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七色の流れ星(改題 REBORN)  作者: 中井田知久
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けいちゃん

2019年1月19日に文学フリマ京都に行きます。よろしければお立ち寄りください。「真夜中の幻」です。

あなたはそこにいた。私が振り返ると、微笑む。「ほら。流れ星だよ」と低い声で言う。10年前と同じ、私を見守る目をして。


「けいちゃん。花火しよ」と言って、私は木造の家の軒先にいたけいちゃんの前で、コンビニで売っていた花火セットを「じゃーん」と言って出した。けいちゃんは困って、

「明日、ゼミの発表あるんだけどな」と右頬を掻いた。といっても、けいちゃんはまんざらでもなさそうだった。

けいちゃんは、「ちょっと待ってな」と言って、軒から上がって家の中に入って、帰ってきたときには桶に水を張って持ってくる。けいちゃんは、私が持ってきた花火セットの袋を開け、

「どれ?」

と微笑みながら言った。微笑んだけいちゃんの事を私は好きだ。白い無地のTシャツに、履き古したジーパン。服装なんて、ひとつも気にしたことなかった。でも、Tシャツは毎日洗っていて、不潔でもない。爪先も深爪くらいに切ってあった。そんな光景ばかり覚えているんだ。

「この金色の花火」

「ほい」と言って、ごつごつしてて、血管の浮き出た手で、わたしに渡す。けいちゃんの手がわたしの手に触れる。わたしは胸が疼いた。心臓を掻けるんなら、掻いていたところだ。

「ありがと」とわたしが言うと、

「俺。これな」と言って、ロケット花火を選んだ。けいちゃんの花火を選んでいる姿は少年のようで、わたしは、そんなけいちゃんを抱きしめたくなった。


けいちゃんは私が10歳の頃、隣の古い家に引っ越してきた。私の家族は父と母とわたしで一軒家に住んでいた。だから私は一人っ子で、兄弟がおらず、公園に一人で行って、友達と遊んでいた。わたしは兄弟のいる友達が羨ましくて仕方なかった。そんなある日、けいちゃんは私の目の前に現れた。


けいちゃんは去年の冬に引っ越してきた。ここは都内でも都心から離れていて、下町の風情を残しており、古家が点在していた。そんな時、けいちゃんが隣の空き家に越してきたのだ。けいちゃんは白いTシャツに古びたジーパンでサンダルの恰好でわたしの家に来た。わたしが家の誰かを呼び出すチャイムの音を聞いて、玄関のカギを開けると「けいちゃん」だった。

「お母さんは?」

と、わたしのあごくらいを見て話すけいちゃんの声を今でも覚えている。低く響くような声、ぼそぼそとした喋り方。

おかあさんは、わたしに「あかり。あっち行ってなさい」と言った。暫くして、

「あら、そう?」とお母さんは玄関で話していた。けいちゃんは、ぼそぼそと話すので居間には声が届かなかった。わたしはアニメを見ながらソファに座ってポテトチップスを食べていた。

けいちゃんが帰ってから、お母さんに聞くと、

「岡田圭介という名前で、美大生なんだって」と言う。「びだいせいって」とわたしが言うと、「絵を描く人よ。気を使わせちゃって、挨拶にきたのよ」と包装された箱を母は持っていた。「今の子には珍しく律儀な子ね」と母は言った。


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