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2 辺境の村


 この開拓村では十四歳で成人と認められ、希望すれば畑(未開拓の土地)が与えられる。

 移住者の少ない土地なだけに将来の村民となれる孤児の扱いはまあ良い方であろう。

 だが、働かざる者食うべからずの精神が生きる辺境の地では六歳ともなればいくばくかの仕事が振られる。

 仕事らしい仕事がないのは僕とメリサくらい。


 この孤児院に今いる子供は下から三歳の僕、四歳のメリサ、六歳のダグ、八歳のジョドとシェリー、十歳のアリアとゼクス、十二歳のカレン、十三歳のポッドの九人。

 去年までもう二人いたらしいのですが十四歳になったことで一人は畑をもらい、もう一人はハンターとなって巣立っていったそうです。

 ポッドももうすぐ十四歳になります。彼はハンターになるそうで去年ハンターになったジークとパーティを組む約束をしているのだとか。


 ここでは十四歳が成人とみなされ、農業を希望すると畑と支度金が、農業以外を選ぶと畑がない分多めの支度金がもらえ、村人として登録されます。

 納税義務は二年免除されるそうですが、何ということはありません。この国の一般的な成人年齢は十六歳なだけでした。

 十四歳で畑や支度金がもらえるのは「成人する十六歳までに納税できるように頑張れ」ってことですよ。

 開拓村はあと十年ほどは減税措置が取られているそうで、他で食い詰めた人が今でも時々やってきて村は徐々に大きくなっています。


 仕事の選択は自由ですが、ハンターを選ぶ子供は親がハンターだったものが多いようです。

 開拓村では十歳になると見習いとして仕事を教えてもらえる仕組みがあるようで、シェリーなどは「針子になりたい」といっています。お母さんが裁縫師だったそうです。


 去年畑をもらったボブスは、妹のカレンと二年前に孤児院にやってきたそうです。それまでは両親を手伝って畑仕事をしていたのだそうで、カレンも十四歳になったら来年畑をもらって一緒にやっていく予定だそうな。


 そうやって巣立っていったとしてもそのうち新しい子供が増えます。

 孤児院の経営は領主の補助金と教会の援助金、信徒の寄付金で賄われていますが、さほど余裕はないようで、如実に反映されるのが衣食住のうちの食。

 一日二食の清貧メニューでは三歳児の腹は満たされないのですよ。今まではほとんど動かなかったので問題なかったかもしれませんが、トレーニングを始めた僕には不十分です。

 ハイハイといえど侮るなかれ、そこそこエネルギー消費し、お腹が減るのです。

 自分で食事を取れるようになってからは、皆と同じメニューの食事。屑野菜がちょろっと浮いた味の薄いスープと僕のこぶしより小さい固いパン一つでは夜まで持つはずもなく。

今日もエネルギー不足で、午前中の早い時間に力尽きました。

何かと忙しいシスターたちの手を煩わせないため、今日も木陰でのんびり昼寝をするのが今の僕の仕事です。


 のんびり昼寝といってもトレーニングは必要なので、身体でなく口を動かします。


「おにゃか、へった」


 発声練習を兼ねて、思考を言葉に表します。


 一ヶ月のトレーニングの結果、今は立って歩ようにもなりました。

 ……ようやく三歩ですけどね。

 だが三歩でも歩けばエネルギーはさらに消費されるので、今は休憩タイムです。

 継ぎ接ぎだらけのクッションにうつ伏せにのしかかる。

 さわさわと風に枝葉が揺れ眠気を誘う。寝てしまいたいのに空腹が邪魔をする。


「グルルルルゥ……」


 僕のお腹の音ではないです。

 眠気にぼやけた思考にどこからか聞こえた獣の唸り声のようなものが覚醒を促した。

 ピッと膝立ちになり(気持ち的には機敏に立ち上がったつもりだが、実際はのっそり)辺りを見回すがそれらしいものは見当たりません。気のせいかとまたクッションにうつ伏せになる。


「グルルルルゥ……」


 再びピッと(実際はのっそり)膝立ちに、そしてハイハイで木の幹まで移動し、美希の向こう側を覗き込む。

 やっぱり何もいない。

 この辺りに生えている木は果樹だ。

 僕がいる場所は、山羊の牧草地から続く果樹園の端。教会を挟んだ放牧地の反対側は畑。

 教会といえど辺境の開拓村では自給自足は必須なのですよ。

 果樹園の端が教会の敷地の端であり、そこには境界を示す柵がある。柵は高さ一メートルほどで獣避けとしても若干役立たずかもと思う。

 柵の向こう側は元森だったが、十年の間に建築資材や薪用に伐採され、今では木々はまばらになっている。

 樹海はこの林よりもっと向こう、大人が歩いて1日かかるくらい離れている。この林にはモンスターはいないが普通の獣は生息している。


 村人だけでなくブラザーニックやシスタータバサ、年嵩の子供達も時折薬草やキノコ摘み、薪拾いなどに訪れる林です。

 そんな林を果樹園の木にもたれて眺めていると、木の陰から白い何かがのっそりと現れた。

 

 その白いものは木の陰からさらに一歩前にでる。


「アイ……リちゅ?」


 う、頑張って発声練習をしているところなんです。だけど一年声を出していなかった三歳児なのだからこれくらい噛んでも仕方ないのですよ!

 そんなことより木の陰から現れたのは白銀色の狼。あれは母さんの従魔のシルバーウルフ(アイリス)ではないかと思う。

 一歩、二歩とアイリスに向かって歩き出す。が、三歩目にはポテンと尻餅をつく。


「アイリちゅ」


 再度名を呼び立ち上がる。周囲を伺いつつ木陰から進み出たシルバーウルフは、その長い尾をゆっくり左右に降っていた。やっぱりアイリスで間違いない!

 両手を伸ばしアイリスに駆け寄る(気持ちだけは)が、三歩めにはぺちゃんと倒れた。


「う〜、う〜っ」


 ままならない身体に苛立ち、しかし諦めず三度立ち上がる。アイリスも周囲を警戒しつつちょっとずつこちらに歩いてくる。

 もうちょっと、もうちょっとで……


「キャアアッ! シスター! シスター!!」


 背後から甲高い少女の悲鳴が上がり、僕は振り返ろうとしてまた転んだ。今度は仰向けで。

 痛い。果樹園のむき出しの土の上は牧草地より固かった。

 何とか身体を動かし、ようやくごろりと寝返りをうち頭を上げると、先ほどの場所にアイリスの姿はなかった。


「アイリちゅ、アイリちゅ? どこ?」

「リューク!」


 駆け寄ってきたシスタータバサに抱き上げられるが、僕はアイリスを探しシスタータバサの腕から逃れようともがいた。

 だが虚弱な三歳児では成人女性の力に叶うはずもなく、そのまま抱いて孤児院に連れ戻された。


「アイリちゅ、アイリちゅ……うう、うわ〜ん……」

「リューク、もう大丈夫ですからね。アリア、あなたもいらっしゃい。ブラザーニックに山羊たちを囲いに入れるように伝えて」


 シスタータバサはそばにいたアリアに指示を出す。さっきの叫び声はアリアだったのか。

 僕は泣きながらアリアを睨みつけるが、アリア自身は毛ほども感じておらず、走り去った。


「うわ〜ん、あいあのばかぁ……」


 そして泣いて暴れた僕の意識は程なく落ちた。

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