んだのでしょうか?どうやら女神たちの計画が絡んでいるようですが、果たして?
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました!




