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マッド ファンタジア ・ カーゴ カルト  作者: 囹圄
第四章

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第十九節 『侵略』

 新王の即位パレードに乱入した兵士は、鎧の認識票から第十二副王領アシミアの兵士、アド・ニーデルであることが後に判明した。

 調査の結果、彼はアシミアの転移塔から王都郊外の塔へと強制転移してきた後、止めようとする塔職員の静止を振り切り、元々乗っていた馬を駆り走り去ったのだという。

 ちなみに、この時、塔の施設長が馬と接触し軽傷を負ったという。

 アド・ニーデルは転移塔から王都への道を一日半以上かけて走り抜いた。

 非市民区を駆け抜ける際にも数人に怪我を負わせ、非市民区の関所と城壁門を押し通り、どうにかパレード中の王の前に辿り着いたアドだったが、彼はブリュゴーリュ軍の追手に負わされた傷から既に多量の血を失っており、情報を伝えた直後に意識を失うと、そのまま絶命した。


「隣国からの侵略の報を命と引き換えにして伝えた彼の行動は英雄的と評されるべきだろう。しかし、結果から言えば、あの事件のおかげでティファニアは大きな損害を被ることになった」


 そうサルヴァが評したように、国王戴冠のパレードという公の場で、副王領が隣国からの侵略に遭い、たった七日で陥落したなどという報がもたらされたことで、民衆は一時恐慌状態に陥った。

 半ば暴徒化した人々は、その日の内に兵士らの働きで鎮圧されたものの、噂が広がるのを防ぐことはできなかった。

 結果、多くの人民がティファニアから逃げ出そうとした。

 襲撃を受けた第十二副王領アシミアは、ティファニア領の極東に位置する。

 だから、侵略者が来る前に、西へ逃げようとしたのだ。

 軍は王都周辺と国境に関を設け、許可なく街や王領を抜けようとする者を厳重に取り締まった。

 また、ブリュゴーリュ軍に対しては近々大規模な反攻が行われること、仮に王都を攻められても、城壁がある以上は王都が陥落することなどあり得ないと大々的に発表し、市民の不安についてどうにか払拭(ふっしょく)された。

 もっとも、城壁外の非市民区では散発的に暴動が起き、その度に軍が出張って血が流れた。


 王都が不安に包まれそれが時として混乱を招くという状況の中、若き新王セルヴィスは軍に情報の収集を命じ、複数の調査隊が転移塔を利用してアシミア周辺の副王領へと派遣された。

 アシミアに隣接する副王領は、アシミアからの避難民などによってもたらされた情報から国境や都市部の防備を固めたため、さすがに七日間で砦と首都が落とされるような事態にはならなかったものの、調査隊によって伝えられる戦況は日を追うごとに悪くなっていった。


 ブリュゴーリュ軍についての情報もなかなかつかめなかった。

 前線に赴いた調査隊が、尽く消息を絶ったからだ。

 しかし、戦場から後方へと下げられた傷痍兵などからの情報によれば、敵は騎兵を中心に編成させた大軍で、少なくとも数万の部隊を多方面に展開しているようだった。

 アシミアに続いて侵略を受けた第十一副王領ラトミニアと第十三副王領ワイメニアには隣接する副王領から援軍が派遣されたものの、両副王領とも首都が陥落するまで七十日とかからなかった。




「それでも、アシミアに比べれば随分もったのは、各副王領がある程度迎え撃つ準備を整えられたってのもあるだろうけど、おそらくアシミア制圧後に敵が軍を分けたからという線が濃厚だね。つまり、ブリュゴーリュ軍は少なくとも半数で副王領の領国軍を圧倒できるのだと考えられる」

「……ぞっとしないな」


 ミツキは遠方に視線を向けながらサルヴァの言葉への感想を呟いた。


「で、オレをこんな所に連れ出した理由は?」

「ここから見える風景は、今のティファニアが置かれている状況を象徴している。今後の話をするのにわかりやすいと思ってね」


 ふたりは今、側壁塔の上から王都を見下ろしている。

 側壁塔の一階部分で暮らすようになって随分経つが、二階よりも上に登るのは、ミツキには初めての経験だった。

 目測で四十メートルはありそうな高さと、他に高い建築物が少ないため、王都とその周辺がよく見渡せる。


「壁内に目立った変化はなさそうだが、壁外はなんというか、どうするんだこれ?」


 城壁の真下の森林地帯の向こうに非市民区が広がっている。

 その外側には、普段は平野が広がっていた。

 しかし、今は人に埋め尽くされている。

 その半数は東方の副王領からの避難民だった。

 第十一、十三副王領が奮戦している時分から、ティファニアよりも東に位置する副王領からの避難民は日を追う毎に増え、王都を囲うようにして居座っていた。


「まさかこれだけの数の避難民を受け入れることなどできないからね。一応、水や食料、テントに寝具など物資の補給は行っているが、とても追いつかない。最近では非市民区で犯罪を働く者が後を絶たず問題になっている」

「それもまずいが、どう見たって衛生状態が悪すぎるだろ。疫病でも発生したら、戦争どころじゃなくなるぞ」

「まあ、そこらへんは彼らもいろいろ協力してくれているから、まだ大丈夫だろう。仮設のトイレを作ったり、河川から引いた水を魔法で加熱消毒したり、外からやって来てもらったのに頭が下がるよ」


 そう言ってサルヴァが目を向けるのは、平野に滞在するもう半分の勢力、西部副王領より招集した領国連合軍だ。

 ブリュゴーリュへの反攻作戦のために集められた戦力だが、やはり城内に入れるスペースがないので、平野にキャンプしている。

 避難民の治安維持や炊き出しなどは、彼らに依存するところが大きかった。


「あれが居なくなるといろいろ問題が起きそうだが、だからといってこれ以上手をこまねいているわけにもいかないだろう。次の副王領が攻められ始めてるんだろ?」

「ああ、ブリュゴーリュ軍は破竹の勢いで第十一、十三副王領を落とした後、現在は第九、十、十四副王領を攻略しにかかっている。どうやらまた軍を分けたらしく、さすがに勢いは落ちたようだけど、それでも依然各副王領は一度として勝利していない。陥落は時間の問題だろう」

「だったら――」

「反攻作戦について、明日水晶宮で会議が開かれる。念のため、キミは私と一緒にティアの供として出席してもらいたい」

「それは……べつに構わないが、オレが参加したからといって何かが変わるとも思えないぞ?」

「かまわない。おそらく、この会議後、王領軍と領国連合軍の混成軍はすぐにティファニアを発つことになるだろう。キミたちには、現状と反攻作戦について知っておいてもらいたいんだ」

「……わかった」

「助かる。それとミツキ」

「まだ何か?」

「明日の早朝迎えに来るから、それまでに左目の下のそれ、見られても大丈夫なように、どうにか誤魔化してくれ」


 そう言ってサルヴァは、身を翻し階段を降りて行った。

 王都を眺めながら、ミツキは二ヶ月以上前に行われたセルヴィスの即位パレードと暗殺未遂について回想していた。




 あの日、セルヴィスの暗殺中止をサクヤから伝えられた直後、ミツキは最初に決められていた逃走経路を使って地上に降りると、ゴミ箱に身を潜めることなく通りに出てサクヤと合流した。

 直後、一部の民衆が恐慌をきたし、暴動が起きかけた。

 その混乱に乗じ、ミツキたちは暴徒鎮圧のため駆け付けた騎兵が近くに繋いだ馬を拝借し、側壁塔まで引き返した。


 レミリスがその日の内に側壁塔へ戻り、ミツキらは待機を命じられた。

 その三日後にサルヴァがやってきた。


「よく自己判断で暗殺を中止してくれた。さすがにこのタイミングで王を失うのは痛すぎるからね」

「そんなことはいい。それより、あの兵士が言ったことは本当なのか!?」

「現在確認中だけど、おふざけにしては手が込み過ぎている。とりあえず彼がアシミアの兵士だという裏は取れた。それと、彼の体から隣国のものと思われる(やじり)が見つかった。というわけで、まず間違いないだろう」

「どういうことだよ!? ティア様の予想じゃ戦争はまだ先のはずじゃなかったのか!?」


 詰め寄るミツキに、サルヴァは一瞬サクヤの方に視線を向け、少し考えてから口を開いた。


「ティアの〝人見の祝福〟は、その名の通り〝人〟にしか適用されない。つまり、〝人〟以外の何者かの介入が戦争を速めた、というのが私の推測だ」

「人以外って……」


 ミツキは息を呑んだ。

 間違いなく、自分たちと同じ召喚者だろう。


「ブシュロネアとの戦についての情報はレミリスを通して概ね把握している。キミたちが砦で倒したという甲冑の巨人とやらの死体はアタラティア軍に回収させ調べさせたが、少なくともこの世界で存在を確認されていない生物なのは間違いなかったようだ。あるいは未知の魔獣という可能性もなくはないだろう。しかし、キミたちの存在や今回の件から判断するに、おそらくあれも召喚者、そしてブリュゴーリュにも召喚者は存在していると私は推測する」


 ミツキは口を噤んだ。

 己とサクヤと同じ答えに、この男も辿り着いたようだ。


「それで、その情報をどうするつもりだ?」


 興味深げに問うサクヤに、サルヴァは薄く笑う。


「どうもしない」

「なんだと?」

「こんな推測を上にあげたところで一笑に付されるだけだからね。仮に軍幹部がこの情報を信じたとして、召喚者の戦力を正しく見積もり作戦に反映させることなど不可能だよ」

「オレたちの力を王や軍幹部に見せてはどうだ?」

「ミツキ、キミはこの国の排他主義を甘く見すぎている。そんなことをしたって、まず間違いなく、ブリュゴーリュの前に王都に現れた外敵をどう駆除するかと誰もが思うはずさ。連中の頭がもう少し柔らかければ、私たちも国王暗殺などという強硬策はとらなかったよ」

「しかし、それではこの国の軍は、召喚者の力を勘定に入れないまま隣国軍を迎え撃たねばならなくなるぞ」

「そうだね。でもそれは仕方のないことなんだ。だから、軍にはせいぜい時間を稼いでもらって、その間に私たちは別の対策を立てるのさ」


 そう言って微笑むサルヴァを見て、この男は未だドロティアを王にすることを諦めていないのだとミツキは確信した。

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