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マッド ファンタジア ・ カーゴ カルト  作者: 囹圄
第六章

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第六十四節 『投石』

 北方方面の防衛線でティスマスやエウルらが泥の中を必死で這いずり回っているのと時を同じくして、氷壁を間に置いた反対側、南方方面でも戦端が開かれていた。

 ただし、その戦況は、北とは大分異なっていた。


「……ありえない。馬鹿げている」


 南方方面の前線でディエビア連邦軍の指揮を執るのは、初戦にて歩兵部隊の総指揮官を務めたディアン・ファイエクという大柄の軍人だ。

 (いわお)のような体躯(たいく)の男は、呆気(あっけ)にとられたような表情を(さら)し、震える手で持った遠眼鏡を覗き込んでいる。

 周囲の兵たちの視線を気にして、副官が小声で(いさ)める。


「どうか落ち着いてください。指揮官の動揺(どうよう)は兵に伝わります」

「落ち着けだと?」


 逆上し遠眼鏡を地面に叩きつけたディアンは、顔を真っ赤にして副官に喚き散らす。


「落ち着いてなどいられるか! 弓矢で手痛い反撃を受けたことは、屈辱的だが、まあ理解できる。弾道が直線のライフルと曲射のできる弓の性質を利用して塹壕内から一方的に攻撃してきた。今更弓などという古臭い武器を持つ相手に、一方的にしてやられたが、仕掛けがわかれば敵の作戦勝ちだと素直に認められる。だがな、なんだあれは!? なんであんなもので、またしても一方的に攻撃を受けねばならんのだ!?」


 そう言って、遠くに広がる塹壕陣地帯前方の一点を指差す。

 その先には、ひと振りの巨大な剣のようなものが地面に突き立てられ、後ろには石が小山のように積まれている。


「投石だぞ、投石! いったいなんの冗談だ! こちらはバーンクライブ製の最先端の兵器で武装しているというのに、どうして奴らは戦う度に戦い方が先祖返りしてんだ!? まったくもって意味が解らん! しかも、それが突撃させた兵士ばかりか野戦砲の弾まで撃ち落とすのだ! オレは悪い夢でも見ているのか!?」


 副官は我を忘れたように自分に詰め寄る上官と遠方の敵を交互に(うかが)う。


「たしかに、厄介です。直線上の兵士をすべて粉砕する威力と飛距離もですが、なにより野戦砲をほぼ封じられているのが痛い。あれのおかげで、最初に叩いたはずの敵弓兵も再び機能しだしています。結果、第一陣として敵塹壕内に突撃できた斬り込み部隊を除けば、自軍の兵は塹壕に辿り着けてもおりません。あの馬鹿でかい剣を盾にして投石を続ける化け物もそら恐ろしいですが、あれを使って即座にこちらの攻めの封じ方を考案した者がいるというのも脅威ですね」

「感心しとる場合か! なんなんだあれは!」

「それは、おそらく――」


 副官の言葉をディアンは手を上げて遮る。


「答えんでもわかっている! というか、奴らの恐ろしさは、革命戦争を戦ったオレの方がよく知っている。しかし、つくづく思うのは、味方につければ頼もしいが、敵に回すとこれ程面倒な相手もいないということだ」


 苦々し気に顔を歪めながら、ディアンは再び遠方の敵を(にら)みつけ、吐き捨てるように呟いた。


「異世界人め!」




 塹壕最前より十歩ほどの距離に鉈刀を突き立て、ただひとりで遠方の敵と対峙するトリヴィアは、手の中で大振りの石を弄びながら視線だけを後方へ動かしながら呟いた。


「サクヤか?」


 その声に反応したかのように、地面に落ちた影がボコボコと波打ったかと思うと、水中から浮かび上がって来たかのようにして、サクヤがゆっくりと姿を現した。


「うまくやっているようじゃないか。作戦を考えた私も鼻が高い」

「敵は鈍足なうえに(もろ)い。そのうえ二、三度味方がやられればすぐに撤退する。これでは苦戦のしようもない。とはいえ、数だけは多い。これ以上広域に展開されれば突破される可能性は十分にある」

「それについてはこちらもようやく弓兵隊の再編が終わったところだ。次に奴らが突撃を仕掛けてきたらそいつらに対処させるから、おまえは取りこぼしのみに集中すればいい」

「もう立て直しが済んだのか? 最初の砲撃で相当手ひどくやられていたようだったが、随分と早いな」

「あの女の手際が予想外に良くてな。ただの飲んだくれでないというのは本当だったらしい」


 サクヤの言う「あの女」とはレミリスのことだ。

 北方方面防衛線の指揮をサルヴァが執っているのに対し、南方方面はレミリスに任されている。

 彼女はブリュゴーリュとの戦でも一軍を指揮して勝利を収めているが、同行したのがオメガだったため、サクヤもトリヴィアもレミリスの戦場での様子を見るのは今回が初めてだった。


「最初の魔道兵器による攻撃で弓兵の三割以上を失ったが、補充には〝影邏隊(えいらたい)〟をあてがった。臨機応変に対応できないゆえ、奴らは本来あまり戦には向かん。しかし号令に合わせて矢を射掛けるという作業なら十分役に立つはずだ。とはいえ、あの砲撃はこれ以上食らいたくない。北方方面はあれのせいで総崩れとなり、塹壕内で血みどろの乱戦を繰り広げているようだ。だから、とにかくおまえは歩兵の突撃よりも、砲弾とやらの撃墜に集中しろ」


 サクヤが話し終えた直後、遠方で複数の轟音が鳴り、次いで上空から弾丸が空気を引き裂いて飛来する気味の悪い音が聞こえてくる。


「言った傍から撃ち込んできたな。ふむ。どうやら塹壕ではなくここを直接狙ってきているようだ。まあ当然と言えば当然か。おまえひとりに歩兵も砲撃も止められている以上、サルでもそうするだろう」

「好都合だ」


 上空を(にら)んで呟いてから、トリヴィアは大きく振りかぶると、手に持っていた石を投擲(とうてき)した。

 空気が破裂したような音を伴い放られた石は、飛来する弾丸の中心に直撃すると上空で爆散させた。

 さらに、トリヴィアは自分を囲うようにして積み上げられた石の山から次弾を掴み上げ、立て続けに投げていく。

 その度に上空で派手な音があがり、煙と炎が地上へと撒き散らされる。

 砲弾の撃墜作業に専念するトリヴィアの背を見つめながら、サクヤはおもわず呟いていた。


「まったく信じられん」


 サクヤの額の瞳も、飛来する弾丸を視認していたが、だからといってそれを投石で撃ち落とすなどできるわけもない。

 それを、寸分たがわず命中させている様子には、試しにやらせてみたサクヤ自身でさえ目を見張っていた。

 敵兵はさぞかし肝を潰していることだろう。


 そんなサクヤの感心とは裏腹に、トリヴィアの表情はどこか気が抜けていた。

 尋常の勝負を好み、戦闘に魔法を持ち込むことさえ(いと)うこの女からすれば、投石での迎撃など戦とすら認識していないのだろうとサクヤは思う。

 しかし、不平のひとつも漏らさず敵の侵攻を食い止めているのは、彼女が守りたいものを背負っているからだろう。

 孤児院の運営に専心してきたトリヴィアにとって、フィオーレは絶対に守らなければならない場所だ。

 おかげで扱いが楽でいいとサクヤは思う。

 この女が自分と同じ南方戦線に配置されたことは僥倖(ぎょうこう)だった。


 北の守りにブリュゴーリュとの戦で要となった優秀な武官や招集された第一王女(ドロティア)親衛隊の多くが投入されたのに対し、南の守り手で名のある人物といえば指揮を任されているレミリスぐらいであり、兵士たちも経験の浅い部隊が選ばれている。

 ただし、その分、国境に向かったミツキらを除いた異世界人はすべてこの南方戦線に置かれた。


 ディエビア連邦軍は遠距離から大規模な爆撃を行う魔導兵器での攻撃を敢行し、塹壕の最前に配置した弓兵は大打撃を受け、敵の突撃部隊の塹壕内への侵入を許したが、レミリスはアリアやテトを伴い迅速に敵兵の対処に当たり、サクヤとトリヴィアは敵新兵器への対策を任された。

 その結果、塹壕に侵入した敵銃兵は短時間で駆逐(くちく)され、トリヴィアを砲台にするというサクヤの案も功を奏し、敵の進軍を完全に押し止めることに成功している。


「こんなこと、いつまで続けるつもりだ? 我々で敵陣まで斬り込み、一気に片を付けてしまった方が手っ取り早いのではないか?」


 砲弾をすべて撃ち落としたトリヴィアがサクヤに問う。


「いや、攻勢に出るのはリスキーだ。ここに留まっている限り、銃弾はすべてその鉈刀で防げるし、砲弾はおまえの投石で撃ち落とせる。敵の銃兵が捨て身で突破してきても、おまえの周囲を囲うように石を積んでいる以上、横から銃で撃たれる心配もない。しかし、突出して取り囲まれれば銃撃を避けるのは難しい。そして、あの銃弾というものを急所に食らえば、いかに頑丈なおまえとて致命傷を受ける可能性も無きにしも非ずだ。そしておまえを失った時点で、この南部防衛線は総崩れとなる」

「なるほど……わかった」


 トリヴィアは納得すると、黙って前方への警戒に意識を戻す。

 当面の間、この膠着(こうちゃく)状態は続くだろうとサクヤは思う。

 そして、それが崩れるとすれば、北の防衛線が突破されるか、新戦力が投入されるかのいずれかだろう。

 敵が今回新兵器を使い始めたのはおそらく準備に時間が掛かったからだ。

 そう考えれば、さらに強力な兵器が控えていてもおかしくはない。

 だが、ティファニア軍とて強力な戦力をふたつも残している。

 それが間に合えば、攻守を逆転させることさえ可能だろう。


「最悪私が()()()を使えばどうとでもなるのだがな」


 サクヤは再び影の中へと身を沈めながら呟く。

 自分も切り札を残している。

 ただし、使うとすれば、もはやどうしようもなくなった時だ。

 敵味方の目に晒される戦場でなど、まず使うつもりはない。

 そんな考えが、意外なほど早く覆されるなどとは、この時のサクヤには思いもよらぬことだった。

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