序 ①
私は夢を見る。
とても綺麗でとても切ない、同じ夢を。
いつごろから見始めたのかはっきりしないが、多分、十歳は越えていたと思う。
季節は初夏、だろう。
柔らかな草が一面に萌え出ている、明るく晴れた草原に私はいる。
草を踏んでしばらく行くとゆるやかな小高い丘があり、姿の美しい若い木が一本、すっと生えている。
不意に風が吹く。
丘の上の若木は、涼し気な葉ずれの音を響かせる。
木の種類までははっきりわからないが、楠のような楢のような葉に見える。
風に踊る葉は、裏と表の色合いが微妙に違うのだろう、陽射しを弾いてキラキラと輝く。
私は少し離れたところに立ち、葉をゆらす若木を見ている。
初めて見た木なのに、何故かとても懐かしい存在に思えてならない。
あの木の根元に座り、幹にもたれかかって揺れる小枝や木漏れ日を見たい。
そう出来たらどんなに心が安らぐだろうと思う。
だけど私は行かない。
行けない。
行ってはならない、と強く思うのだ。
私がそばへ行くと、この懐かしくも美しい木は枯れてしまう。
涙ぐみ、私は思う。
あの木が本当に大事なら、決して近付いてはならない。
唇をかみ、私はじりじりと後ずさりする。
いつの間にか黒い靄が、私の身体に静かにまとわりついていた。
私は逃げられない。永遠に。
虚しさに絶望する。
そう、私は……。