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第四百二十一節 『四人』

 後部ハッチから外を覗き込んだ四人は、飛行性の魔族が群れをなして航空機を追って来ているのを認める。


「あー、っと……擬人蜻蛉(タラト・マフ)煙吐蚋(グロ・ペッサ)飛火輪(バビル・リーン)に……おお、百目(アルヴァサロ)擬龍(ス・ルーチ)までおるやんけ!」


 次々と敵の魔獣種を口にするフュージに、アニエルは軽く驚いた様子を見せる。


「ほう? 詳しいな」

「昔、闇地に潜っとったもんでな。あそこじゃ魔獣の特性を知らん奴は生き残られへん。せやから必死に憶えたわ」

「しかしなんのために闇地になど潜ったのだ? 修行か?」

「それも理由のひとつやな。ただ一番の目的は武器の素材を集めるためやった。魔獣の素材で作った得物は魔法との相性が抜群にええからな」

「おお! 思い出したぞ! ミツキに折られた槍だな!?」

「ぐっ! よ、よう憶えとるやんけ、おっさん」


 はじめて各国の代表がドラッジに集まった際、ミツキに突っかかったフュージは、北部諸国連合の盟主、ラムドゥール・シャンタッラとふたりがかりで彼に挑むも、手も足も出なかったうえ苦労して拵えた槍を折られたのだった。

 そういえば、こいつら全員あの場に居合わせたのだったと思い出し、フュージはバツの悪さから顔を(しか)めながらも、口では気にしていないようなことを言う。


「まあええねん。今のワイにはこの耀晶戟(ヴェリスヴライデン)がある。耀晶器(ヴェリスヴェイプ)っちゅうんはほんま最高やで。ワイの雷の威力を倍以上に引き上げてくれるんやからな。こないええもんをただでくれたんやからティファニアの連中には感謝しかあらへんわ」

「たしかにな」


 陽動役として、魔族と文字通り泥沼の激戦を繰り広げたアニエルも、それには心底同意する。

 ティファニア軍による武器供与がなければ、自分たちは為す術もなく魔族に滅ぼされていただろう。


「では早速その武器を使った貴殿の実力を見せてもらおうか」

「あ、あん?」


 アニエルからおもわぬ言葉を返され、フュージは目を逸らす。


「いやワイ、空中戦はあんまし得意やあらへんねん。まあ、やってやれんこともないんやけどな。今回はおっさんに譲るわ」

「いいや無理だな。なにしろこのオレは〝泥濘の祝福者〟。野戦では無類の強さを発揮するが、泥のない空中では得意の魔法が一切使えん」

「戦えんゆうとんのに、なんでそないに堂々としとんねん」


 何故か不敵な笑みを浮かべるアニエルと、困惑の表情を浮かべるフュージを押し退けるようにして、クリッサが開いたハッチの正面に立つ。


「役に立たないのならせめて邪魔にならんよう端にでも寄っていろ」

「あぁ!? なんやと尼騎士が!」

「黙って見ていろ田舎騎士。空中の敵というのはこうやって撃ち落とすのだ」


 クリッサは突き出した掌の前に魔法陣を展開する。


「〝精燕製召(ウェルレ・スワレス)〟」


 呪文を唱えた直後、魔法陣から数え切れぬ数の光の鳥が放たれ、航空機に迫る敵を次々と撃ち落としていく。


「ほ、ほーん……まあまあやるやんけ」


 余裕を装いながらも悔しげなフュージには取り合わず、クリッサは攻撃を続けつつ渋面を作る。


「ちっ。きりがない」


 地上を飛び立った魔族が、敵の群れに次々と加わり、一向に数が減らない。

 それに、威力不足ゆえ、大型の魔族は傷付きながらも耐えて追って来る。

 こうなれば、大鷲の精獣に乗って出撃し、囮役を引き受けるしかない。

 クリッサがそう覚悟を決めようとしていると、横にミラが立つ。


「手伝います」

「む? いやしかし――」

「〝暉玉響(トワル・キーヴァ)〟」


 呪文を唱えると、周囲に無数の光球が出現し、三人は息を呑む。

 中でもフュージは、無意識に光球から距離を取ろうとして一歩後退る。

 ドラッジで勇者とその妹に初めて対面した際、ミラを侮辱したフュージは、この魔法で兄のヴィエン・シンから脅され、その場で詫びを入れていた。


「こ、いつ……勇者(兄貴)の魔法を使いよるんか?」


 次々と放たれた光球を、全速力で航空機を追跡している魔族の多くは、躱すことができない。

 直撃と同時に弾けた光球は、閃光と熱と衝撃をまき散らす。

 直接魔法を受けた魔族の体は蒸発し、周囲の群れも衝撃に打たれ、あるいは閃光によって見当識を失い、次々と落下する。

 一度の攻撃で追手の半数以上が消え、残りの魔族は戦力差に怯え、散り散りに逃げて行く。


「ふう……なんとかなりましたね」


 安堵した様子のミラを前に、クリッサとフュージは言葉を失う。

 特にフュージは、〝勇者の絞りカス〟というミラの不名誉なあだ名を知っていただけに、噂とあまりにかけ離れた実力に圧倒されるとともに、己の不明を恥じないわけにはいかなかった。


「見事なものだな! さすがは勇者の妹御!」


 相変わらず不敵な笑みを浮かべながら、腕を組んだアニエルが何度も頷く。


「いえ、兄には遠く及びません。それにさっきのような魔法は、耀晶器を消耗して魔力に変換しなければ使えないんです。そんなの自分の力とは言えません」

「いいや、己に合った武器を使うことで力を引き上げられるのも魔法戦士の才能だ。さっきそこのフュージも言っていたではないか、なあ?」


 急に話を振られて、フュージは咄嗟(とっさ)に同意する。


「え? お、おう、せやな」


 どう反応したものかリアが戸惑っていると、その肩をクリッサが掴む。


「え!? あ、あの――」

「キミ! 精霊騎士団に興味はないか!? 今なら好待遇で迎えるぞ!」


 一瞬の沈黙の後、リアよりも先にフュージが反応する。


「お、おまっ……なにスカウトしとんねん! 今がどういう状況かわかっとんのか!?」

「黙れ! 今、我々はとにかく人手不足なのだ! 優秀な人材を得られるなら、なりふり構っていられんのだ!」

「んなもん、どこの国でもおんなじや!」

「だったら貴様も誘えばよかろう! ド田舎にある野蛮人の国に、有能な人材を確保するだけの魅力があればの話だがな!」

「か、カルト国家に比べればウチのが全然マシや!」

「貴様またしても我らの信仰を愚弄するか!」

「先に喧嘩吹っかけてきたんはジブンやろが!」

「止めんかふたりとも!」


 今にも殴り合いを始めようとしているふたりの間に、アニエルとミラが割って入る。


「何度も言わせるな! 今は仲間割れしている場合ではない!」

「ちっ! 誰が仲間や。もうええわ」


 フュージはハッチの入り口から身を乗り出し、下界を見下ろしながらぼやく。


「やっぱりワイは他所もんとつるむんは性に合わん。さっさと敵ぃ見つけて、あとは好きにやらせて、もらう……わ?」


 唐突に、身を硬くしたフュージを(いぶか)り、アニエルが問う。


「む? どうした?」

「な――」


 パチリ、と帯電した空気が弾け、フュージの黄み掛かった金髪が逆立つ。


「なにしとんねん、あいつ」

「お、おい――」

「〝雷纏(ゼルス・キーン)〟」


 そう短く唱えた直後、フュージが緑の雷を纏う。

 相対しているだけで肌を痺れさせる雷に怯む三人に、フュージは振り向く。


「……見つけたんで行くわ」


 そう呟いた直後、フュージの体が傾き、ハッチの外へと落下していった。

 すかさず、三人はハッチの縁から地上を覗き込む。


「だ、大丈夫なのか奴は!? パラシュートも着けずに!」

「おそらくだが、問題なかろう。奴が使ったのはたしか、纏った雷と同然の動きを可能とする魔法だ。短時間ながら重力に囚われぬ動きができるはずだ」

「あ、あの!」


 大声を発したミラに、アニエルとクリッサの視線が集まる。


「む? どうしたのだ?」

「え、っと、たぶん私も見つけました。私が斃すべき敵」

「な!? 本当か!?」


 ミラは身を起こして呪文を唱える。


「〝天輪背(ウィリルリン)・翅(・サーラス)〟」


 その背に、光輪が生まれ、周囲に三対の光の羽が生まれる。


「行きます! おふたりも頑張ってください!」


 そう言ってミラは、光の粒子をまき散らして飛び去った。

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