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大型の自律魔導兵器が動く。くそ、帝国はなんてものを開発したんだ。こんなものが流通し始めたら世の戦争が変わるぞ。目らしきものがこちらを捕捉したようだ。右手をこちらに突き出し、何重にも重なった魔法陣が手の先に現れる。魔法陣の色具合からして火魔法だろう。撃たれる前に回避かあの腕を破壊しなければ。それに周囲に敵兵がいる。邪魔をされても困るので他の隊の仲間と露払いをするとしよう。
「ゴートン、ジェシカ、モルト!」
「わぁってるよ!すぐぶっ壊したらぁ!」
「私はいつも通り援護に努めます!」
「ま、いつも通りってか。隠れるところがないのが不安だがな。」
ゴートンが持っている斧が赤く輝く。もう何百回とやっているので見慣れたものだ。巨体とは思えぬ速さで自立型魔導兵器に接近する。ジェシカは呪文の詠唱を始める。モルトは弓を構え、
「射貫き」
矢があり得ないような速度で自律魔導兵器へむかう。
「っち、駄目だ。膜みてえなのが邪魔してやがる。この技能はそれをぶち抜くようなんだが・・・参ったぜ」
モルトの射貫きでも貫けないのか。相当の魔防壁なのだろう、だがゴートンの前にはそんなもの紙に等しい。おっと。今はこっちの相手をしなければ。
「これでもくらって消えな!爆砕っ!?」
ゴートンが右腕に狙いをつけ振りかぶった瞬間、足元が光る。あれは・・・拘束魔法だと!?そんなものをいつ設置したって言うんだよ!?警戒を常時使っているがそんな気配はなかった!ジェシカが唱えている魔法は間に合いそうにない。そう考えている内に白色の鎖で体が縛られていく。発動しようとした技能は不発動となり赤みが消えていく。そして、右腕が彼の体に狙いをつけ、
「やめ、んぐっ」
目が覚めた。相変わらずだ。昨日言われたことを思い出し寸で止めた。この宿はなかなか居心地がいいから出入り禁止にはなりたくはない。いつも通りに着替え、朝食を摂りに行く。昨日の夕飯と同じスープとパンだった。美味かった。
依頼を受けに行く前に、昨日渡した害獣除けを補充しておく。ついでに磨き用のぼろ布も。そうしてギルドに入り、いつも通り羊皮紙を渡そうとすると、
「あなたに呼び出しがかかってます。2階の右奥の部屋に行ってください。」
「あ、ああ。」
昨日の馬車のいざこざだろうか。呼び出されるほど面倒なものを運んでいたのか。やっぱり助けなければよかった。2階へと上がり、扉を2回ノックをする。
「入ってくれ。」
ドアノブを回し中に入る。そこにいたのはこの街の領主とギルドマスターだった。領主は姿かたちを見たとこがなかったので軽く驚いた。大体権力者ってのは腹が肥えているもんだと思っていたが。身なりからして冒険者でもやっていたのだろうか。ギルドマスターは典型的で、筋肉が盛り上がり、着ている服が今にも破けそうなほどだ。
「よく来たな。まぁそこに座ってくれ。」
頷き、領主とギルドマスターの反対側の長椅子に座る。座ったところで領主が口を開き、
「昨日は助かった。あれは大事な品物だったんだ。あれが破損か紛失したとなるとぞっとするよ。」
「馬車は半壊していたが中身の荷物は無事だったんだな。それはよかった。」
「ああ。それで、私なりに感謝をしたいと思ってる。これを受け取ってほしい。」
机の上に出されたのは金貨だった。合計で一万リカほどあるだろう。あの馬車にそんなものがあるなら素直に街道を通っていればよかったのに。ここで森を通っていた理由も聞けるだろうが、好奇心は猫をも殺すということもあるし止めておこう。第一面倒ごとに首を突っ込みたくはない。渡された金貨をポーチに入れる。
「話はそれだけか?」
「いや、もう一つあってね。なんでも君はランクこそ低いがそれなりの強さがあるそうじゃないか。だから私の娘の護衛を頼みたくてね。勿論、報酬には色をつけさせてもらうよ。」
やっぱりあの馬車を見捨てておけばよかった。