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浄化作用のある土地は珍しくない。
悪いモノが集まらない清浄な場所なのに、わざわざ災いを言いふらすなんて…。
深く息を吐きながら、わたしは立ち上がる。
「じゃあちょっと電話してくるわね」
「うん。お願い」
言いたいことを言ってスッキリしたのか、サアヤはポットからハーブティーを注いで、機嫌良く飲む。
わたしはリビングを出て、ダイニングキッチンへ向かう。
そこには母がいて、ソファーに座ってテレビを見ていた。
「お茶のお代わりがいるなら、持っていったのに」
「ううん。ちょっと電話連絡する為に来たの。テレビの音、低くしてくれる?」
「分かった。…おや、この旅館…」
「えっ?」
『旅館』と言う言葉に、携帯電話を手にしながらわたしはテレビを見た。
テレビに映っていたのは、例の旅館と女将の写真だった。
「うそっ!」
わたしはテレビに駆け寄る。
アナウンサーの話しでは、今朝、女将が首を吊って亡くなっているところを、旅館関係者が発見したらしい。
「ちょっ、サアヤ! サアヤ、来てっ!」
大声で呼ぶと、サアヤは慌てて来た。
「どうしたの? ノウコさん。…って、アレ?」
サアヤはテレビを見て、固まった。
「…何か見たことのある旅館と女性の顔」
と言うけれど、すでにどこの誰だか分かっているのだろう。
顔が引きつっているのが、証拠だ。
アナウンサーは更に、最近旅館で起こっている不審な事故の原因が、女将であったことを語る。
それで警察は動き出そうとした矢先の出来事だったらしい。
「…動くの、ちょっと遅かったわね」
わたしは携帯電話をテーブルに置いた。
「っちゃー…。言わんこっちゃない」
サアヤはため息をつき、ソファーに座る。
「アンタ達も知ってたのかい? あの旅館のこと」
「母さん、知っていたの?」
「アタシは何度か相談が来たからね」
旅館に勤めていた人達や、旅館に実際に泊まった客達から、相談を何回か受けたらしい。
対処法としては、旅館に行かなければ大丈夫だと言ったらしいけど…。
「でも今度は大変だろうな」
母は眉間にシワを寄せ、テレビを見つめる。




