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忍びよる影 2

「ミツキが行方不明とはどういうことだ!」

「申し訳ございません!……」

 驚愕するルーカスに頭を下げ、ジェイソンは拳を握り締める。成す術もなかった己に、ぎりりと歯を噛み締めた。



 ルーカスとカイトは悲鳴と物音の先を探しに行っていたが、駆けつけた場所にはそれらしいものは見当たらなかった。その周囲を確認し戻ろうとした時に、広場から逃げてくる人波に阻まれることになったのだ。

 この異常な騒ぎに急ぎ戻ろうとしたところに、美月を追い探していたジェイソンを見つけた。

「どうした、ジェイソン!何故此処に?ミツキ達は?」

「それが、現在行方不明で探しているところでございます…」

 そこでルーカスが驚愕することになったのだった。



 事のあらましをジェイソンが説明しようとしたところに、別の護衛騎士が掛けてくる。

「牛は東の方へ駆けて言ったそうです!」

「牛?!」

 カイトが思わず聞き返す。

「はい、暴れ牛が襲いかかってきて…」

 そこまで聞いて、ルーカスとカイトに緊張が走った。

「ジェイソン、来い!移動しながら話を聞く!」

 既に走り出していたルーカスに呼ばれ、ジェイソンも慌てて駆け出した。


 東へと抜ける道を駆けながら、“牛から少女を助けた美月がまるで囮になるかのように牛を挑発し走っていったこと。制御が効かなくなった牛が美月を追っていったこと。騎士たちが興奮する馬を制していたため、手が離せなかったこと”をルーカスに伝えた。

 そこまで聞いたルーカスが、立ち止まる。

「待て!」

 先を走る騎士を止めた。

「ここから二手に分かれる。お前たちは引き続き牛の捜索をしてくれ。こちらは別ルートでミツキを探す!」

「はっ」

 先を走っていた4人は再び走っていく。残るはジェイソンとカイト、それにルーカスだ。

「少し待て」

 ルーカスは意識を集中させた。

「こっちだ。行くぞ、カイト、ジェイソン」

 走り去った4人の騎士とは別の道へ、ルーカスが歩き出す。


「あの、隊長…これは一体…?」

 事態が飲み込めないジェイソンが、逡巡しながらカイトに声をかけた。


「ああ、ジェイソンは知らないのか。ミツキ様が身に付けている首飾りには殿下の魔力が込められていて、おそらく殿下はそれをたどっていらっしゃるんだと…」

 そんなことが出来るのかとジェイソンは目を丸くする。

 ジェイソンも魔力がないわけではない。だが、何かを出来るレベルではなく、日常で使うこともないのだ。ルーカスが迷うことなく突き進んでいく後を追いながら、少し身震いした。


「こっちだ!」

 ルーカスが駆け出した。

 カイトとジェイソンも目を合わせ後に続く。


 走り着いた先は住宅街だった。

 商売人たちの住居のためか、通りは閑散としている。


 ルーカスには確信があった。この先の路地に、確かに自分の魔力を施した石の反応を感じていたからだ。

「ミツキ!」

 路地に走りこんだルーカスは美月の姿を探した。


 しかし、路地に美月の姿はなかった。


「どういう…ことだ…?」


「殿下!ミツキ様は―――」

 遅れて駆け込んできたカイトが声を掛け、途中で押し黙る。

「これは…」

 続いて路地にたどり着いたジェイソンも言葉を失った。


 路地には、血を流して倒れている男の姿しかなかった。


 その手前に落ちている宝石を、ルーカスが拾い上げる。

 紛れもなくルーカスから美月に贈ったネックレスだった。

「鎖が切れている…。何があった?」

 ルーカスの顔色が青ざめていく。


 動揺を隠せないルーカスに、カイトも声をかけるのを躊躇った。


「事切れていますね。首を一突きにされている」

 男の状況を確認していたジェイソンが報告する。

 そうしてうつ伏せていた男の体をジェイソンが反転させたとき、カイトが叫んだ。

「殿下!この男は、食堂にいた酔っぱらいです!」

「何?!」

 改めて見ると、確かに絡んできた酔っぱらいだった。


「何故殺されている?」

 ルーカスが眉根を寄せる。

「分かりません。何か関係があるのでしょうか?」

 カイトも怪訝な顔をする。

「喉を一突きです。余程の手練の仕業かと…」

 見回しても喉元以外に傷がない。ジェイソンは手を下した相手の人物像を想像していた。


「ミツキ…」

 ルーカスがネックレスを握り締め、その手に顔を寄せ呟く。

「どこだ、どこにいる…」


 魔力を発してもその形跡は追う事が出来なかった。


 それでもルーカスは魔力を放出させていく。


 その圧倒的な力の威圧感に、ジェイソンは目を見張った。想像を絶する魔力は恐怖でしかなかった。足許は縫い付けられたかのように動かない。呼吸をするのも苦しかった。周辺の建物も影響を受けビリビリと振動している。


「殿下―――っ!」

 カイトがルーカスの手を両手で覆った。

「お気を確かに!このままでは殿下が倒れてしまいます」

 ルーカスの圧倒的な魔力の前に、カイトの顔も苦痛に歪んでいる。しかしルーカスの動きは変わらない。


「殿下っ、しっかりしてください、ミツキ様を探しに行かないと!」


「!」

 カイトの言葉がルーカスに届いた。

 放出されていた魔力が収められていく。


 ジェイソンは急に体から力が抜け、思わず膝をついた。やっと息を吸う感覚が戻ってきた。


「すまぬ、カイト」

 我に返ったルーカスは、自分の暴走を周囲の状況から察知し、大きく息を吐いた。


 カイトも乱れた呼吸を整えながら、ルーカスに進言した。

「大丈夫です、問題ありません殿下。搜索の範囲を広げましょう」

 

「ああ、その通りだ」


 ルーカスが鋭敏な感覚を取り戻していく。

「ジェイソン、城に急ぎ、捜索の隊員の招集を!カイト、城下の警備隊とも連携し、ミツキを探せ!」

「御意!」


「ジェイソン待て」

「はっ」

 駆け出そうとしたところを止められた。

「城に戻ったら、アイラにも迎えをよこすように手配をしてくれ」

「かしこまりました。では」

 牛の搜索から戻ってきた隊員たちが後に続くのを見届け、ルーカスは握り締めた手をそっと開いた。


 ルーカスの贈った石は、翡翠の中でも透明度の高い特別なものだ。その石を見て『ルークの瞳の色みたい』と笑う美月の顔を想い出す。


「必ず見つけ出す。ミツキ…」

 ルーカスはネックレスをそっと胸の内ポケットに仕舞って歩き出した。


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