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酷い有様だ。遠目から見てもわかる。馬は狼の群れに食われ、馬車は半壊。護衛の騎士二人が必死に狼に抵抗しているが殺されるのも時間の問題だろう。あれはただの狼ではなくその一つ上の強さを持つ赤狼だからだ。普通の狼は灰色のような色なのだがあれは名前通り少し赤みを帯びている。すぐに加勢したいところではあるがすぐに囲まれて殺されるのが関の山だ。ここは遠くから仕留めさせてもらうとしよう。
──"隠密Ⅲ"発動
気づかれにくくするために存在感が薄れる技能を使う。投げる前にこっちに気づかれるのでは意味がない。
現在確認できるだけで15頭。余程腹を空かせていたのかまだ馬を食べているのが4頭。ナイフを持ち、手から魔力を流す。こうすることでこのナイフじゃ刺さらないような硬い皮膚でも貫いてくれる。ほんの一瞬で流し、力を込めて投げる。頭には当たらなかったが、胴体に持ち手まで刺さり、呻き声をあげる。この調子で五、六本投げ、頭や同じく胴体に刺さり、殺すないし無力化することが出来た。赤狼達が仲間の突然の死にたじろいでいたのを好機と見た騎士達は攻勢に出、残りの狼を斬り殺した。
「冒険者か。助かったよ。」
「しかし、接近してくるまでわからなかった、流石だよ。」
「冒険者だからな。潜めないとやってられん。」
技能を使えばある程度は気づかれないからな。それに普通の隠密よりはレベルが高い。傭兵時代に暗殺の依頼をよく受けさせられてたからいつの間にか上達していたのだろう。これで気づかれるなら赤狼に苦戦するような強さではないはずだ。
「ところで、この近辺の害獣に効く害獣除けは持ってないか?これ以上は戦えそうにない。」
「あるよ。ほら。」
右側にあるポーチから丸薬のようなものを投げて渡す。これを足裏か堅いものにぶつけ、臭いを出すといったものだ。同じ害獣でも地方ごとに苦手な臭いが違うようで、遠くに行くときはそこの害獣にあった害獣除けを所持しなければならない。害獣と戦いたいなら話は別だが。
馬車が半壊なのは気の毒だが、これ以上手伝えることはない。日も見えなくなりそうだ。さっさと帰るとしよう。
「じゃあ、俺はこれで。」
「あ、ああ。」
もう少し手伝ってほしそうな目で見ているが、手伝いに命を掛けたくはない。害獣除けがあるからとはいえたまに鼻の鈍い奴が襲ってくることもある。夜目を使いながらの戦闘は疲れる。早歩きでその場を離れた。
街の門に着いた頃には空は暗がりで門も閉じようかとしていたところだった。慌てて入ると、
「次はもう少し早く帰ってきてくれ。」
「少し面倒事に巻き込まれたものでね、すまないな。」
今日は謝ってばかりのような気もする。それは置いておいてギルドに依頼の報告をするとしよう。