頭蓋のロンド
※女性を侮辱する化け物が登場します。苦手な方は読まないでください
愛されない女から生まれた愛されない娘は公爵の娘。
母が死に、二・三日もしない内に父親は彼女より年上の異母姉妹を連れてきた。
愛されない娘は階段下の物置き部屋に追いやられた。正統な母から譲り受けた爵位は彼女のもので、父親はそんな娘の後継人でしかありはしないというに散々に公爵の身分をひけらかしとうとう前当主たる祖父に彼女の身柄を要求され、そして公爵家から追い出された。
余りにも愚かな一家は正統な血筋の娘に罵詈雑言をあげて暴力を奮おうとしたが、裁判沙汰や更に不名誉な大事にしたくなければ疾く失せろと言われれば下がるしかない。
とりわけ、愛された異母姉妹の娘はこれから贅沢三昧をして幸せになれたはずなのにと泣いたが、誰が気にしようものか。
……ああ。一人だけ彼女にその細腕を伸ばしたものがあった。
人に近く見えるだけの人にはあらざるもの。首を手にして足が浮き上がるかそうでないかの位置で命を永らえさせながら、その化け物ははしたなく晒された白い足にその触手を伸ばし始める。
「一体どこから臭うのかしらと思ったら、醜い醜いお前からね?その悍しい汚れた穴をどれだけ使い込んだの?ただでさえ人は、女は穢れた血を垂れ流し臭くて臭くてたまらないのに。汚液の臭いをこれだけ発しているのだもの。恥ずかしいという感情も人には無いのかしら?みっともないわねえ」
娼婦宛らの短いスカートを捲れば、剥き出しになるそこをスッと目を眇めて興味を失ったように視線を外し。汚い汚いと頻りに口にした後ぎりぎりと万力でこじ開けて行くように足を両方から引っ張り関節を外した。喚く声が姦しく響く。
「私の森にお前みたいなのは要らないの。そこにあることすら罪で罰なの。何故私の聖域を涜すような真似をしたの?私が怒らないとでも思っていたの?」
ブチブチブチブチと繊維質な何かが切れる音と耳障りな狂った音が混ざり、不快さに人ではないものが表情を更に歪めたような気配があった。
「妹のせい?馬鹿みたい。貴方が自分の足で私の聖域に入って来たのは知ってるわ。それに貴方の言う妹も、何なら祖父母だって知ってるわよ。悪しき血筋の女たちのことでしょう?国の為に禍つものと契約を交わした祖先のせいで不遇な生涯を背負わされる女の生まれる家系として人にも化け物にも有名だもの。国の存亡にも関わるとかで対処されるのが早いらしいわね。……実際、貴方も国の癌になる前に排除されたのではなくて?」
異世界からの魂なんて異分子は潰すに限るもの、と言っては赤く傷口を晒す裂傷から中に入り込んで内臓を搔き乱す。
「どうせ食べるなら魂は汚れていても清らかなる乙女が良かったわ」
そうして人ではないものは幼かった頃の愛されない娘を思い浮かべて嘆息した。
悲しみと魂を雁字搦めに括られた娘は乳臭さと小便臭さはあれ、穢れのない肉体の持ち主であった。森に入り込んだのだとて義母に獣にでも食われるか浮浪者や猟師などの汚らわしい身分の男にやられてしまえとの意があり、護衛もつけられず途方に暮れながら静かに裸足で獣道を進んでいた。
人ならざるものが気紛れを起こし、人に化けて彼女を助けなければとっくに骸も晒さずといったところか。
「悪しき血筋の彼女。今頃、次の女を産む為に見た目は良いけど同じ位に呪のかかった男と添わされているのかしら?この国の上の方って、本当に臭いものばかりだものねえ」
国の繁栄の為に不遇な目に遭い続ける女たち、土地を潤す為に本来の定命の半分しか生きられぬ短命の一族、隣国からの脅威から救われる為に双子の片方をもう片方に殺させ禍つものの器とし敵にぶつけ玉砕させるもの。
邪悪極まりないのは果たして人ならざるものか、人間か。