いいところ連れてやろうか?
けいちゃんとこの場所に一緒に来たことがある。
「いいところ連れてやろうか?」
とけいちゃんは微笑んで言った。「どこ行くの?」とわたしが言うと、「内緒」と口に指を当てて言った。「遊園地?」「違う」「動物園?」「違う」「水族館?」「違うよ」とけいちゃんはもう答えてくれなかった。
けいちゃんはわたしの右側を歩いた。ぱりぱりと枯れ葉を踏みしめながら、わたしたちは上流に向かって歩いていた。けいちゃんは急に私の両目を手で塞いだ。温かい手だ。「何、するの」「いいから」とけいちゃんは「ゆっくり歩いて」と言って、わたしをゆっくり歩かせた。ぱりぱりと枯れ葉の音がする。
「いいよ」と言って、けいちゃんはわたしの目から両手を離した。
私は美術の成績がからっきし駄目だったので、美大には行けそうになかった。だからかは分からないが、本をよく読んだ。だから大学は文学部を選んだ。
高校生の時に同級生の男の子にも告白されたこともある。でも、付き合う気にはなれなかった。「ごめん」と私が言うと「いいよ。気にしないで」とその子は、言ってくれた。「けいちゃん、私、けいちゃんじゃないと駄目かも」とその時心の中で言った。でもけいちゃんは答えてはくれなかった。
大学生になって、私は、詩をよく書くようになった。だから、私は大学の文芸部に入った。文芸部では、詩だけではなく書いた小説の感想を言い合った。私の詩は情景がよく見えて、哲学的だと言われた。でもいつも私の詩に出てくる「あなた」はけいちゃんだ。私の詩は「けいちゃん」へのラブレターだった。もう、この世にいない「けいちゃん」へ私はずっと手紙を出し続けていた。