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マッド ファンタジア ・ カーゴ カルト  作者: 囹圄
第四章

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第十四節 『陥穽』

 なんなんだ、あの見苦しい女は、とミツキは心の内で呟いた。


「なんなんだ、あの見苦しい女は」


 ミツキと一字一句違わぬ感想を、サクヤが口にする。

 期待値が大きかったためか、珍しく口調に棘のようなものをミツキは感じた。


「あれがカルティアの研究者集団唯一の生存者さ。リズィ・モーヨン博士といって、あれで魔導工学及び魔素研究の分野では第一人者らしい。亡命の動機は、カルティアでさえ成功していない魔素の結晶化を実現している我が国で、王耀晶(ヴェリスティザイト)を研究したかったようだね。そんなわけで、件の集団の中では魔導炉をはじめとした機材の管理を担当していたらしく、召喚関連の知識はほとんどゼロ、というのが彼女の言い分だ」


 つまり、見極めろというのは、あの女が信用できるかどうか、ということだろうとミツキは察する。

 そして、そんなのわかるわけがないだろうと思う。

 メンタリストじゃあるまいし、見ただけで嘘を言っているのかなど、判断できるわけがない。

 むしろ、そっちこそウソ発見器的な魔法はないのかと思う。


「間違いなく真実を話しているな。というか、その程度の見極めもできんのかおまえたちは」


 サクヤの言葉に、ミツキは今更驚かない。

 こいつの外法とやらの汎用性は異常だと内心で呆れる。


「どうしてそう判断できる?」

「脈拍、呼吸、眼球の動き、皮膚の発汗、それらを見れば発言が嘘か誠か程度判断がつく」


 そう言って、額の目を指差す。


「そうか。それではこれ以上の尋問は無駄だな。まあ、それがわかっただけでも良しとしよう。それで、その結論からすれば、彼女から有益な情報は得られないと思うんだけど、それでも会うかい」

「……ああ。会おう」


 サクヤの返答に、サルヴァは意外そうな表情を浮かべる。


「まあ、約束だから構わないけど……キミ、ふたりを尋問室へ案内してくれ」


 サルヴァの指示を受けた騎士のひとりに先導され、ミツキとサクヤは部屋を出た。

 廊下に出ると、近くの角を曲がり、回り込むようにして尋問室の扉の前へ出る。

 扉を開け、騎士が中に声を掛けると、先程の尋問役の兵士が退出した。

 騎士に促され、ふたりは入れ替わるように尋問室に入る。


 リズィ・モーヨンは、泣きすぎて横隔膜の痙攣が止まらないのか、扉に背を向けひくひくとしゃくりあげていた。


「おい、女」


 サクヤに声を掛けられ、呆け顔で振り向いたリズィは、サクヤの異様な風体(ふうてい)を見て眉を顰め、その視線をミツキの顔に向け、大きく目を見開き、みるみる顔を青褪めさせた。


「ひいぃぃ! しょ、召喚者ぁぁ! な、なんでぇぇ!?」


 悲鳴をあげて椅子から転げ落ちたリズィに、なぜ自分を見てそう判断したのかと、ミツキは訝る。

 しかし、すぐに目の下のナンバリングを見たからだと理解する。


「いやっ! いやぁぁ!! こ、来ないで! 私は悪くない! あなたたちを召喚したのは他の奴らであって、私じゃない! だ、だから、私のことは見逃してぇぇ!!」


 サクヤが一歩踏み出すと、さらに狼狽える。


「あ、あんな選別するなんて、私は知らなかったのよ! 本当よ! だから、わらひへぇぇぇ……」


 言葉の途中で、、リズィの体が動きを止める。

 サクヤが額の目で金縛りにしたのだろう。

 己以外の人間に使っているところを見るのは初めてだなと、ミツキはぼんやりと思う。


「勘違いするな。勝手に召喚されたからと、恨みを晴らしに来たのではない。おまえには少し質問をしたいだけだ。素直に答えさえすれば、尋問も終わりにしてやる。わかったか?」


 金縛りは軽めにかけてあるのか、リズィは細かく頷く。

 サクヤが額の目を閉じると、喉を押さえて咳き込んだ。


「あ、あなたたちは――」

「待て。おまえに質問を許したおぼえはない。こちらの問いにだけ答えろ。無駄口を叩くなら、そうだな、ひと言余計な口を利くごとに、歯を一本ずつ引き抜いていく。わかったな?」


 サクヤの脅しに、リズィは口元を押さえながら、高速で頭を上下させる。


「では質問だ。おまえは機材やその動力源の整備と管理を担当していたそうだが、我々を召喚するのにも何か機材を用いたのか?」

「た、多分! 多分そう!」

「多分だと?」

「あ、あぁあぉぉ怒らないでぇ! 召喚のことは本当に詳しく知らないのよぉ! 儀式の最中も、私はずっと離れた場所で魔導炉の管理をしていたのぉ! で、でも、あんなに高出力の魔導炉を何台も使って召喚していたってことは、魔法陣なんかじゃなくて、もっと高度な仕組みの魔導機器を使っていたって考えるのが自然なのぉ!」

「そうか、その機材とやらは、おまえたちの国から持ち込んだものか?」

「そ、それも多分だけど、違うと思う。私は専門家じゃないから憶測でしか言えないけど、いっ、異界からの生物の召喚なんて、持ち運びできるような規模の設備じゃ絶対無理。亡命は本国にバレないように迅速に動く必要があったし、分割して資材を持ち込んだりもできなかったはず。だ、だから、こっちで手に入れた素材で、作ったんだと思う」

「その設備がどこにあったかわかるか?」

「召喚体は研究施設から運び出されたから、そっ、外じゃないのは間違いないと思う。地下研究施設の下層に、私が立ち入りを禁じられていた、く、区画があったから、多分そこ」

「その設備は掘り出せないのか?」

「それは、私が現場の調査をしたわけじゃないから、こ、この国の調査機関に訊いてもらった方が、確実だと思う。でも、あの深い地下空間が、完全に埋まるほどの爆発だし、多分、むっ、無理」

「そうか…‥」


 サクヤはその場で目をつぶり、しばらく何かを考えた後、踵を返して部屋を後にした。

 ミツキも慌ててその後に続く。

 扉を閉める際、一瞬リズィに視線を向ければ、未だに口を押えて腰を抜かしていた。


 廊下に騎士と尋問官はいなかった。

 ミツキらと入れ違いで部屋を出た後、サルヴァらの待つ部屋へ戻ったのかもしれない。

 尋問室との距離を鑑みれば、ミツキらも迷わず戻れると判断したのだろう。

 ミツキもサルヴァたちと合流するために歩き出そうとしたところ、サクヤに袖を引っ張られ、廊下の曲がり角に引きずり込まれた。


「お、おい! 何するんだよ!」


 抗議の声をあげるミツキを無視して、サクヤは廊下に人影がないか確認する。


「何やってんだよ。目的は果たしたんだし、早くサルヴァのところに戻ろうぜ」


 サクヤはなおもミツキの言葉に耳を貸さず、一方的に話し出す。


「アタラティアの砦でおまえたちが戦った甲冑の巨人、奴の顔に我々が肌に入れられているものと同じような模様が確認できたと言っていたな?」

「あ、ああ」


 トリヴィアがリタイアするほどの壮絶な戦いの末、ミツキが辛うじて打ち倒した甲冑の巨人は、その死体の右頬に、確かに例のジオメトリックなデザインの文字がプリントされていた。

 ミツキがこのことを話したのは、サクヤだけだった。


「つまり、ブシュロネアも異界から生物を召喚したと考えるのが妥当だ。問題は、なぜ奴らが、ティファニアと同じような方法で管理しようとしていたかだった。ティファニアとブシュロネアで同時期に召喚が行われ、同じように肌に管理番号を刻んだ。つまり各国独自の技術ではなく、両国に対し同一の第三者によってその技術がもたらされたと考えるのが妥当だ。そして今回得た情報でそれがカルティアであるのは確実になった。連中は亡命と偽って入り込んだ各国の権力者を唆し、我々のような存在を召喚させている。何故だミツキ?」


 サクヤの表情に、ミツキはゾッとした。

 この女のこの貌を見るのは、脳に神通の手術を施された夜以来だ。

 言葉に詰まりながら、ミツキは答える。


「あ、あの巨人はアタラティアへの侵攻の要だった。そして、オレたちはそれを打倒した。そう考えれば、予想はつく。多分、戦争をさせたいんだ。違うか?」

「珍しく冴えているじゃないか。おまえの予想で間違いないだろう。ドロティア王女が察知したという国の危機も、それに由来するものだろう。奴らが何故そんな計画を実行したのかはわからない。だが、現時点で動機はさして重要じゃない。問題はカルティアがどの程度の規模でこの計画を推し進めているかということだ」

「規模が大きければ……」

「そう、大戦が起こる! なぜなら各国は、この計画のことなど知らず、自分たちだけが異界から召喚した秘密兵器を有していると思っているからだ。そう考えれば、国力で圧倒的に劣るブシュロネアが、アタラティアに侵攻した理由もわかるだろう。奴らは自分たちだけに与えられた圧倒的な戦力でアタラティアを制圧できると確信があったのだ」

「でも、甲冑の巨人は確かにとんでもなく強かったけど、奴は地下に封印されていたんだぜ? たったひとつの切り札を封印するしかなかったら、その時点で街道を進軍してくるか?」

「さて、どうなのかな。存外他にもいたのかもしれんぞ。トリヴィアとオメガあたりが知らずに倒してしまっていたとしても不思議はなかろう。それに、あの甲冑の巨人を封印できる人間がいると思うか? 少なくとも奴を封印したのは同じ召喚者だと私は見る。姿が見えなかったのは、あの砦で何者か、例えば甲冑の巨人に殺されたのか、それとも逃走したのか。死体が転がっていたかもしれないとわかっていれば、砦の後始末に参加したものを」

「で、どうするんだその情報? サルヴァに伝えるか?」

「いや、静観だ。この国の上層部が信じるか疑問だし、かえって我らの立場を悪くしかねん。というかその可能性はかなり高い。おそらくほとんどの人間が、被召喚者の脅威の度合いなど理解していないからな。我々などおらずとも自分たちだけで対処可能と判断するのではないか? そしてその場合、危機の原因であり得体の知れない存在の我らは始末されかねない」

「いやでも、もし信じてもらえたら、戦争への備えとかできるかもしれない。そうしたら、多くの命を死なせずに済むかもしれないだろ」


 サクヤは小さく嘆息してみせる。


「おまえは自分の都合の良いように物事を考えすぎだ。そんな善意が通じるほど甘い世界でないのは、アタラティアで理解しただろう。危機を訴えたところで、ヴァーゼラット将軍のような人間に糾弾され、己の立場を際限なく悪くするのがオチだ」

「じゃあ、どうすれば……」

「だから、そのために第一王子を暗殺するのだろう。その後で、あのお姫様が国を動かすために選んだ人間であれば、この情報の重要性を理解し、これから訪れる危機に備えることもできるのではないか?」

「そ、うか……そう、だな」

「わかったのなら、今の情報はしばらくの間胸に秘め、おまえは暗殺に専念しろ。いいな?」

「ああ、わかったよ。それじゃあいつ王様が死ぬかわからないし、とっとと戻ってサルヴァと話し合おう」


 そう言って、部屋へ戻るため歩き出したミツキの背後で、サクヤは喜悦の表情を浮かべる。

 戦争を有利に進めるため、ミツキと、あのお姫様たちには頑張ってもらわねばならない。

 しかし、それはあくまで戦争に勝つためだ。

 戦を回避させるようなことにならないよう、巧く立ち回らなければとサクヤは思う。

 そして、戦に勝利し、敵国に攻め入ることができれば、あの女の言う召喚のための施設とやらを接収することもできるだろう。

 そのテクノロジーを知ることで、己の好奇心はさらに満たされるはずだ。

 期待に胸躍るサクヤは、おもわず独り言ちていた。


「やはり、この世界は面白い」

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[良い点] さくや様のキャラがたっていて面白い!
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