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連日森の中に変な物があるわけもなく、依頼をこなし宿に帰った。ナイフを磨いていると数本先端が欠けていた。討伐依頼を連日受けて酷使してしまったのだろうか。ちょうど明日から護衛の依頼だし、朝に薬と一緒に補充しておこう。蝋燭の火を消し、寝床に入る。最近は寝るのが苦痛にならなくなってきた。その代わり日々が変わり始めているが。
目が覚めた。あれだけうなされて起きていたのが今日は何もない。それどころか夢の記憶がない。昨日までは鮮明に覚えていたというのに。支度を済ませ、階段を下りる。なんだかんだでこの宿には1ヵ月もいた。追加で1週間ほど前にもうひと月分払ってしまったが仕方ないだろう。カウンターにいるので宿を引き払う旨を話す。
「そうか、未使用分は返金する。ちょっと待ってろ。」
店主は奥の部屋に行ってしまった。毎日依頼を受けていたおかげで今は金に困っていないので別に返金しなくてもよいのだが。それにああいうのは普通返さないはずだろう。
「待たせたな。これで全部のはずだ。急いで数えたから不足してるかもしれん。」
「いいのか?別に返さなくてもいいはずだろう?」
「ああ、いいよいいよ。1ヵ月も止まってくれる客なんてそうそういないからな。そういう客は大事にしておくもんだ。」
「そうか。」
普通その客の前で大事にするとかは言うのだろうか。そう思いつつ銅貨と銀貨が入り混じった袋をポーチの中にしまう。宿を出ようとする前に、
「1ヵ月世話になった。」
「おう。いつでも来い、客として歓迎するぜ。」
と言ってその場を後にした。あとは投擲用ナイフを補充して集合場所に行くとしよう。
ナイフを買ったのはいいが、ついつい他の物も買ってしまった。これを使う日は来るのだろうか。色々買いすぎると荷重になって行動しずらくなるからあまり買わないようにしたいのだが、ついつい買ってしまう。そう愚痴のような考えをしながら歩いてると集合場所に着いた。まだ荷物を積んでいる最中だったので手伝うとしよう。
「依頼は護衛だけなのに悪いな。助かるよ。」
「これも依頼のうちだろう。別に構わない。」
なるべく一日での移動距離を長くしたいからな。そうすれば目的地に着くのが早くなるだろうし、なにより危険性が減るだろう。
積載作業が終わった。護衛は俺を含む5人か。流石領主の私兵だけあって練度が高い。積みに作業中も様子を伺いながら手伝っていたが隙がなかった。俺が弱いだけかもしれんが。しかし、あの領主の口ぶりからのこの兵たちだと俺が依頼を受ける必要は本当になかったのではないかと思う。今回のルートだと俺よりも弱い冒険者数人でもなんとかなる程度の獣しかでないはずだ。もなにか別の目的が?あるとしてもあの忌々しい大戦の生き残りってだけだ。それ以外に特殊な事情なんてものは俺は持ち合わせていない。あれこれ考えてもしようがない。この護衛の依頼を請け負ってしまった以上、遂行するしかないのだ。ここまで来ても乗り気ではないが、きちんと護衛をするとしよう...。
今更ですが金銭面は適当です。