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9 白い影

誤字報告ありがとうございます。

 

 藪を突っ切って飛び出してきたポッド。その後ろに続いてナイフを手にしたゼクスが藪を飛び越えるように躍り出る。


「みんな何してる! 早く逃げろ!」


 僕たちを見つけゼクスが叫んでます。いったい何事かと思っていると、藪を突っ切って飛び出してきたものがいました。


「ブヒヒヒッ」


 イノシシです。口から泡になったヨダレを飛ばしながら、カツカツと前足で地面を書いています。


「くそ、手負いで興奮してる」


 ゼクスの言葉にイノシシを見ると折れた矢が何本か刺さっていた。


「あっ」


 シェリーがつまずいて転倒し、そのシェリーを避けようとメリサを抱えたカレンも転倒した。


「カレン、シェリー立って!」

「ぐえ」


 アリアは僕を左腕に抱え直し、右手でシェリーの腕を引っ張って立たせようとする。

 そのせいで僕のお腹にアリアの腕が食い込んで変な声が出ちゃった。

 シェリーは立ち上がったものの、アリアの勢いに耐えられず引きずられる形になってまたつんのめる。


 ゼクスが石を拾ってイノシシに投げつけた。


「ブヒッ「

「こっちだ、猪野郎」


 石をぶつけられ猪はゼクスに向かって突進する。


「ゼクス!」


 ポッドがカレンを立たせながらゼクスの名を呼びました。ゼクスは向かってくる猪を迎え撃つように構えたっています。

 ゼクスは落ち突進してくる猪を睨みつけ、ぶつかると思った直前で飛び退いた。


「ブヒィィ」


 ゼクスに交わされた猪は、ゼクスの真後ろの木に突っ込んだ。頭から突っ込んだ猪は頭をぶつけふらつく。


「逃げるぞ」


 ゼクスがこちらに駆け寄ってくる。


「ブヒヒヒィィィ」


 カレンが腰を抜かしたのか立てずにいると、猪がこちらを血走った目で睨みつけていた。


「まずい、は、早く立て……」


 転んだままのシェリーに、腰が抜けてしまった蚊のようなカレンと、カレンを立たせようとするポッド。僕を抱えたアリアはどうするべきか迷っている。


 だが迷う時間を猪はくれなかった。

 猪は血走った目で僕たちに向かって走り出した。


 タタタッ!


 僕たちの真横を白い影が走り抜けた。







《シスタータバサside》


「教会に獲物のおすそ分けを持って行った狩人? そんな話は聞いてないし、狩人連中も雨の間は狩に行ってなかったぜ。おかげでウチも品薄だ」


 ここしばらくの間、どどけられた兎などについて聞いてみたものの、誰も心当たりがないと言う。肉屋でも訪ねてみたがこの一週間ほど続いた雨の間、狩人からの納品がないとのことだった。

 一体誰が届けてくれたのだろうか。

 シスタータバサが疑問に思っていると、肉屋の主人が話しかけてきたのでそちらに意識を戻す。


「孤児院のガキンチョ共も森に行ってるんだよな。最近見慣れない種類の狼を見かけるって狩人連中が言ってたから、シスターのとこも気をつけたほうがいいぜ」

「見慣れない種類の狼ですか?」

「おおよ、そいつは────


 肉屋の店主は狩人連中から聞いた話だと言う。

 だいたい一年ほど前から時々見かけるようになったそうだ。

 この辺りでも樹海の方でも見かけない白っぽい大きな狼だそうだ。

 他の狼と違って出会っても襲って来ず、しばらくこちらをジッと見ていたと思うと、搔き消えるようにいなくなるのだとか。

 他にも危ないところを助けられた狩人もいるらしい。

 仕留め損なった獲物に返り討ちに合いそうになったところ、横から飛び出してきたその狼が獲物の喉笛に噛みつき仕留めたそうだ。

 そのあと、狼が獲物をそこに置いて去って行った。せっかく仕留めた獲物を置いていくなんておかしな狼もいたもんだと話に上がったそうだ。


「ひと月ほど前からその狼の姿を森で頻繁に見かけるそうだ。大人の狩人は見逃すが子供はわからないから注意したほうがいいぜ」

「白っぽい大きな狼……一年前……」


 シスタータバサはその狼に心当たりがあった。一年前訪ねた時は誰も知らないと言われた。

 つい先日、果樹園のそばでアリアが見たと言う狼。

 リュークが教会の前に籠に入れておかれていたあの日、私が見た白い狼ではないのだろうか。


 毛皮を売って調味料も購入した。シスタータバサは胸騒ぎを感じて教会に戻るため足早に村の中を進んだ。






《リュークside》


「プギュゥゥ!」


 白い影が猪に劣らずものすごい速さで突っ込んでいった。そのまま猪の首に噛み付くと、猪が悲鳴をあげる。

 大人でも数人がかりでないと持ち上げられないような猪を、その白い影……狼は猪を咥えたまま頭を軽く振った。

 それだけで猪の体は宙を舞い、さらに狼が頭を振ると、バキッ! と硬いものが折れる音がした。

 地面に叩きつけられるように落ちた猪は、口から血の泡を拭きながら四肢を痙攣させるも起き上がることがなかった。


「アイリちゅ?」


 僕が名を呼ぶと白い狼は猪を前足で踏みつけたままこちらを向いた。


「ひぅ」


 アリアがおののくと僕を抱く手の力が緩んだ。僕はそのまま降りてアイリスの方に歩き出す。


「アイリちゅ、アイリちゅ」


 呆然としていたみんなは僕がアイリスに向かって行ったことで我に返った。


「な、あ、リュークダメだ!」


 最初にゼクスが僕を止めようとしたが、僕はゼクスの伸ばした手をかわし、そのままアイリスに向かった。


「リューク!」


 アリアが僕の名を呼んだけど、僕はもう止まらない。


「アイリちゅアイリちゅアイ……あっ」


 アイリスの名を呼びながら走ろうとするも、ようやく歩けるようになった僕が走れるはずもなく、つまずいてしまった。


「ワフゥ」


 転ぶ寸前アイリスが僕のお腹に頭を押し付け支えてくれる。


「アイリちゅアイリちゅアイリちゅ〜」

「ワフ」


 必死にアイリスの首にしがみついて名を呼ぶ。やっぱりアイリスだ。アイリスは泣きじゃくる僕の顔をペロリと舐めた。

 ……アイリス。なんだか臭いよ?



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