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第十九節 『加入』

「他にも()ィエ()ア連邦革命軍(かくめいうん)には、多数の被召喚者あ参加していたようら。先王は()リュ()ーリュやティファニアのように選別(せんえつ)落ちの異世界人を間引(まい)くことなく、鉱山(こうらん)などの労働力(ろうろうりょく)として利用したらしい。奴隷商(ろれいしょう)の国の王らしい発想らあ、奴らを甘く見て杜撰(うさん)に管理しようとした結果、そいつらの反乱を招き、反政府勢力と合流され、打倒(らとう)されてしまったというわけら。異世界人(いせかいりん)をこの世界の人間(にんえん)と同りように抑え付けることあれきると過信したのあ運の尽きらったな」


 そういえばとミツキは思い出す。

 ブシュロネア軍も鎧武者のおかげで砦を簡単に陥落させたが、結局制御しきれずに、ミツキらが攻め込んだ際に慌てて解放した鎧武者によって司令官を殺害されている。

 ブリュゴーリュにしても、王に寄生され、あの肉塊の異世界生物に国を乗っ取られた。

 そう考えれば、ミツキの知る限り、自分たちを召喚したティファニア以外の国はどこも異世界人の制御に失敗している。

 非常に大きな戦力となり得るが、それにしても、召喚に伴うリスクはあまりにも大きすぎると言えた。

 そして、おそらく各国の王や政府は、そんなリスクなど承知していなかったはずだ。


 それでは、国のトップを唆し、各国に異世界人を召喚させているカルティアはその危険性を理解しているのだろうか。

 もし、大陸中の国で異世界人が反乱を起こしていたとすれば、もはや戦争どころの騒ぎでは済まなくなるのではないか。

 ティファニアの周辺国がことごとく異世界人の召喚を行っている以上、他にも多くの国々にカルティアは工作を仕掛けているはずなのだ。

 そんな考えを巡らせていたため、ミツキは次の猫女の言葉に意表を突かれる。


「その一方れ、()ーンクライ()には異世界人はいないらしい」

「え!? そ、そうなのか?」

「ああ。()ィエ()ア連邦革命軍の幹部(かんう)が話しているのを盗み聞いた。間違(まちあ)いないらろう」


 だとすれば、バーンクライブがディエビア連邦新政権と軍事同盟を結んだことには、より納得させられるとミツキは考える。

 いかな軍事大国とて、自国に異世界人を擁していないのに、異世界人を備えた他国と事をかまえるのは避けたいはずだ。

 といっても、バーンクライブが異世界人の脅威を認識していることが前提ではあるが。


「異世界人の情報は、アキヒトらによって伝えられたのか、独自に調べたのかはわからないが、自国の軍で相手をするよりも、異世界人同士で潰し合わせた方が、奴らにしてみれば間違いなく都合がいいだろう。となれば、アキヒトたちはうまく使われているな」


 無論、バーンクライブの支援のおかげで革命が成ったことを(かんが)みれば、winwinの関係と言えるのかもしれないが、いずれにせよこれから戦争になるのであれば、二国の連合というよりもバーンクライブの支援を受けたディエビア連邦との戦いになる可能性が高いのではないか。


 それにしても、バーンクライブは大陸北部でもっとも国力があり、軍事力も突出していると聞いている。

 なぜそんな国に限って異世界人の召喚に手を染めていないのだろう。

 カルティアが工作を仕掛けていないのか、それともカルティアからの工作を危険と判断してあえて召喚に手を出さなかったのか。

 現時点では判断がつかないが、後でサクヤと情報共有した方が良さそうだとミツキは思考する。


「私の持っている情報(りょうほう)はそのくらいら」

「そうか、ありがとう。いろいろ参考になったよ」

「えつにかまわない。あれらけ苦労して持ち帰った情報ら。無駄(むら)にはしたくないからな。それより、おまえたちはこれから私をろうするつもりら?」


 やはり猫づらゆえにわかり辛いが、猫女は不安と諦めが入り混じったような表情でミツキを見つめる。

 情報を引き出して用済みとなった以上、処分されるとでも思っているのかもしれないとミツキは推測する。


「逆に訊くが、あんたはどうしたいんだ?」

「私?」


 ミツキに問われ、猫女は意外そうな顔をする。

 しばし(うつむ)いて考え込んでから、大きく息をつく。


「……わからない。元の世界に戻ることはれきないらろうし、かといってこの世界に居場所(いわしょ)もない。洗脳されていたからこそ、王のためにと必死れ生きのいて来たあ、今となってはもはや生に執着する理由もない」

「だったら、当面はここに居ればいい。ブリュゴーリュのように洗脳などしないし、この街はオレの仲間も滞在して住人も異世界人に慣れているから、あんたの見た目で歩き回っても騒ぎにはならないだろう。無論ただ飯を食わせる気はないけどな」

「ウリュオーリュの次はティファニアに忠誠を尽くせと?」

「衣食住を提供する分働けってだけだ。悪い話じゃないと思うが? まあ元々敵国に所属していたわけだし、当面は腹の拘束具で行動は制限させてもらうことにはなるだろうけどな。どうする?」


 そっけなく言うが、サルヴァが利用価値のある異世界人を逃がすのを許すとは思えない。

 最悪、サクヤに蟲憑きにさせてでも手駒にすることになるだろうが、境遇を同じくする者として気は進まないとミツキは考えている。

 だから内心では、この提案を飲み、自発的に従ってくれと祈っている。

 そんなミツキの想いを知ってか知らずか、猫女はしばし考えてから小さく首肯した。


「わかった。同し異世界人れも、おまえたちは()リュ()ーリュの連中とは違って見える。しわらく世話になることにする」


 安堵から、ミツキの口の端が緩む。


「そうか。じゃ、よろしく、えっと……〝青猫〟さん?」

「その呼い名は好かない。()リュ()ーリュの連中にいいように使われていた頃を思い()す。なんれもいいから、(うぇつ)の呼い方を(かんあ)えてくれないか」


 異世界人の名前を考えるのも久しぶりだなと思いつつ、ミツキは頭を捻る。

 猫の獣人という見た目から頭に浮かんだのが、エジプト神話のバステト神だ。

 この猫女が濁音の発音をできないということを考慮して、短縮した名前を提案してみる。


「じゃあテトで」

「わかった」


 テトはミツキに手を差し出す。


「……えっと?」

人間(にんえん)は友好の証に手を(にいり)り合うのらろ? (ちあ)ったか?」

「いや、違わない」


 猫のような見た目のわりには協調性があると、ミツキは少し意外に思う。


「よろしくテト」


 握った猫女の掌は、肉球状で柔らかかった。




 ミツキは当面の間、テトをアリアに預けることにした。

 彼女の下で使用人として働かせることは、この世界の常識や行儀作法を身に着けることにもなると考えたからだ。

 それに、うまく自分たちの仲間として引き込めたものの、どの程度信用できるかはまだわからない。

 ならば、平時はあまり重要な仕事をしていないレミリスの元に置いて様子を見るのも手だろう。

 そして、もしなにか問題を起こしたとて、ティファニアとの戦に駆り出された兎男に致命傷を与えたアリアの実力であれば、戦争では戦力外として諜報任務に回されたテトに後れをとることはそうそうないだろうというのも、この人事の理由だ。

 信頼できると判断できれば、アリアの査定を考慮したうえで運用すればよいだろう。



「しかし、あの女の喋り方は、どうも妙な感じだったな」


 地下施設から戻る途中、オメガにそう話し掛けられ、ミツキは同意した。


「でも仕方ないって。口や喉のつくりが人間とは違うんだ。おまえみたいに問題なく人語を話せる方が珍しいんだよ」

「そうじゃねえよ」


 濁音の発音ができないことを言っているのだと思ったミツキは、オメガの否定に首を傾げる。


「オレが言いてえのは、あの見た目でどうして語尾が〝ニャ〟とか〝ニャン〟じゃねえんだってことよ」

「……えぇ」


 ミツキは思わず立ち止まり、オメガの顔をまじまじと見つめながら呟いた。


「おまえが言うのかワン?」

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― 新着の感想 ―
[良い点] オメガがめちゃめちゃ暴れそうな終わり方で草
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