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けれどそのせいで、旅館の経営が傾き始めたことに、悩んでいたのだろうか?
「ん~、それも、ある」
「まだあるの?」
普通に聞いていれば、旅館は心霊現象が起こらなくなって困ってはいるだろう。
でもだからと言って、わたし達ができることはない。
「む~ぅん~」
サアヤは腕を組み、難しい顔をする。
「…女将、のことなんだけど」
「女将がどうかしたの?」
「あの人は普通の人。何の力もないわ」
「ええ」
「だからこそ、これからが怖いのよ」
「えっ?」
サアヤはため息を吐くと、ハーブティーを一気に飲み干した。
「すでに旅館のウリは消え去ってしまった。けれどまた何か起これば、それをウリにできるってことを、ボヤの一件で思いついたんじゃないかって思って」
「あっ…!」
彼女の言わんとしていることが、理解できた。
わたしは固唾を飲み込み、真っ直ぐにサアヤを見つめる。
「つまり…女将が旅館で何か騒ぎを起こし、それをウリにする可能性があるってこと?」
サアヤは黙って頷く。
「だって今までソレで経営が成り立っていたんだよ? 自然と起こらなくなったのならば、人為でも、と思わなくもないかも?」
疑問形で言うけれど、それは確信に近い言葉だ。
女将はボヤを見て、思い付いてしまっただろう。
また騒ぎを起こせば、注目が集まる。
元々雑誌やテレビで紹介されるほどだったのならば、何かが起こればまたすぐに客は集まるかもしれない。
「…でも人為的にするにも、限界があるわ」
「うん。だからさ、もしも殺傷事件とか起こったら、イヤだなぁって思って」
「っ!?」
そう…だ。
そういう可能性があることだって、否定はできない。
「だからノウコさんの人脈を使って、警察にそれとなく見張っているように助言できないかな?」
「そう…ね。あまり顔は広くないけど、言ってみるわ。でもボヤの他に、何か起こったの?」
「何か細々としたことは起こっているみたい。でも事故として片付けられているって。女将は何としても、心霊現象だと言い張っているみたいだけど」
「…そう」
しかしそれは、その土地に住むのならば有り得ない場所。