しょうくんとくまのぬいぐるみ
僕は茶色いクマのぬいぐるみだ。
しょうくんのぬいぐるみ。
しょうくんが生まれた日、ママが僕を小さな小さなしょうくんの隣に置いて言ったんだ。
「しょうに初めてのお友達をプレゼントするわね」
僕はそれからずっといつもしょうくんと一緒だった。
一緒にお昼寝して。
泣いてばかりいたしょうくんを隣で見てた。
少し大きくなったしょうくんは僕の手や足をヨダレでベトベトにしてニコニコ笑ってたね。
はいはいができるようになると、僕の上を乗り越えていった。
もう少し大きくなって、歩けるようになったしょうくんは、僕の足を持って引きずって歩いてたね。
おかげで顔が泥だらけになったけど。
僕はしょうくんとお散歩するのが大好きだったよ。
春夏秋冬・・・。
何度も何度も繰り返して。
しょうくんはどんどん大きくなっていったね。
僕はいつもそれをじっと見てた。
「がっこう」と言う場所に通うようになり、家にほとんどいなくなって。
それでもしょうくんはいつも僕を抱きしめて一緒に寝てくれた。
しょうくんは、僕の耳を触るのが好きだったよね。
僕はそんなしょうくんのぬくもりが大好きだったのに・・・。
しょうくんはもっともっと大きくなって、僕には構ってくれなくなっていった。
夜も一緒に寝てくれない。
僕は部屋の隅っこでしょうくんの暖かい手が僕を抱き上げてくれる日をずっとずっと待っていたんだ。
ある日、しょうくんは大きなダンボールの箱を持って部屋に入ってきた。
ベッドの下や、クローゼットから昔僕らが一緒に遊んだおもちゃを取り出しては、その箱に投げ入れて行く。
何をしているんだろう?
不思議に思っていると、しょうくんが僕を振り返った。
ゆっくりと近ずいてきて、僕をそっと持ち上げた。
久しぶりのしょうくんの手。
僕は嬉しくてじっとしょうくんの顔を見つめた。
しょうくんは、僕をじっと見つめ、そっと耳を触った。
そして僕をそっと箱の中に座らせてくれた。
何が起こるのかわからず、僕は箱の中かからしょうくんを見上げていた。
と、突然視界が狭くなって行く。
しょうくんがダンボールの蓋を閉じ始めたのだ。
そうか、僕は捨てられるんだ。
絶望が胸に押し寄せた。
しょうくん、待って。
捨てないで。
僕はまだしょうくんと一緒にいたい。
どんなに願っても僕の気持ちは彼に伝わることはない。
視界から大好きなしょうくんの顔が消えた。
僕は暗闇に取り残された。
それから一体どうなったのか。
僕は暗闇の中、ただただ、待っていた。
しょうくんがもう一度箱を開けてくれるのを、ずっとずっと待っていた。
どのくらい待ち続けていたのか。
それはわからないけど。
ある日突然に眩しい光が箱の中に差し込んだ。
眩しくてよく見えない。
その光の中から、何かが僕に伸びてきた。
小さな手だ。
その手がそっと僕の体を抱き上げた。
光になれてきた僕の目に、小さかった頃のしょうくんによく似た男の子が映った。
しょうくん?
僕のところに帰ってきてくれてたの?
僕の胸が暖かくなる。
「パパ、このクマさん、僕もらっていい?」
小さなしょうくんがそう言いながら後ろの男の人を振り返り、僕を手渡した。
しょうくんだ。
大きな大人のしょうくんがそこにいた。
大きくなったしょうくんは、優しげな顔で僕を見つめ、そっと僕の耳に触れた。
また会えた。
しょうくん、僕、ずっと待ってたよ。
しょうくんは、小さな男の子の頭をそっと撫でた。
「このクマさんはね、パパのお友達だったんだよ。ずっと赤ちゃんの頃から一緒だったんだ。これからは、君が一緒にいてあげてくれるかい?」
「うん!」
しょうくんが僕を男の子に渡した。
小さな男の子は僕をぎゅっと抱きしめた。