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第四百五十六節 『天空無双』

 まず、あらゆる角度から放たれた王耀晶(ヴェリスティザイト)(つぶて)が魔王に命中し、着弾と同時に還元されたことで夜の天空は激しい光の明滅に包まれる。

 〝黒凱〟の傀儡(くぐつ)たちは、瞬き続ける光をとり囲むように展開し、それぞれの得物を構える。


「この程度の攻撃――」


 光を貫くように、闇を(まと)った魔王がとび出し、礫の弾幕を潜りながら傀儡の一体へ向かう。


「もはや目くらましにもならんぞ!」


 迎え撃つ傀儡は、連結させた耀晶刀(ヴェリスサージュ)を模した双身の刀を回転させながら次々と放つ。

 魔王はその刃の側面を踏み台にして、跳ねるように傀儡へ迫る。


「この〝飛円(ひえん)〟という戦技、地上に(ひし)めく敵をまとめて薙ぎ払うのには有効だが、三次元的な動きが求められる空中戦には不向きだな!」


 瞬きする程の間にすべての刃を蹴り落とし、己に迫る魔王を、傀儡はふた振りの耀晶刀で迎え討とうとする。

 が、袈裟懸(けさが)けと左逆袈裟に斬りつけられるはずの刀は、一瞬早く、魔王が刀を握った傀儡の拳を掴んで、止められる。

 藻掻(もが)いて振り払おうとする傀儡の額目掛け、魔王は頭突きを見舞う。

 さらに手を放すと同時に前転し、頭を砕かれ()()った傀儡に、遠心力を乗せた(かかと)を蹴り下ろす。

 頭から胸までを粉砕され、傀儡は墜落していく。


「まずひとつ」


 魔王は傀儡の手放したふた振りの耀晶刀を両手に掴む。

 微かに紫がかった深い青の刀身は、(なかご)から汚染魔素に浸食され、漆黒に染まる。


「これが耀晶刀。切れ味を試してやろう」


 己に殺到する傀儡の群れを、汚染魔素の噴射で加速し翻弄すると、頭上より迫る一体に向かって急加速する。

 振り下ろされた白炎の爪を右の刀で受け流し、左の刀を斬り上げながらすり抜ける。

 股座(またぐら)から頭頂までを両断された傀儡は、体の中心がずれるように分かれて墜ちた。


「ふたつ……みっつ、よっつ」


 身を(ひるがえ)してUターンした魔王は、己を追ってきていた傀儡を次々斬り飛ばしていく。

 すると、その周囲にきらめく粒子が纏わりつき、魔王を包み込むようにして密集し始める。


「これは……〝塵流(じんりゅう)〟か」


 粒子のきらめきは、離れたところで魔王に手を差し向けた傀儡から伸びている。


「この王耀晶の粒子が砂鉄の代わりというわけか」


 言う間にも王耀晶の砂に埋もれ、魔王は耀晶刀で斬り払おうとするも、刃はすり抜け、ついには埋もれて絡め取られる。


「砂に斬撃は効かんか」


 魔王を包んだ砂がぎちぎちに固まると、傀儡は還元しようと開いた手を伸ばす。

 が、固まった砂の表面にじわりと黒が(にじ)み、見る間に全体が闇色に染まる。

 汚染された砂は、流れるように解け、今度は魔王の周囲に渦巻く。


「汚染魔素に浸食された王耀晶の支配権は私のものとなる。黒曜宮で学ばなかったのか?」


 漆黒の砂は蛇のようにうねりながら、先程まで操っていた傀儡に襲い掛かる。

 後退しながら砂の壁で防ごうとする傀儡だったが、黒い粒子はきらめく砂を吸収し、ついには〝黒凱〟の腹を貫いた。

 傀儡の中へ流れ込んだ砂は膨張し、硬い鎧を内から破裂させる。


「ふむ……傀儡共も汚染させれば支配できそうだが――」


 浮かびながら呟く魔王に、対魔戦式耀晶刀を構えた個体と、爪に白炎を灯した個体が、前後から斬りかかる。

 その斬撃を両手の刀で受け止め、魔王は()()と口の端を釣り上げる。


「止めておこう。今はこの身ひとつでとことん戦ってみたい」


 背中から汚染魔素を噴出させ回転する勢いで、二体の傀儡を同時に斬り飛ばす。

 破壊の感触に、刀を掴んだ魔王の手から背にかけて、ぞくぞくと震えが駆け抜ける。

 依り代となった体の本来の主は、余程好戦的な性格だったようだ。

 肉体に残るその性質に己が影響されていると気付きながら、魔王は衝動に抗わない。

 この依り代は、屍ゆえに遠からず()ちる。

 そのうえ、自分に対抗できる敵など、おそらくこのミツキを(たお)せば二度と現れることはない。

 だから、汚染魔素の中にも含まれる、破壊衝動や殺意を思うさま(ふる)える敵と戦う機会など、これが最初で最後なのだ。

 せっかく己という人格を獲得した以上、この貴重な時間を存分に楽しまなければ後悔が残るというものだ。


「……そんなところか」


 離れた場所で傀儡に紛れて戦いを窺っているミツキは、魔王の考えを想像する。

 活き活きと飛びまわり刀を振り回す姿は、チャンバラごっこに興じる子どもさながらだ。

 己を敵と認識しつつも、心の底では格下と見下している。

 だから、その気になれば圧倒できる戦いを、遊び感覚で楽しんでいるのだろう。

 その(おご)りにこそ付け入る隙がある。

 思考を巡らせながら、ミツキは傀儡を操り続ける。


(もろ)い!」


 礫の雨を(ひね)り込むような動きで突破し、三枚におろした傀儡を蹴り落として、魔王は()えた。

 戦えば戦う程に、本体である汚染魔素体が依り代に馴染む。

 加えて、ミツキの分身である傀儡との立ち合いを重ね、驚異的な速度で剣技と空中での立ち回りを学習していく。

 ただでさえ実力で上回る相手を、さらに突き放すのは痛快だが、同時に物足りなさも感じ始める。


「どうしたミツキ! いくら数を揃えても、これでは私に傷ひとつ付けられんぞ! そろそろこの状況をどうにかせんと、傀儡も尽きるのではないか!?」


 動きを止め、己を窺っているであろうミツキに向かって訴える。

 背後に迫る傀儡が、連結させた耀晶刀をたて続けに放つと、魔王は舌打ちしながらふり返る。


「その攻撃はもう飽きた」


 蹴り落としたうえ傀儡も撃破しようと動き出した魔王の脚が、何者かに引っ張られる。


「な、に?」


 前のめりになって下を窺えば、今さっき三等分したはずの傀儡が右足首を掴んでいる。


「こいつ、まだ動くか」


 行動を阻害されている間に飛来した刃を両手の刀で打ち払いつつ、、右足につかまる傀儡を左足で蹴り墜とそうとする。

 すると、雲の下からここまで破壊したはずの傀儡たちが、無惨な姿を晒したまま浮かび上がって来る。


「こ奴ら――」


 己に殺到する半壊した傀儡を、魔王は刀で斬り払っていく。

 が、両断されようと、傀儡たちは(ひる)まず突っ込み、体にとり付く。

 考えてみれば、血が通わず筋肉も内臓もないのだから、本体のミツキが念動を使う限り、両断されたとて傀儡は動き続けるのだと魔王は気付く。

 だとしたら、これまで墜とせてきたのは、ミツキがそう見せかけていただけで、破壊された傀儡は雲の中に潜ませていたのだろう。

 そして、隙を突いて一体がとり付き、別の傀儡の攻撃を対処しているところに、ふたたび一斉に浮かび上がらせ、とり付かせることで己を身動きできなくしたのだと魔王は察した。


「つまり、今この瞬間こそが、ミツキにとっての好機か」


 呟いた途端、下に広がる雲海が消し飛び、ミツキが潜ませていた数十体の傀儡が姿を現す。


「くっ!」


 上半身だけの傀儡にロックされた首を、強引に下へ向けて窺えば、すべての傀儡が自分に向け両手を突き出しているのを魔王は視認する。

 その手の前面が(ゆが)み、凄まじい魔力が膨れ上がっていく。


「〝咆哮(ほうこう)〟、か!」


 魔王が気付いた直後、数十体の傀儡の手から同時に、重力波が放たれた。

 地上に被害を出さぬよう、ミツキはすべての砲撃手を雲の中に隠し、魔王の下に配置していたのだ。


「……どうだ?」


 すべての〝咆哮〟が収束し、ミツキは(ひず)んだ空間に目を凝らす。


「…………うっ」


 その中心に、黒い球が浮かんでいるのに気付いて、おもわず(うめ)き声を漏らした。

 闇が解けると、無傷の魔王が姿を現す。

 とり付いていた傀儡は、ひとつ残らず姿を消している。


「体の周りと〝虚無〟を繋げるのが一瞬遅れていたら、危うかったかもしれんな」


 魔王はなおも周囲を取り囲む傀儡に視線を巡らせる。

 その数は、最初に出現した時から、二割程度しか減っていない。


「少々遊びが過ぎたか。一体ずつ破壊しても、あまり意味がないようだしな」


 魔王は両手に持った耀晶刀を手離すと、その手の中に無数の黒い球を出現させる。


「今度はこちらの力を見せてやる番だ」

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