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「断ると、言ったら?」
領主は笑った。そんなにおかしいことを言っただろうか。
「正直断られるとは思わなかったよ。うーん、そうだな・・・。隣にいるマスターさんに強制的に君に受けてもらうっていう方法があるから断れないと思うけど?」
「そこまでして何故俺に?他にもいるだろう。支払う金額が多くなるってわけじゃなかろうに。」
そうだ。ここで俺が断り、他の実力者に依頼すればそれでいいはずだ。護衛対象に何かあったとなればただ事じゃないのはどちらも同じ。俺に頼む理由がない。
「君なら信頼できそうと思ってね。それに、他の人じゃ務まらない気がするんだよ。」
「あんたが俺の何処に信頼をしたかは知らないが、俺はただのG級の下っ端冒険者だ。」
「ここまで言われるとは、過去に私は何かしたかな・・・。」
領主は思案するがそんなことをされた覚えはない。ただ俺は面倒ごとに巻き込まれたくないだけだ。俺はもう御免だあんなこと・・・。大戦の時だって困窮してた時じゃなければあいつらは怪しいと思って受けなかっただろう。結局受けて全滅だ。だが、ギルドマスターから通して強制的に受けさせられたら結局は護衛することになる。G級にそんなことが出来るのかは不明だが。不意に、
「俺からも頼む。こいつにはギルドとしての借りがある。俺たちに貸しを作ると思って受けてくれないか。」
ギルドマスターが頭を下げながら言う。いきなり何の話だ。聞くことになると話が長くなり今日の依頼がこなせなくなりそうだ。仕方ない。
「あんたからも言われたんじゃ仕方ない。それで、何処まで護衛すればいいんだ?」
「おお!やっと受けてくれる気になってくれたのか!実をいうとだね、王都まで護衛してほしいんだ。」
北西にある王都か。たしかここから北にあるソレッタを経由し王都を囲むような森林を抜けなければならないから一週間程度はかかるのだろうか。
「報酬はいくらだ?」
「10万リカ出すよ。」
破格すぎる。ある程度立派な一軒家が建つくらいの金だ。尚更断りたくなったが、受けるといってしまった手前、撤回するわけにもいかない。よほど娘とやらに問題があるのだろうか。それか・・・。
「分かった。護衛はいつからだ?」
「明日の明朝にでも出発したいんだよね。君の都合は大丈夫かい?」
「ああ。こっちは大丈夫だ。」
「依頼の詳細は今羊皮紙に書いてもらってるからそれを見てくれ。いやあ本当に助かったよ。じゃあ、私はこれで失礼するよ。」
「これ以上長居しても何もなさそうだから俺も失礼する。」
何が本当に助かっただよ。どちらにしろ、受けるのは確定していただろうが。頭の中で愚痴を言いながらその場をあとにする。今日受けようと思っていた依頼は半分はこなせそうだな。やっかいな事になったものだ・・・。