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やっぱり、異世界って事ですね。

「それって、私のせいですかね」


 話が進まないのを自分のせいにされて、ちょっと残念なキラキライケメン殿下に向かい、美月は不満を露にする。


「そうだろう」

 むすっとした、という言葉がピッタリ嵌りそうな、不満顔のキラキライケメン殿下。


「いえ、半分は殿下のせいかもしれませんね。先ほどミツキに早口でまくし立てられて、言葉を返せていませんでしたから」

 対してレオは、相変わらずクールだ。


「あれは、…お前がサッカーだのシリモチだの訳の分からない言葉を使うからだ!しかも、男の前で腰を揉むなどっ…」

 レナードの指摘に狼狽え、慌てて美月の方に向き直って弁明をするルーカスの頬は、再びピンクに染まる。


 男の前で腰を揉む?

 何を言っているんだか、このキラキライケメン殿下は。

 骨折がないか診ていただけだって、私言ったよね?


 そんなルーカスの様子を見て、レナードはやれやれと嘆息する。


「殿下、いえ、ルーク。あなたとは、幼少の頃より一緒に過ごしてきました。あの可愛らしくもやんちゃだった王子が、エアージョン帝国との戦を境に変わられたのが、昨日のことのように私の脳裏に浮かんできます。威風堂々たる立ち振る舞いに、国王陛下も大層お慶びになられ、我々家臣一同も、忠臣からお慶び致しておりました。ですが…、今のルークは出会った頃を彷彿させますね。どうしたのです?茶会の席でも夜会でも、嬉々として擦り寄る――、ああ失礼。百花繚乱と咲き乱れ居並ぶご令嬢方を、乾いた微笑みですげなく躱してきたのではありませんか。なぜ今になって、そんな隙を見せるのですか」

 レナードはまた、眼鏡のブリッジを人差し指と中指の2本の指でゆっくり押し上げる。綺麗に伸びた指先に、切れ長の榛色の瞳が相まって流麗な語り口調を、更に際立たせる。

 そんなレナードを横目にルーカスはソファーの背もたれに背中を預ける。


「レオ、俺もお前の言葉の端々に、久しぶりに刺々しさを感じるぞ。だいたい隙とは何だ」

 ルーカスは徐にカップを持ち上げ、お茶を口に含む。芳醇な茶葉の香りが拡がり、後鼻孔に達する。


「隙、ですか?…それは、可愛らしくピンクに染めているその頬のことですよ」

「ごぶっ…げほっ、…ごほっ」

 芳しい香りを楽しんでいたルーカスは意表をつかれ、盛大にむせた。

 更にレナードが続ける。


「先ほどのミツキのように、微笑み一つでご令嬢の心をつかめたら、今頃、王太子妃のひとりやふたりお迎えすることが出来ていたでしょうに」


 ルーカスは慌てて乱れた呼吸を整え、

「いっ、今その話をしなくてもいいだろう!それに、妃など一人いれば十分だ!」

 耳まで赤くなりながらも、最後は吐き捨てるように言った。


「そのお一人をも迎えられていないからですよ」

「……迎えようとも思わない…」

「殿下っ!」


 二人のやり取りをじっと見ていた美月は、大仰に溜息をついた。

「あの、そろそろ、いいですか?おふたりが旧知の仲なのは、とても良く判りましたし、色々と事情がおありであろう事も、まあ、大変そうだなという程度には分かりました。…で、やっぱり話が先に進まないのは、私のせいじゃないですよね」

 ニッコリと笑うが、その細められた瞳は笑っていない。

 美月の態度に押され気味のルーカスは頬を引きつらせる。

 そんなルーカスの態度などお構いなしに、瞬きも忘れ、美月はルーカスを凝視する。


 殿下に夜会に妃?エアージョン帝国?戦?

 なにそれ。

 ここがどこかは分からない。

 でも、自分の住んでいた世界とは違う。


 腹の底からふつふつと湧き上がってきた嫌な予感が、綿布にじわりと水が染み込むが如く拡がり、確信に変わっていく。

 それでも、どこかで認めたくないという思いが、心に蓋をしようと覆いかぶさってくる。


「さっきも聞きましたが、答えてもらっていません。……教えてください。ここはどこなんですか?」


 美月の様子が変わったことを感じ、ルーカスも美月に向き直る。


「ここは、ハーヴェロード王国の王城だ。衛兵の話だと、お前は城内、東正門近くに、突然現れたということだ。この城には結界が張ってある。見たところ魔力もないお前が、どうやって城内に入ったのだ?」


 どくん。


 美月は自分の心臓が大きく跳ね上がったように感じた。


 やっぱりここは、…いわゆる、異世界だ。


 苦痛に刹那、表情が歪む。

 心臓が早鐘のように打ち、おさまらない動悸に思わず両手を握り締め、胸に押し当てる。


「突然現れた…?」


 蓋をして押し込めようとしていたあがきは、あまりに非現実的なことに押され、見る影もなくなっていた。白日のもとにさらされ、むき出しになった美月の心に、不安と混乱が纏わりついていく。


 私…、何してたんだっけ…。


 青ざめていく美月の表情を見ていたルーカスが、声を掛けようと口を開きかけたとき、ドアをノックする音と、男性の名と身分を告げる声が響いた。

「入れ」

 今度はルーカスが入室の許可をする。

「失礼いたします。ルーカス王太子殿下、ウェリントン公爵。検めました荷を持ってまいりました」

 錆鼠色の文官のお仕着せを着た青年は、恭しく腰を折る。


「トマス、どうだ?」

「はっ」

 ルーカスの問い掛けにトマスと呼ばれた青年と、その後ろに控えた男性が進み出る。

「特に怪しい物は無いと思われますが、見たこともないものがいくつかありましたので、私どもでは判断致しかねております。あと、汚れものがございましたので、洗濯に出しています。もうすぐ出来上がると…ああ、持ってきましたね。」

 開かれたままのドアから、畳まれた衣類を持ってくる女官の姿が見えた。

 と、同時にトマスの後ろの男性が持っているトレーが目に入る。


「あっ、私のウェアと、荷物」

「えっ、うそ。洗ってくれたんですか?ありがとう。でもごめんね、汗臭かったでしょう?泥汚れもひどかったはず…」

 そこまで言うと、再び「あっ」と声を上げた。


「なんだ?」

 ルーカスが美月に目をやる。


「自分の荷物を見ていたら思い出しました。私は学校からの帰りに、街に寄り道をしていたんです。ええっと…、そう、ボールの空気入れの針が曲がったから、予備を買いに行って…。そしたら急に目の前が真っ暗になって道がなくなって、…落ちたんです。で、気づいたらここで衛兵の方々に囲まれていました」


 落ちる前に何かを見たような気がするけど、それは思い出せなかった。



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