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すれ違う想い 3

 応接室に近づくと、美月に付けている騎士が4名、ドアの前で控えているのが見えた。少しホッとしながら近づくと、ルーカスに気づいた騎士たちが敬礼をする。

「いや、かまわぬ。ミツキは?」

「しばらく一人にして欲しいとおっしゃられまして、まだ中においでます。そろそろお声をおかけしようかと」

 答えたのはウォーカーだ。一度、美月に置いていかれ、城での勤務を外されるのではと心配したが、美月の進言と美月自身の予測不能な行動のせいだと、結果的にはお咎め無しとなっている。その恩義に加え、美月と騎士団長とのサッカートレーニングの様相に、今ではすっかり美月に心酔していた。

「分かった。ありがとう」

「は、はいっ!」

 王太子から直接礼を言われるという初めての経験に、ウォーカーは、思わず声が上ずってしまった。恥ずかしさと嬉しさに頬を紅潮させながら、ルーカスの行動に注目していた。


 ルーカスは、大きく深呼吸をして、躊躇いながらもノックをする。

「ミツキ?入るぞ?」

 返事はない。もう一度ノックする。やはり何の反応も返って来なかった。

 ルーカスは騎士たちに目をやる。部屋からは出られていませんと、騎士たちも首をかしげる。そうして、ふと思い出す。そういえば、美月がこの世界に来た次の日、美月はバルコニーから外に出て、トレーニングと称して走っていたのだった。まさか!?


「ミツキ、入るぞ!」

 ルーカスがドアを押し開ける。バルコニーへと続く窓は閉じたままだ。では?とソファーに目をやる。そこにはソファーに座ったまま肘掛にもたれ、眠っている美月が居た。

 ルーカスはホッと胸をなでおろす。

 だが近づくと、美月の頬に残る涙の跡に、泣きつかれて眠ったのだと胸が苦しくなった。美月を一人残して去っていった、己の行動を呪いたくなる。

 起こすべきか、このまま抱き上げて連れ帰るか…と、逡巡していると、その気配に気づき美月が目を覚ました。


「ルーク…。あれ、私、何してたんだっけ?」

「ミツキ、取り敢えず部屋に戻るか」

「うん、なんかお腹すいたよ。へへっ」

「そうか、分かった。何か持ってこさせよう」

「ありがとう、ルーク」

 その微笑みがいつもと違って力ないことを、その場にいた誰もが気づいていた。だが、誰も何も問うことはせず、ただ、美月の言動に合わせていた。


  翡翠の間までルーカスと戻ったミツキを、アイラは盛大に出迎えた。先ほどのルーカスの慌てた様子に気が気ではなかった為、アイラも安堵の色を隠さない。その向ける眼差しの温かさに、美月は泪が滲みそうになるのを必死で堪えた。少しでも気を抜くと、泣いてしまいそうだった。この数日の、たった4日間の事を思うだけで、胸が苦しくなる。気を散らす為に周囲に目をやり、思考をねじ曲げることに必死になっていた。


 少し肌寒くなってきた。陽が傾き始めたのだろう。美月が身震いすると、ルーカスが自分の着ていた上衣を脱ぎ、そっとかけてくれた。

「ありがとう、ルーク。この上衣、綺麗な色だね」

「お前のドレスと合わせてある」

「えっ、そうだったの?本当だ。同じ色、だ、ね」

「何だ、気づいていなかったのか。だが、俺の上衣も砂埃にまみれてくすんでしまったな。これを、あまり女性に掛けるものではないな」

「大丈夫だよ、サッカーしていたら常に砂埃だらけだもの。家に帰ると床が砂だらけになって、よくお母さんに怒られていた事……」

 ハッとする。

「ごめん」

「謝るな、ミツキ。お前が悪いわけではない」

「うん、…ありがとう」


 どうにも硬くぎこちなくなっていくふたりの会話に、アイラは気を揉んでいた。しかし自分の立場では話に入っていけるわけもなく、心の中でオロオロするばかりだった。丁度そこへお茶とパイが運ばれてきた。空腹の美月の為に、ミートパイも含まれている。少し和んだ空気になり、ホッと胸をなでおろす。

 その空気のまま、ルーカスは「また来る」と翡翠の間を後にした。


「アイラ、聞いているのでしょう?私のこと。ごめんね、黙っていて」

「ミツキ様、何を謝られるのです!先程殿下もおっしゃっていたではありませんか。ミツキ様が悪いわけではないと!」

「うん。それはそうなんだけど」

「でしたら、謝らないでくださいませ。ミツキ様の方がお辛いことには変わりありませんもの。わたくしは、ミツキ様ほど頼りにはなりませんが、精一杯お仕えさせていただきます。わたくしのことは大丈夫でございますゆえ、お一人で考え込まず、なんなりとおっしゃって下さいませ」

「アイラ…。ありがとう。私、アイラに嫌われたらどうしようかと」

「まあぁ、ミツキ様!そんなことは絶対にありませんわ。わたくしを信用してくださいませ!」

「うん、ありがとうアイラ」

 美月はたまらずアイラを抱きしめた。

 咄嗟の事にアイラは固まった。お茶を下げに来た女官たちが黄色い悲鳴を上げる。一気に部屋の中がにぎやかになっていった。美月はたまらず笑いだした。

 アイラも赤らんだ頬を押さえつつ静かに笑った。この時がずっと続けばいいと願いながら。



 王太子の執務室に戻ったルーカスは、レナードの補佐官に就かせているトマスから報告を受けていた。トマスは、レナードが王への報告や今後の対策を協議している間、サミュエル王子のもとへ今後の方針の話し合いに出向いていた。

 彼は、4年前の和平交渉の際にもエアージョン帝国に先に入り、交渉内容や日程調整、詳細な内容の締結に向けた準備委員会の設置、各部門ごとの協議など多岐にわたり活躍した人物だった。その際、エアージョン側の交渉責任者はサミュエル王子だったので、今回随行している従者にも顔見知りが何人かいた。故に話はしやすかったのだが…。


「なんだと?では本当にミツキのことを2年前から探していたというのか」

 執務机に向かい、集中できないながらも書類に目を通して言いたルーカスは、思わず書類を握り締めた。トマスは、そんなルーカスをなるべく刺激しないように淡々と語る。

「いえ、ミツキ様限定で探していたかどうかは定かではないと言っておりました。が、異世界から呼び寄せる術を使える魔導師を探していたのは、事実のようです。そして、現在エアージョン帝国では、ミツキ様をお迎えすべく、王太子妃の居室も準備されているということでした」


「…それは、あちらの王も認めているということなのか?」

「ええ、おそらく」

「なんという事か…。こんな理不尽な所業を認めるのか!」

 ルーカスは前髪を掴み、くしゃりとかきあげた。


「エアージョンは軍事大国ですからね。あのサミュエル王子のモチベーションが上がるなら、少々荒いことも許可するやもしれませんね。それにしても、あちらは随分と公になっていない情報を出してきていますね。…サミュエル王子の王太子決定もそうですが、ミツキの件についても…」

 ルーカスの脇に控えていたレナードは、壁にもたれ、腕を組んだままトマスに目を向ける。


「これは、こちらに対する牽制ですよ」


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