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『情報の吹き溜まりにて 前編』

 現実世界には存在するのかもわからない情報の吹き溜まり。

 そこに発生したノイズ、人の心のようでもあるなにかが、誰にともなく語りはじめる。



 それからの話をしよう。


 魔王の討伐に成功したティファニアは、程なく魔族を掃討した王都と、ブリュゴーリュ軍によって蹂躙(じゅうりん)されてから進んでいなかった東部副王領の復興を開始。

 失われた人民を補うために、バーンクライブで保護した難民を多く受け入れた。


 魔王によって殺害された国王、セルヴィス・ライティネン・ガラル・ティファニエラの後継として王座に就いたのは、この時点での王位継承権第一位であったドロティアではなく、その次兄でありブリュゴーリュ軍との戦で戦死したヴァリウスの長子で、サルヴァ・ディ・ダリウスによる暗殺を危惧しカナルが保護していた、ヴィリムという年若い王族だった。

 魔族との戦の後、ドロティアは自身の親衛隊員であるシュウザ・シャラカンによって第十七副王領(アタラティア)の開拓村に匿われていたと発覚した。

 王都に戻った後は、自ら王位継承権を放棄し、己が副王を務めていた第三副王領(ノエニア)に隠居。

 時折〝人見の祝福〟で人材の発掘を行う以外、すべての公務から手を引いた。

 戦前は放蕩三昧(ほうとうざんまい)だった彼女の生活は一転して慎ましやかなものとなり、ただひとり手元に残った親衛隊の騎士を連れ屋敷のまわりを散歩することだけを変わらぬ日課とし、その生涯をまっとうしたという。


 レミリス・ティ・ルヴィンザッハは、王都奪還の功績によって軍のトップに君臨。

 魔王討伐後も、各地に散った魔族の掃討、闇地に接する副王領で起きる越流、治安の乱れによって発生した盗賊の討伐など、軍人としての職務に身を捧げた。

 年老いて軍を退いた後は、第十八副王領(ゲイザリア)の田舎町に屋敷を建てて隠居した。

 縁もゆかりもない土地で老後を送った理由は死後も長く謎とされたが、後世の歴史家の多くは、かつて闇地で死に別れた戦友を偲び、その故郷で余生を送ることを選んだのではないかという説を有力視した。


 アリアは戦の後、療養期間を経て、レミリス付きのメイドに復帰した。

 戦で失った左腕は、マリ・ジュヴィラメリンに義手を作らせ、時を経て自分の腕同然に使いこなしたという。

 彼女はその後も公私にわたり長く主を支え、老後の隠遁先でも主人が身罷(みまか)るまでひとりで世話をしたという。


 テトも、戦の後もレミリスに仕えたが、アリアがメイドの長として主の〝表〟を支えたのに対し、彼女は〝裏〟の仕事で支えたという。

 即ち、その身体能力を活かした潜入と諜報活動だ。

 魔族との戦いにひと区切りついたとはいえ、国内外の情勢はその後も長く不安定であったため、彼女のもたらす情報はティファニアに多くの国益をもたらしたという。

 ただ、そういった役目を負っていたゆえか、テトはその後、歴史の表舞台から姿を消している。

 後年は、任務中に命を落としたとも、アリアとともにレミリスに従ったとも、戦時中に縁を結んだニースシンクにて骨を(うず)めたとも言われているが、いずれも定かではない。


 イリス・ゾラとそのふたりの弟は、魔王軍の襲来を予見し、王都から多くの民を避難させた功績を評価され、彼女らの商会は勅許(ちょっきょ)会社として国からさまざまな権利を与えられた。

 また、戦時中は避難先でも商売を拡げ、最終的にはティファニア全土ばかりか他国にまで広く進出する複合企業体(コングロマリット)を形成するに至る。

 難民の雇用や慈善事業にも大きく貢献したことで、世界の復興を十年以上早めた偉人として、三姉弟は後の世まで人々から讃えられた。


 リーズ・ボナルは、王都奪還の後、第十七副王領に戻った。

 ティファニア軍での功績を買われ、領国軍にて上級士官として奉職するよう打診を受けるも、これを固辞。

 故郷の開拓村へ戻り、姉のレーナとともに孤児院を切り盛りしながら、狩人兼隣国アタラティアとの国境を護る防人としてその後の人生を送った。


 ヴォリス・ドゥ・ヴァーゼラットも第十七副王領に戻った後、退役した領国軍トップ、ディセルバの後を襲うかたちで将軍となった。

 ブリュゴーリュとの戦以降のティファニア軍を裏から支えた優れた将として、ティファニアの軍事史に名を刻んだ。


 テオ・ジョエルは本国へは戻らず、フィオーレの総督として長く務めを果たし、退官後もその地に留まり天寿をまっとうした。

 老後に彼が(あらわ)した、ブリュゴーリュとの戦以降のティファニア軍の戦いを回顧した戦記は、広く流通しベストセラーとなった。


 カナル・フーリッツ・シケルは戦後王都へ戻り次期国王ヴィリムの後見人を務めた。

 また戦没者遺族への補償や、傷痍(しょうい)軍人の再雇用先の斡旋(あっせん)等、首都奪還から五年後に老衰で逝去する直前まで、軍人とその家族のために尽力した。

 その死に際しては大規模な国葬が催され、連合国の有力者も多く弔問に訪れたという。


 ソニファ・アギッツォーラは戦後もカナルの秘書官を務めたが、彼の死後はレミリスの下で働きつつ、王都の復興にも貢献した。

 ダイアスで交誼(こうぎ)を結んだリーズとは終生の友となり、転移塔再建後は毎年のように彼女の故郷に出かけ休暇を過ごしたという。


 ジャメサ・カウズは戦後王国軍に出仕。

 王都奪還作戦での功績から騎士団の長に抜擢(ばってき)され、後に将軍にまで登り詰めた。

 ただし中央で安穏と過ごすことはなく、常に戦場に身を置き、生涯を国防に捧げた。


 エウル・クーレットは第七、九、十一、二十一の四つの副王領の領国軍を束ねる闇地防衛軍の長として任官した。

 闇地防衛軍とは越流発生に備えて闇地と接する副王領に設けられた鎮守府に常駐する兵団であり、兵にはティファニア軍の一部に加え国外からの移民も多く採用された。

 その長官ということは国防の要であるといえたが、実際には越流が発生することなどそうそうなく、普段は公務そっちのけで闇地に潜り、魔獣狩りに勤しんだという。


 ティスマス・イーキンスは王都での戦いを経て軍を退いた後、第十二副王領に広大な領地を与えられたうえ、副王に据えられた。

 しかし(まつりごと)に関心のない彼は文官に仕事を丸投げし、身分を隠し冒険者として自由気ままに活動したという。

 ジャメサ、ティスマスとの縁が途切れることはついになかった。


 シェジア・キーフェは一命を取り留めた。

 王都奪還直後に軍へ戻ったサクヤが、〝血獣(ラヴィ・ヅィーヴェ)〟の幹部団員に請われ、衛生隊が延命していた彼女の体から腑術(ふじゅつ)で核石を取り出したのだ。

 ただし体に障害がのこり、その後は車椅子での生活を余儀なくされた。

 回復後はレミリスの用意した軍事顧問のポストを蹴り、王都と与えられた領地にて複数の孤児院を運営。

 多くの戦災孤児を受け入れ、希望する子どもには将来軍人となるための英才教育を施した。

 彼女の養子はその後多くティファニア軍で頭角をあらわし、〝血獣(エル・ラヴィ)の子(・ヅィーヴェ)〟という一大派閥を形成することとなる。


 〝血獣〟の団員はシェジアの孤児院で職員として働く者が多かったが、軍に残る者、傭兵に戻る者、隠遁する者など、別の道を行く者も少なからずいた。

 ただし、かつての頭目に声をかけられるようなことがあれば、どれだけ時を経ようと、すべてに優先して駆けつけたという。


 ファン・リズは終戦後、全身の傷が治った頃に姿を消した。

 その際、彼女が持ち逃げした耀晶典籍(ヴェリスルテラン)は、危険性ゆえ戦後に封印されることが決まっていたため、王都奪還作戦での英雄的な働きに反し、懸賞金をかけられ追われる立場となったが、遂に捕まることはなかった。

 その後、彼女はティファニア国内でたびたび姿を確認されるも、行方を知る者はいないといわれている。

 ただ、彼女の出奔は、シェジアの治療にあたってサクヤから持ち掛けられたなんらかの取引の結果ではないかという噂が立ったが、真偽のほどは明らかでない。

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― 新着の感想 ―
シェジアのとこで泣きかけた自分は悪くないッッ ミツキとあらゆる形で関わってきた人たちの後の人生と終わりを 読むうちに複雑すぎる感情になっていくと同時にこれミツキどう 描かれるんだ!?最後の風呂敷の包み…
やべ、リーズやイリスたち三兄弟が出てきたあたりで目頭が・・・
更新ありがとうございます。 今さっき読んでいる途中だったのですが、 物語中ミツキが関わってきた様々な人物の結末が描写されているのを読み、むなしいような、終わりを感じるような寂しさを感じて、 足りない…
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