5 雨上がり
誤字報告ありがとうございます。
あの日雨がやんだのは数時間のみ。
あれからさらに三日雨が続いた。
ペタペタペタペタペタ、ペタペタペタペタペタ、はふう。
ふふふ、ついに転倒せず歩けるようになりました。
ただし、十歩で休憩が必要ですけどね。
トレーニングは順調です。
……
…………
あっちの方も、うん、順調ですよ。それが何か?
目の前で「しーこいこい」とか言われてもこないものはこないのですよ!
はっ、そんなことより。
今日は朝から雨が降っていません。7日ぶりの晴天です。今日こそはアイリスを探しに行くのですよ。
ペタペタペタペタ、ペタペタペタペタ、ペタペタ、ほふう。
雨が続いたせいか、礼拝堂の中を歩くと足裏がちょっとペチャっと張り付く感覚がします。
今日はみんな大忙しです。
女性陣は連日の雨で溜まった洗濯物を持って外の井戸に向かいました。
男性陣、年長さんはブラザーニックと林に採取に行きました。
雨の後はキノコが巨大化するのです。今日の夕食はキノコスープでしょうか。
年少さんは山羊の放牧です。ブラザーニックがいないので牧草刈りの大鎌を使える人がいないので、放牧だけで牧草の刈り取りまではできません。
この辺りの土地は樹海が近いせいか、植物の成長が早いようです。牧草は十日もあれば僕の背くらいに伸びてます。
皆が忙しくしている今がチャンス。
空気を入れ替えるため、窓も玄関の二重扉も大きく開け離れています。さあ、アイリス、待っててくださいね。
足音を立てないようにしたくとも湿気った石床と裸足の足裏は、僕の意思に反してペタペタとなります。でもついに玄関の扉をくぐり外に出ました。
明るい太陽、降り注ぐ春の日光、そよぐ風は牧草の匂いを運んできます。僕は大きく深呼吸をして玄関から足を踏み出し……
踏み出し……
…………
踏み出せませんでした。今日の最初の難関は玄関扉ではなく三段の石階段でした。
平面は歩けるけど階段の昇降の練習はしていません。階段を降りるのはまだちょっと……
しかしここで諦めるわけにはいかないのですよ。
這ってでも降りてみせます!
「むぅ、ぐちゃぐちゃ……」
長雨で石段の周りの土の部分は泥と化し、出入りしたみんなの靴跡でドロドロです。
僕は自分の足を見る。うん、裸足だね。意識を取り戻してからこっち、靴とか履いた記憶なし。
果樹園もいつも抱っこで連れて行ってもらってた。
「リューク、一人でお外に行っちゃダメだよ」
この声はアリア。何ですかいつも、もしかして僕を見張ってるの?
「あいあ。あっち、めっ」
「何言ってるかわかんないよ。ちょっとおいで」
あ、抱き上げられてしまった。アリア十歳なのに力もちです。
そのままシスターたちのところに連行されてしまいました。今日もアイリス探しはお預けでしょうか?
「シスタータバサ。リュークが外に行きたいみたいなの。リュークが履ける靴ってあるかな」
何と! 僕の靴を探してくれようとしていたとは。アリア見直しました。僕はアリアににっこり微笑みかけます。
「リューク、気持ち悪い……」
シスタータバサのスカートを掴んでいたメリサが、僕をみて呟く。失礼な。
「めりちゃ、わるいちやう」
メリサは僕の言葉を理解していないようで、こてんと首を倒し、シスタータバサのスカートに隠れた。
シスタータバサはそんなメリサの頭をひと撫でして、カレンたちの方に背中をそっと押し出した。
「そうね、この一週間随分礼拝堂の中を動き回っていましたし、そろそろ教会回りくらいなら大丈夫かしら」
シスタータバサがアリアから僕を受け取り抱き上げる。するとシスターチェスタが僕の足を掴んで引っ張った。
「うにゃっ」
あ、変な声出ちゃった。
「う〜ん、メリサが去年履いていた靴でも、少し大きいんじゃありませんか?」
む、今四歳のメリサが去年履いていたなら、僕と同じ三歳ってことですよね。僕の方が小さいってこと?
「つま先に詰め物をすれば履けるんじゃないかしら。あと、滑り止めを塗り直した方がいいでしょうね。カレン、洗濯物は洗い終えて干すだけだから、お願いしていいかしら」
「はい、シスタータバサ」
カレンは今年十二歳のしっかり者の農家の娘だ。ちなみにアリアは十歳でハンターの娘、時々木の棒で素振りとかしてるハンター希望の少女。だからチカラ強いのかな。
僕だってこの一週間でちょっと体力ついたもん。
お肉のおかげで。やっぱり野菜クズのスープだけじゃ大きくなれないよ。
うさぎが届けられた翌日、雨の中今度は鹿が届けられた。おかげでスープだけじゃなく小さな串肉が夕食についた。僕のは潰して肉団子になってたけど。
成長のためにはタンパク質が必要不可欠だね。あれ、何でこんなこと知ってるんだろう、僕。まあいいや。
それだけでなく、昨日は草の葉に包まれた大きなキノコが届けられた。
昨日はキノコソテーも夕食についた。
連日の雨でこんなにキノコが成長してるのかと、急遽今日年長男子たちはキノコ採取に向かったのです。
今日はキノコスープかな。