1.モブ系オタクは女嫌い。
俺、黒峰俊太郎は美少女という人種が心底嫌いだ。
男の純情を弄ぶ、容姿の優れない者を笑いものにする、チヤホヤされるのをいいことに厚かましい態度を取る──などなど、美少女による悪行を挙げればきりがない。傲慢で強欲で卑怯者、美少女ってのはそういう存在なのだ。
無論、全員がそういう世紀末な性格だとは限らないのかも知れない。けれど、少なくとも俺自身は、ただ一度たりとも天使のような美少女に出会ったことがない。
優しくて純粋で可愛らしい美少女なんて、幻想で妄想、創作物だ。アニメや漫画の世界にしか生息していない。いわば絶滅危惧種。
例えば、だ。
俺は教室後方の窓側に目を向ける。
そこにたむろして談笑しているリア充集団の中心にいる、朝比奈陽葵という女。彼女は「学校一の美少女」とまで謳われている。童顔で可愛らしい顔つきは、二次元から飛び出してきたと言われても納得の出来だ。
しかし、性格は最悪だがな。髪は茶髪に染め、制服は校則違反不可避の大きく着崩した着こなし。数多の男子生徒から告白されており、噂では何人ものイケメンを手玉に取っているのだとか。
つまるところ、ビッチだ。
美少女の中でもビッチは最悪の部類。淫乱で性的なことばっか考えてて、貞操観念もあったもんじゃない。加えて何人もの男をたらしこんで絶望のどん底に突き落とす、不幸製造機なのである。
とはいえ、俺には心配無用。何せ、俺はクラス一のモブ男子だからな。『ぼっち』ってやつだ。
ビッチは頭の悪そうなパリピ男子にしか目がいかないようだし、根暗気味な俺には構ってこない──はずだ。
ぼっちで良かった。モブキャラ万歳。
俺が思うに、皆青春の主人公になろうとしすぎだ。自己アピのためか無駄に騒いだり、スポ根漫画ばりに努力したり、恋人作ろうと必死になったり──はっきり言ってアホ。そういうドラマチックな展開だって、名前の通りドラマとかそういう創作世界でしか起こり得ない。
俺はそれを理解しているから、知っているから、だからモブキャラに徹しているのだ。煩わしい人間関係も、結局報われない努力も、どうせ三年で終わる恋も、何もいらない。
俺は脳内でそう結論付け、リア充集団から目を離そうと──したところで、何故か朝比奈と目があってしまった。何かウィンクしてきたし。意味がわからない。
最近朝比奈とよく目が合うよなぁ。正確には、朝比奈が目を合わせてくるだけなんだが。もしや朝比奈に目をつけられてしまったのか? ビッチはヤンキーとでも戯れててくれ。
俺は少し不満げな表情を朝比奈に送り、今度こそ目線を逸らした。
先程まで読んでいたラノベを鞄にしまう。鞄を肩にかけ、いざ椅子から立ち上がらんとした──その時だった。
「ばいばい、俊太郎くん」
頭上から声がした。聞き慣れた、幼くて可愛らしい声色。
顔を上げると、案の定あの朝比奈陽葵がそこにはいた。微笑んでいる。
「お、おぅ、じゃあな」
予想外の人物に挨拶され、思わず声が詰まってしまった。情けない。
用事はそれだけだったのか、俺に手を降りながら朝比奈は教室を去っていった。俺は一連の行動を、ただただ呆然と眺めることしか出来なかった。
何故挨拶なんかされたのだろうか。接点もないのに。
……もしや、本格的に俺を誘惑しようとしてるのか? 新しいATMにでもするつもりだろうか。
そんなの御免だ。絶対にあいつになびくなんて事がないよう心掛けよう。
俺は決意を新たに、教室を後にした。廊下からも、既に朝比奈の姿は消えていた。
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