支配者
界立第二高等学校。それがこの世界で最も自由な学校の名前だ。
学年というものが存在せず、好きなクラスと席で授業を受けられ、昼食はいつ摂っても良く、放課後活動は任意で、生徒間の交際も認められている。あらゆる事を学ぶ場所とするなら学校と呼ぶに相応しい自由さだ。歴史上のどんな学校よりも『対等』を重視しているのがこの学校の魅力だ。
校則その一『校舎内において在学生徒の立場を対等とする』
ここに学籍を置く人間は一般人に止まらない。財閥のお坊ちゃんお嬢様から日々ゴミ漁りをしている様な人間までピンキリだ。それだけの幅があって尚虐めや差別が起きないのも全てはこの学校の校則のお陰。この学校にいる限りどんな人間であっても平和に暮らす事が出来る。それはこの校舎が完成してから一度も破られた事がない。
人がルールを破らないのはそこにメリットがあるからだ。この学校において校則を守るという行為は全ての生徒にメリットがある。故にその学校で執り行われるイベントにも当然全員が参加している―――
筈だった。
「何で私の票が減ってるのよ!」
力強く机が叩かれる音が部屋に響き渡る。机からしてみれば堪ったものではないだろう。彼の使用用途にストレス発散は含まれていない。物が置かれたり、或いは書類の支えになったりが彼の主な役目。物は使われる相手は選ばないものの、彼に意思があれば拳の持ち主に反撃するに違いあるまい。それは身勝手な怒りであり、用途を外れた使い道であり、どうせ殴るならそれに適した道具は他に幾つもある。
「前期の蒔凛様は大立ち回りをしていらっしゃったではないですか。その影響と考えればむしろ少なく済んだ方かと」
「上手いことやり返されたって訳ね。まあ誰がやったかは見当がついていますけれど……あら?」
「どうかなさいましたか?」
蒔凛と呼ばれる少女が書類を裏返す。そこに書かれているのは界立第二高等学校に在籍している生徒の数および票数だ。毎度毎度、膨大な生徒の票をどう集計しているかは彼女にとって尽きぬ興味の種だが、それ以上に目を引くのは初歩的なミスとしか言いようのない数の不一致。
「在籍数と票数が一致してないわ。どういう事かしら」
「それは賽原蓮二ではないでしょうか」
「誰?」
「特別指導中の生徒です。校則により特別指導中の生徒には参加の義務がありませんから」
「へえ。そんな人間が居たのね……その男はまだ誰の息も掛かってないのね?」
「有権者でもない人間に息はかけないでしょう。特別指導が解かれればまた有権者なのですから、そうなってから根回ししても別に遅くはない。今、何より大事なのは新たな有権者の支持を集める事とその保持ですから」
「…………ふーん」
側近の意見はごもっともで。
だが私は、手段を択ばない。