表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

リアル

作者: Aju

 8枚の白い翼を持ち、銀色の中世騎士のような鎧を纏ったそいつは、猛然と省吾たちの部隊に空から襲いかかった。

 一瞬で数人が鋭い爪に引き裂かれて、絶命した。


 武器さえ持っていない。


 身体能力が違いすぎる! 相当に身体強化しているらしい。

 いったい、いくら使ったんだろう?

 省吾には考えられないような金額なんだろうな。

「強いぞ! フォーメーションSだ!」

 真っ赤な鎧に身を固めた『隊長』が叫んだ。

「えっ?」

 省吾は一瞬まごついた。 

 Sって何だったっけ?

「Sって言ったろ、クリオネ!? 右展開しろ!」

 隊長のガルーダがイラついた声を省吾に向けた。クリオネは省吾のファイティングネームだ。

 それが省吾が聞いた最後の言葉になった。

 身をかわす間もなく、省吾の身体は銀色のやつの鋭い爪に無残にも引き裂かれた。


 淡い光に満たされた回復室で、省吾は先に『殺された』仲間とともにブースに横たわってエネルギーチャージを受けていた。

「やあ、クリオネさん。目が覚めた?」

 隣に横たわっていたカンパネルラが話しかけてきた。

「あ、まあ・・・、一瞬でした。」

 省吾は隊長の指示がすぐに分からずに、ドジったことを隠した。

「だよねー。ズルいよねー、あいつ。どんだけ課金してんだよ!って。」

「相当ゲームマネー貯めてるベテランなのかなぁ・・・。」

 一つ向こうに寝ているシリウスが言った。

「ベテランはあんなことしないよ。だって面白くねーもん。」

とこれはペガサス。

「どーせ、入ってきたばっかの金持ちだろ。飽きたらすぐ出てくさ。」

 カンパネルラが吐き捨てるみたいに言った。

「何やったら、そんなに稼げるんですかね? カンパネルラさんは、リアルでは何してるんです?」

「あ?・・・」

という非難を込めたひと音とともに、そのあと全員の会話が途切れた。


 しまった。

 と、省吾は思った。


 NGだったよな・・・。特に、こういうコミュニティでは——。


 しばらくして3人のチャージが完了したチャイムが聞こえた。

「じゃ、先に戻ってるから。」

というシリウスの一言だけが、丸めた紙くずみたいに省吾の胸の上に放り投げられ、3人ともそこから消えた。


 省吾はしばらく、後悔を口の中で転がしていたが、やがて、目の前の「ゲームアウト」のボタンを押した。


 狭っくるしい部屋の中で、省吾はヘッドセットを外し、リストバンドとレッグバンドも外した。

 外はもう薄暗くなり始めていた。

「バイト、行かなきゃ・・・。」

 呟きながら、のろのろと立ち上がる。


 いろんなコミュニティを渡り歩いてきたが、どこでも浮いた存在になってしまって、だんだんと行きやすいところが少なくなってきている。

「そのうち、リアルにしか居場所なくなったりしてな・・・。」

 省吾は自虐的な笑いを浮かべながら呟いた。


 それって・・・・()()()()()()()()ってことじゃん。


 作業服に着替えて靴を履き、玄関ドアの生体認証パネルに手をかざす。

 ドアがパタンと外に開いた。


 省吾が廊下に出ると、ドアは自動で閉まる。

 そのあと省吾は、なぜかふと不安になって、もう一度外側の生体認証パネルに手をかざした。ドアがパタンと開いた。

 もう一度かざすと、ドアは閉まった。

(何やってるんだろ? オレ・・・)

 こんなこと、考えたりするようだから浮くんだよな——。

 オレという生体は1人なんだから、開くに決まってるじゃないか。


 しらじらした照明の廊下を、省吾は寒そうに背中を丸めてエレベーターホールの方に歩いていった。。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ