表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/129

三日月の夜に 2

 口づけを交わしたふたりは、再び抱き合った。

「ミツキ、明日の夜会だが…」

「うん?」

 美月が顔を上げると、ルーカスが微笑む。


 美月を抱きしめていた腕を解き、その手を取り指先に口づけた。


「俺は、ミツキとの婚約を偽りだとは思っていない」

 ルーカスは熱を孕んだ瞳で、ミツキを見つめた。

「どういう事?」

 ルーカスの言葉の意味がわからない美月は、目を瞬かせた。


「ミツキがここに来てから、もうすぐ半月になるな」

 じっと見つめるルーカスの眼差しに、美月は自分の頬が熱を帯びてくるのを感じる。

「う、うん。そう、だね」

 ルーカスの事を意識してからというもの、些細なことに過敏に反応してしまう自分の鼓動に、戸惑いを覚えていた。


「まあ、殴られたのは衝撃だったな」

 笑顔が強張る美月を見て、ルーカスがにやりと笑う。


「ちょっと、やだ、思い出さないで!」

 恥ずかしさから顔を赤らめる美月。


「ミツキは…、何を考えているんだかコロコロと表情がよく変わって、見ていてハラハラしたな」

「うそっ、そんなに顔に出てる?」

 ふっと笑うルーカスに、美月は目を丸くして慌てた。


「何だ、自覚がなかったのか?」

「うーん、何か納得がいかない」

「何故だ?」

 不満げな美月の表情も愛しいというように、ルーカスは微笑む。


「だって…、相手に表情読まれたらボールを奪われちゃうじゃない!ポーカーフェイスで通してきたんだけどなあ」

 美月はぷうっと頬膨らませた。


「ポーカーフェイスって、その顔でか?」

 たまらずルーカスが吹き出した。

「えっ、あっ…」

 赤面しながら口をパクパクする美月に、ルーカスはその後の笑いを必死に堪えた。


「もう、いいよ…」

 目を細めて明らかに不機嫌な美月に、ルーカスは堪えきれず笑い出した。


「いや、すまぬ。そう怒るな、ミツキ。多分、サッカーではポーカーフェイスなんだろうな」

「多分?」

 美月の眉根が寄る。


「多分だ。俺はミツキがサッカーをしているところを見たことがないからな」

「そういえばそうだ。ルークもサッカーをすればいいのに」

「サッカーを…。って、いや、そうではなくて、だな…」


 ルーカスはクスッと笑い、美月の髪を撫でた。

「俺は、ミツキが来てから振り回されっぱなしだ」

「…ごめん」

 美月は肩を竦める。


「いや、責めている訳ではないのだ、謝らなくていい。こうしていると、ミツキがサッカーだのトレーニングだの騒いでいたのが、昨日のことのようだな。あの時、ミツキはあっという間に騎士団や女官と、城の人々を取り込んでしまった。今では、王城の者たちを惹きつけて止まない存在になってしまっている」

 美月を見つめるその瞳は、さらに熱を帯びていく。


「皆を巻き込んで事を成していく、ミツキ、これはお前の持つひとつの才能だ。そして、そのミツキに一番に惹きつけられているのは、他ならぬこの俺だ」

 ルーカスは憂いも纏い、優しく笑った。


「…ルーク」

 ルーカスのいつもとは違う優艶な微笑みに、美月は息を呑む。


「ミツキ…」

 ルーカスは、撫でていた美月の髪を掬い、口づけた。

「俺は、王太子としてあるべき姿を常に意識してきた。まあ、昔はいろいろあったが、今はそれに向けて学び努力してきたと自負もある」

 ゴクリと生唾を飲む。王太子としてのルーカスの苦労は、美月の想像を超えているだろうから。


「それが、ミツキを前にすると、ひとりの男として狼狽える自分がいた。どうしたものか、自分の感情がコントロールできない事に、初めて恐さと戸惑いを感じた。…だが、同時にミツキのことをこんなに深く想っているのだと、思い知らされた」


 美月を見てにっこりと微笑むと、ルーカスは跪いた。


「ル、ルーク!何をっ」


 ルーカスは胸に手を当て、よく響く低い声で静かに美月に伝えた。

「ひとりの男として、そして王太子として告げたい」

 ルーカスは伏せていた顔を、静かに上げた。


「俺はミツキが好きだ。ミツキの事を愛している。ミツキと居る事で知る自分も、見える景色も俺にとってはかけがえのないものだ。これからもミツキと同じ景色を見て、感動を分かち合いたい。そして、この国の未来を一緒に造り上げていきたい。俺は、この先もミツキとともに有りたいと願っている。」


「ルーク…」


「今すぐにとは言わない。だが、考えてくれないか?俺と共に、俺の隣で生きていくことを」


「ルーク、それって…」


「偽りではない、まごうことなき存在として。ミツキを俺の妃として迎えたい」


 美月はルーカスから告げられた想いに胸が熱くなる。

 ルーカスと一緒にいたい、このまま時間が止まってしまえばいいと何度思ったことだろう。茜色に染まるあの夕焼けを、これからも一緒に見ていきたい、同じ時を過ごしたいと願わないはずはなかった。


 だが、ルーカスの隣で生きていくということは…。


 その言葉の意味する現実に、胸を締め付けられた。



 嬉しさと躊躇いが綯交ぜになった美月の心を現すように、その瞳も揺れていた。


 その躊躇いを包み込むように、立ち上がったルーカスはそっと美月を抱き寄せた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ