103. 合流と自己紹介
「どうだったの?」
「了承してくれたわ!むしろ任せてほしいと喜んでたわね」
「あの子もタツキ君の事を心配してたものね......」
「そろそろ見えてきて......」
一瞬の出来事だった。メアもリルもアイギスもリリアもアーサーでさえも気づく前に事はすんでいた。
「タツキが消えたにゃ!!」
「タッツー!?まさか落ちて....」
メアとリルが下を覗くが人が落ちたようには見えない。
「まさか......テレポートですか!?」
「マスター!!今度はどこにつれてかれたのですか!!」
リリアとアイギスは必死で樹生の魔力痕をたどろうとしていた。
そんな中アーサーだけは特に心配する素振りもなく、むしろ嬉しそうに笑っていた。
「気持ちは分かりますが......」
アーサーは背中で騒ぐ、皆に落ち着くよう説明を始めた。そして当の樹生はというと......
「んぐぐぐ............ぷはぁ!」
顔面に張り付いていたシルエルを引き離す。ようやく息が吸える......
「本当に本当に......心配したんだからぁぁ!!!」
シルエルは樹生の手のひらの上で号泣。クウとフウナさんからは熱烈なペロペロを顔面に受けていた。キシーは無言だか膝の上からピクリとも動こうとしない。
「ははは......皆元気そうで何よりだよ」
樹生はアーサー達が来るまで、ひたすらに皆を宥めるのだった。
その後アーサー達が合流したのだが...
「にゃにゃにゃ!!君がエンシェントウルフかにゃ?」
「誰?君はお兄ちゃんのなに?」
「.........目が据わってるにゃ」
「答えて!!」
「タツキ助けてにゃ~......挨拶しただけにゃのに......」
クウにガンづめされるメア
「人間......?でも魔獣の気配が......」
「よく分かったね!流石は精霊だね!!」
「なんだか知らないけど...変なことしたら粉にするからね?」
「あはは~......やれるものならね~...」
シルエルと睨み会うリル。目が笑ってない......
「貴方は......聖剣ですね」
「そっちは宝珠かしら?バカマスターが世話になったわね。それであんたは?魔族?」
「リ、リリアです!種族は......冥族ですかね」
「ふーん......ま、詳しくは聞かないけど......今後は気を付けなさいね?」
「はい......」
「キシー、あまり責めないであげてください。」
「アイギス......はぁ、別にそんなつもりは無いわよ。バカマスターが許してるんだし、私が責めることは......ちょっとなによその目は...」
「キシー様はタツキさんが大好きなんですね!!」
「なっ!そ、そんな分けないでしょう!?あんなポンコツの事...だ、だ、誰がす、す、す、す、す、」
プシューと柄から煙を出し始めた。見ない間にスモークを搭載したようだ。
「ふっ......流石は我が聖剣......」
「ふむ........頭以外には異変は無いわね。少したくましくなったかしら?」
「それは私も思いました。やれば出来るじゃないですかマスター」
フウナさんとアーサーは樹生の身体検査をしていた。どうやら頭に異常があった様子...
「詳しい話は夕飯後にでも聞きましょう。タツキ!肉です!いっぱい食べたいです!!」
バシバシと地面を叩くフウナさん。
「まだお昼にもなってないけど?まぁでも肉か.........」
うーんと考える。
「わかった。お昼は簡単になっちゃうけどいい?」
樹生の言葉にコクコクと頷く。
「OK!それじゃあ作るから......」
「タツキさん手伝いますよ!」
「あっ!私もやるー!人間の手足まだ慣れないからね」
リリアとリルがそう言ってくれた。
「本当か?助かるよ......」
樹生は調理道具を出し、材料をとろうと手を伸ばす。
「とりあえずお昼はサンドイッチにしよう。リルは野菜を切ってほしい」
「任せて!」
「リリアは卵のタルタルを作ろうか」
「タルタル?は分かりませんが......頑張ります!」
「それじゃあやっていこう」
樹生は2人に指示を出しながらパンを切っていく。
「ゆで卵を作るんだけど......半熟ぐらいで止めて」
「はい......それにしても凄い量ですね」
グツグツと煮える大鍋にはいったいいくつの卵があるだろうか?100は入れたと記憶している。
「剥くのは一緒にやろうか......うん?リル?」
「なにー?」
今まさにトマトに包丁を入れようとしていたが......
「その手の形は危ないよ......」
「手の形?」
トマトに添える手はパーになっていた。これでは指を切る可能性がある。
「こういう風に......猫の手って言うんだけど...」
樹生が手本を見せるが、どうもピンときてない様子。
「うーん......ちょっと失礼」
後ろにまわるとリルの手に手を添える。リルのが背が高いためなかなか不恰好だが......
「そうそう力を抜いて.....」
「..................あぁ......猫の手......なるほど、メアチーの手ってことだね!ありがとう?」
「わかった?じゃあ何かあったら言ってね」
去っていく樹生を眺めながらリルはニヤニヤが止まらなかった。
(なになに今のー!!なんか胸がグツグツして顔から火がでそー!!)
プルプルと震えながらも何とかトマトを切り終えたリルは......
「野菜切れたよ!ごめんちょっと走ってくる!!」
「えっ?あ、うん......行ってらっしゃい!」
そう言うと物凄い勢いで走っていた。
「リルさん行っちゃいましたね......」
「どうしたんだろうね......」
(マジですか......タツキさん...)
リリアから向けられる、悲しい視線に気づくこと無くひたすらにゆで卵の殻を剥いていた。
暫くしてから戻ってきたリルは自分で作り出した水球に飛び込み汗を洗い流していた。その様子を見ていたクウとシルエルがなかに飛び込んだ瞬間、洗濯機のようになっていた水球に飲み込まれ目を回していた。
「皆楽しそうだね」
「.........あれを楽しそうと思えるのはタツキさんくらいですよ」
「そうかな?実際楽しそうだし......」
「それもそうですかね......って、あれ?」
リリアが次のサンドイッチを作ろうと手を伸ばすがパンが無くなっていた。あれほどの量がこんな早く無くなるわけないと樹生を見て絶句した。
「よし!みんなー!ご飯だよー!!」
「「「「「「いただきまーす!!」」」」」」
「流石タツキさんです!こんな速さで作るなんて!」
「ははは、ありがとうね。リリアも食べてきな?」
「はい!いただきます!」
リリアが食事の輪に加わったのを見て樹生の表情が変わる。
「ここからが......本当の戦場だ…」
俺が作る速度など驚くに値しない。真に驚くべきは......
「「「「「「「おかわり!」」」」」」」
「了解!すぐ持ってくよ!」
その食べっぷりである。