12 対峙③
いきなり突き飛ばされ、るりは驚いて目を開けた。
青いくらい白いものが、目の前にぬっとあった。
「どけ、結木草仁。邪魔するとお前ごと神鏡をたたき割る!」
ひっくり返った明生の声が響く。
「やかましいワ、このガキが」
怒りを押し殺した低い声が、ぼそっとそう言った。
「さっきから黙って聞いとったら、ごちゃごちゃごちゃごちゃ、甘ったれたことぬかしやがって」
言葉と同時に、青白い幻の炎が結木の身体から燃え立つ。
明生の、気圧されたように後退る気配がした。
「明生さん。お宅さんも色々思うこともあるやろうし、割り切れんのもわからんことない。お宅さんはお宅さんなりに、一生懸命やったもんな。せやけどな、るりさんもるりさんで、メッチャ大変な思いしてきはったんや。あんたが好き放題暴れまわったせいで、るりさんがどんなに肩身の狭い思いして、息をひそめるみたいにして生きてきはったと思てるねん」
「う、うるせえ!お前こそごちゃごちゃ、なんなんだよ!かんけーねーヤツは引っ込んでろ!」
「関係なくはない」
結木は素っ気なく言う。
「俺はるりさんの婚約者や」
るりはぎょっとして結木の背中を見る。
さすがに明生も絶句する。
「は……ははは。なにハッタリかましてるんだよ、おっさん」
引きつった声でそう言う明生へ
「ハッタリ?」
結木は鼻先でせせら笑う。
「仮にハッタリやったとして。それがナンボのもんやねん。少なくとも御剣さん、あんたは彼女の婚約者にも旦那にもなれんわな。そもそも実の兄貴やし、二十年近くも前に死んでる、かわいそーな怨霊さんや。大体やな、子供はいつまでも起きてるモンやないで。サッサとあの世行ってネンネせえや」
「クソジジイ!」
「悔しかったらクソジジイになってみい、永遠の少年さんよう」
「ゆ、結木さん!」
るりは慌てて立ち上がった。
いつにない結木の口調。
明生を挑発しているとしか思えない。
このままでは、逆上した明生に結木は傷付けられ……場合によっては命を落とすことになってしまう。
こちらへ向かせようと肩をたたき、鋭く弾かれて驚く。
結木の全身を覆っている青白い幻の炎は今、介入を拒む結木自身の意思だった。
「他人の婚約者の命を、勝手に奪ってゆくつもりなんやろ?あんた」
冷ややかな声で結木は言う。
「そんなん黙って見てる訳ないやろうが。全力で阻止するに決まってるやんけ。どうしてもっちゅうんやったら……俺の屍、越えてゆけや、にーちゃん。そのへなちょこの見てくればっかりゴツイ剣で、サクッと俺の心臓を刺してゆけや……出来るんやったらな」
ホレホレ、と馬鹿にするように結木は、左手の親指でぞんざいに胸を示す。
「心臓はココや。間違わんと刺しや、ボクちゃん」
「結木さん、やめて下さい!」
るりは叫んだが、結木は振り返りさえしない。
止める為に彼らの間へ割って入りたいのに、どういう訳か身体が動かなかった。
明生の気配がすうっと冷えた。
「そこまで言うなら」
ふふ、と明生は含み笑う。
「ご要望にお応えしましょうか、オナミのクサのツカサ。最初に公園で見かけた時から、オレはあんたが気に食わなかったんだよ!」
ふん、と結木は鼻を鳴らす。
「そうかい、奇遇やな。俺もあんたが気に食わんワ。ヒトの記憶をいじくりまわして、とんでもない悪夢見せてくれはって。お陰で窒息しかけたっちゅうねん、丁重に礼を言うとこか?どうもありがとうございました!」
くくく、と低い声で明生は笑った。
「別に礼はいらねえ。ついでに釣りもいらねえからよ、たっぷり剣を味わって、お前こそとっととあの世へ行きやがれ!」
声と同時に鈍い音。
ぐらり、と、結木の身体がゆらいだ。
「結木さん!」
るりは悲鳴を上げ、ようやく動くようになった脚を押し出し、急いで結木の前へまわった。




