7 雨のち晴れ
カコカコカコカコ……
カコカコカコカコ……
予想外です。木靴がこんなに重いなんて。
一年寝たきり同然だった僕が、一ヶ月頑張ってようやく歩ける(連続十歩ですけど)ようになったのに。
靴を得てようやくアイリスを探しに行けると思ったのに。
木靴を履いたら三歩に逆戻り、二日たって転ぶことも減りましたが、四歩ごとに休憩を取らねばならないとは。
アイリス探しが遠のきました。
「リューク、昨日までの雨でぬかるんだところがあるから、一人でお外はダメだからね」
アリアです。やっぱりアリアは僕の監視のようです。
「あいあ、ちょと」
「だからダメだって。明日なら乾くだろうから今日は諦めなさい」
そう言いながら、僕を抱き上げ干し草を詰めて固める為の木製の箱に入れられた。
この木箱、爪先立ちをしてようやく顎を縁に乗せられる高さです。
歩けるようになってかえって危ないと、みんなで外で作業する間、放り込まれることになりました。
「はーい」
「わぷぅっ」
突然草が上から降ってきて、思わず尻餅をついてしまいました。
「メリサ、集めた牧草を入れるのはあっちの箱よ。こっちにはリュークがいるから」
「リューク葉っぱおばけ〜」
頭から牧草を振りかけられ、草まみれの僕を見てメリサがきゃっきゃと楽しそうにはしゃいでます。おのれ。
アリアが頭や顔の草を払ってくれたけど、口に入った草を「ぺぇ、ぺ」と吐き出そうとするがうまく吐き出せません。その様子を見てアリアがとってくれました。
足元の草を掴んでメリサに向かって投げつけてやる。えい!
ぱらぱらり……
草は箱の縁を超えられず足元に落ちる。もう一度拾って、あ!
ゴン!
「んぎゃ」
「リューク何やってるの!」
しゃがんだ拍子に、前に転がり頭をぶつけた僕をアリアが抱き上げる。
「う〜、う〜」
「リュークどんくちゃい……」
「めりちゃ、ドンクちゃい、ちやう」
メリサに抗議しつつ、ぶつけたところに手をやろうとするも手が届きません、くう。
「もう、メリサはリュークをからかってないでお手伝いに戻りな」
「はーい」
メリサはカゴを持って牧草を刈るブラザーニックたちのところへ戻っていった。
「ほーら、痛くない痛くない」
アリアがぶつけたところにちゅっとキスをした。
・・・
『痛いの痛いの飛んでいけ〜』
『シュウ。なんなのそれ、呪文?』
『いや、おまじないつーか、子供の頃お袋がぶつけたりした時撫でながら言ってた。効果はないんだがなんだか痛いのがましになった気がするんだ』
『ふーん、何か効果があるんかしら、研究してみる価値あり?』
いつだったか、刺さったトゲを抜いてくれた時の両親の会話を思い出した。
「リューク?」
「……あい」
アリアの呼ぶ声に、現実に戻る。
アリアは牧草をさっと片付けて僕を箱に戻した。
「大人しくしてね」
アリアも草刈りに合流する為行ってしまった。
ブラザーニックたちが採取から帰ってきて、午後からは牧草刈りです。刈った草を放牧できない雨の日用に、ぎゅっと固めて保存するんだそうです。
箱の広さは縦1メートル、横0.5メートルほどあるので寝転ぶこともできる。だがいつものクッションがなく寝心地は悪い。
ガコガコガコガコ……
箱の中でトレーニングを続けようと思ったけど、木靴の音が、箱の中で響いてうるさいです。むう。
座りごごちは悪いですが、箱に凭れて座りこむ。上を見ると昨日までの雨が嘘のような青空に白い雲が風に流れていきます。
「あ、あいりちゅ」
雲は様々な形で、その中の一つがまるでアイリスのよう。流れていく雲を追いかけて眺めていると、なんだか眠くなって……くう。
「よく眠っていたわね」
シスタータバサの声で目が覚めた。気がつけば、空はうっすら赤く色づいてます。
いつの間にか僕の下にはいつものクッションがありました。そして大量の牧草。
「さあ、戻りましょう。夕食の前に身体を拭きましょうね。メリサにはお小言が必要かしら。こんなに草まみれにして」
どうも眠っている間にまたメリサに草を放り込まれたようだ。身体についた草を払ってからシスタータバサが僕を抱き上げた。
「いたずら違うもん、草のおふとんだもん」
下を見るとメリサがシスタータバサのスカートを握りしめていた。
暖かかったから今回は許してあげます。
しかしいつの間にか夕方になってしまい、今日はトレーニングもアイリス探しもできなかった。
おまけにオムツの中は……
シスタータバサが、若干僕の身体を自分から離した状態で抱いてます。
すみません、粗相しました。がっくり。
アリアはリュークのお守りを言付かってます。