104. 勇気の証
「なんだっけ...あれ?水ってもっとぼこぼしなかったっけ?」
「油ね。あんなにいっぱい何に使うのかしら?」
「よし!終わり!!」
ひたすらにサンドイッチを作り、創り、造り......フウナさん達を満足させた後、保管庫にある肉全てを取り出す。
「以外と量あるんだな......」
肉の在庫が少なくなってると思っていたが、予想以上に量があった。
「うーん......全部使うのは無理だな。これ......あれか!ブラキオサウルスみたいな魔獣の肉だな......」
でーん!っと存在感のある肉。生姜焼きにして食べた記憶がある。
「ならトンカツだな。」
そう言いながら切り分けていく。本当は唐揚げを作りたかったのだが......鶏肉を使いきっていたことを忘れていた。
「丸の状態ならいっぱいいるんだけど捌けないからなぁ…」
肉を切り分け小麦粉をつけていく。
「私も手伝うわ!!」
「うん?シルエルか!ありがとう」
「むふふ...タツキの手伝いするのも久しぶりね」
「確かに......塔の中じゃご飯食べる人数も少なかったしあんまり量も作らなくて良かったからね。誰かと一緒に作るのはなんだが久しぶりだよ。」
「そんなこと言いながらさっきまで、リリアとリルと一緒に作ってなかった?調子がいいわね」
「ははは......」
「まっ、良いわ。それよりも......話!聞かせてちょうだい!!」
「塔の中のこと?いいよ......まずは......」
「あら、それなら私も聞くわ」
「マスター......私も聞きたいです」
「私も聞く。お兄ちゃんがどんな活躍したか気になるし...」
「バカマスターの武勇伝......気になる...」
わいわいと皆に囲まれながら話をする。その間もパン粉付けは忘れない。
「あれはやばかったにゃね~...」
「私が居なくなってからだいぶハードモードじゃない…...ニャンコもバカマスターもよく無事だったわね...」
メアとの冒険を話し...
「は?なにそいつ......お兄ちゃんを拘束?羨ま......許せない...」
「クウ様、そいつは私が完膚なきまでに叩き潰しましたから大丈夫ですよ」
アラクネに捕まり、いただきますされそうな瞬間もあった。アイギスがいなければどうなったことか......
「それよりも......地竜とタイマンを張ったのですか?
マスター......勇敢になりましたね」
「状況が状況だったからね!?もう2度としたくないよ......」
アーサーが流石と言わんばかりに称賛してくれるが樹生自信何故あんな勇猛果敢だったのか......理解できてない。
「おそらくアレス様の加護かしらね。タツキ、貴方1度自分がどの程度の存在なのか認識した方がいいわね」
「人を化物みたいに言わないでよ…...ただでさえ存在感薄れてるのに......」
「タッツーそれマジで言ってる?」
フウナさんとリルに呆れられる。
「そ、それよりも!頭の傷は大丈夫なのですか?」
「そうよ!聞いててビックリしたけど......見せなさい!!」
シルエルにグイっと髪を上げられる。
「おもいっきり......傷になってるじゃない!!」
「うわぁ......これは...痛そうですね......」
「嘘でしょ!?完治したと思ってたのに......」
「ほんとだにゃ......応急処置とは言え、キレイに治ったと思ってたにゃ......」
リリア、シルエル、メアが心配そうに傷を眺めていた。
「すぐに治して......」
「ちょっと待って!!...............」
樹生は傷を触る。
「これも思い出か.........」
「何言ってるのよ......」
「バカマスター......あんた脳ミソおかしくなったの?傷なんて残しておいてもロクな事無いわよ」
考え直せと言わんばかりにシルエルが見つめてくる。
「大丈夫だよ。それにさ......勇気の証だとも思うからさ。ずっと後ろに隠れて震えてただけだったけど、1歩踏み出せた......この傷はそんな勇気の証じゃないかな?」
「弱いくせに...調子乗ってるんじゃないわよ!」
「キシー!おまえやっぱり良い奴だな!!心配してくれてありがとうな!!」
「ちょっ!離しなさぁぁい!!」
キシーを抱き抱えて、ギューっと抱き締める。
「あっ!ずるい私も!!」
「あぁぁ!なら私も!!タッツーギュー!!」
顔面にクウが飛び付き後ろからリルが抱き締めてくる。
「にゃはは......ワチャワチャしてるにゃね」
「見慣れた光景ですがね......メアも交ざっては?」
「遠慮しておくにゃ......」
メアがトコトコと歩き初め温まり始めた油をじっと見ていた。
「メア様?どうかしましたか?」
その様子が気になったリリアが声をかける。
「なんか気になっちゃってにゃ......こうちょいちょいっと...」
スーっと油に手をいれようとするメア
「あ!危な......」
料理をするリリアなら油の危険性を理解している。止めようと声を上げるが既に遅し......
「危なっ!!メア...なにやってるの?」
「にゃにゃ!タツキ!?」
なんともみくちゃにされていた樹生が一瞬で包囲を抜け出しメアを抱き抱えていた。
「危ないだろ......油に手をいれるなんて...」
「ごめんにゃ......好奇心が勝ってたにゃ...」
好奇心は猫をも殺すと言うが......
「やめてくれよ…...火傷なんて辛いだけだぞ?」
本気で心配する樹生にメアはしょんぼりしている。一方フウナさん達はあんぐりと口を開けていた。
「今......何が起きたのかしら...」
「分からないわ......ただ一瞬物凄い気配が...」
「あれは......人の出せるモノなのでしょうか?」
「お兄ちゃん......」
「んー......どこかで感じた気配なんだよねー......なんだっけ...」
樹生に対して得たいの知れない何かを感じる皆だったが......キシーとアイギスだけはその正体を感じ取っていた。
(今のはアレス様の気配!まさか......)
(戦神アレス......いったい何を考えてるのかしら…)
「キシー......協力しましょう」
「えぇ......ただ私たちだけじゃ万が一の時に押さえきれないわよ?」
キシーの言葉にアイギスは暫く考えある計画を持ちかける。
「なるほど......"彼ら"を引き込むのね。あと"彼女"の覚醒を待つと...」
「はい......マスター保安計画です!!」
「今さらだけど......いや、何でもないわ」
フンスッと意気込みを入れるアイギスを前にキシーは何も言えなかった。
「ちょっと!!何よ今のは!!」
「おかしいわ......"加護"程度でアレスの力を使うことは出来ない!!」
「まさか.........いや、でも......そんな事って......」
「よほど彼の事が気に入ったのかしら…...用意に手出しできなくなったわね...」