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5.モブキャラぼっちは嫌われ者。

 体育の授業中。俺はグラウンドの隅で、背後の喧騒をBGMに一人壁打ちに励んでいた。

 本来は『二人組を作ってテニスの練習をする』という授業内容なのだが、あいにく俺とペアを組んでくれる人はいなかったのだ。


 別段運動神経が不足しているわけではないのだが、疲れることには変わりないので、俺はスポーツというものが嫌いだった。球を打ち返すだけの単純作業なんぞ、一切合切楽しくない。朝は悪夢も見たし、今日は散々な日だな。


 一方でスポーツマン、特にテニス部員はとても楽しそうに練習している。


 例えば、東条颯真。

 彼はテニス部のエースとして崇められており、おまけに学校一二を争うイケメンときたもんだ。その爽やかな性格も相まって、同性からも異性からも好かれているらしい。

 ちなみに朝比奈と同じ友人グループに属している。


 そんな東条は今、女子の歓声を浴びながら取り巻きの男子とテニスの練習試合をしている。

 今日も完璧超人っぷりをいかんなく発揮しているようで、当然のように終始リードを保ちながら1ゲームを制した。

 しかし東条に安息の時はないようで、試合が終わるや否や女子の大群に呑まれてしまう。ご愁傷様。


 と、女子からハブられた取り巻き連中がこちらに近づいてきてるじゃないか。一人は金髪DQN野郎。もう一人は丸刈りチビ野郎。暇つぶしにでも来たのだろうか?


「おいおいおい、あいつ一人でやっとるで」


「うっひゃー、マジヤバイわ。何がヤバいってマジヤバいわ」


 俺を指差しながら、ニヤニヤとした気味の悪い笑みを湛える。俺を笑いものにするだけでストレス解消が出来るなら何より。役に立てて光栄だ。


「つーかあいついつも一人じゃね」


「せやな。なんせあいつ根暗やもん。あんなんが将来犯罪者になるんやで」


 俺への悪口はどんどんエスカレートしていく。もはやいじめの域じゃないか。県の教育委員会は何をやっているんだ。


 しかし、彼らの会話に割り込む者が現れる。


「も~、言い過ぎだよ~」


 そう、あの朝比奈だ。

 温和な顔を浮かべているが、目が笑っていないのは気のせいだろうか。


「は~い。やっぱ朝比奈ちゃんは誰にでも優しい天使やんな」


「マジそれ」


 それから一言二言言葉を交わした後、取り巻きたちは「トイレに行く」と言ってその場を離れていった。

 俺は彼らを横目に、テニスの壁打ちを再開する──ことは叶わなかった。


「しゅんくん、テニス結構上手いんだねっ」


 朝比奈が話しかけてきた。


「そうか? 東条とかと比べたら天と地ほどの差だろ」


「でもボールを打つ音に芯が通ってたし、練習したらそうっちにも勝てるって!」


 東条にもあだ名をつけているのか。どの学校にもいるよな、クラスメイト全員にあだ名をつける奴。

 俺の通っていた中学校も例外ではなかったのだが、俺だけ名字に君付けだった。中学生時代から一流の空気人間だったようだ。


「どっちにしろ、練習とか面倒だしやりたくない」


「え~」


 会話に一段落がついたところで、朝比奈は目線を遠方に向け、切なげな表情を作った。


「ごめんね、言い返せなくて」


 ぼそっと呟いた。懺悔するような口ぶりだった。

 しかし、すぐに怒りを帯びた口調に変える。


「ていうか、あいつらムカつくよね! しゅんくんの事なんてなーんにも知らないくせに!」


「いや、言い返さないでくれてよかったよ。面倒なことになりそうだしな。……それに、朝比奈だって俺のことあんまり知らないだろ?」


 たった一日二日の関係。いや、何日何年と時間を掛けようが、他人の全てを理解するなど到底不可能だ。俺も朝比奈も、お互いがお互いを理解し合うなんて出来やしない。


「ううん、そんなことないよ…… だってあたしは──」


 そこまで言って、朝比奈は言葉に詰まる。何か言いずらいことでもあるのだろうか。


「で、それよりさ!」


 結局言わないことにしたようで、話題を打ち切った。


 すると朝比奈は、急に服を捲り出す。おいおいおい、男の前で何をやっているんだ。ガチのビッチ女じゃないか。

 ちらちらと腹部の肌が見え隠れするので気まずくなり、目を背ける。


「はいっ!」


 しばらくすると元気のよい声がして、目線をもとに戻す。

 そこには、俺に本を差し出す朝比奈がいた。タイトルは『この素晴らしい世界で最強に!』。先日貸してくれと頼んでおいたラノベだ。


「あぁ、センキュー」


 俺は朝比奈から本を受け取る。


「てか朝比奈、服の中に隠し持ってたのか?」


「うん、そうだよ」


「バレても知らんぞ」


「大丈夫大丈夫──って早く戻らないと! 二人が帰ってきちゃう!」


 朝比奈は焦るように東条たちのもとへ駆け出していく。と、思い出したように振り返った。


「出来たら放課後までに返してねーっ!!」


 放課後か。幸い、休み時間誰とも話さない俺には腐るほど時間があるし、俺の速読スキルを駆使すれば余裕だろう。


「あぁ、分かった!」


 大声で叫んできた朝比奈に、俺も声を張り上げて返答する。


 ちょうど例の二人組も帰ってきたので、自然に朝比奈との会話は終了となった。東条やほかの女子たちも交えて、朝比奈たちは昨日放送が開始したドラマについて語り合い始める。テニスの授業中に何をやっているんだ……

 何にせよ、リア充は大勢の人間と雑談する義務があるから大変そうだ。

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