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第4話

アシュリー様に観劇に誘われた。藍色のドレスを身に纏い、アシュリー様が迎えに来てくれるのを待った。アシュリー様は春風祭の時と同じく、顔半分に包帯を巻いていらっしゃった。


「待たせたかな?クリスティーナ嬢。」

「いいえ、待っておりませんわ。時間ぴったりですもの。」


趣のあるソナタ劇場へと馬車を付けた。エスコートされて馬車を降ろされる。

目立って容姿の良い私と、顔の半分を包帯で隠したアシュリー様は注目の的だった。みんながこそこそと「美女と悪魔だ」などと噂していて不快な気持ちになる。


「今日の劇はどんな劇ですの?」

「それは見てのお楽しみ。」


『転生』を主題とした恋愛劇だった。主人公のエルバートは前世ではシュバルツという名の子爵で、今世では公爵だ。前世で燃えるような恋愛結婚をした妻、ジュリアへの気持ちが忘れられず、ジュリアももしかしたら僕と同じように転生しているかもしれないという淡い期待を抱き、ジュリア探しを始める。仕草の似ている令嬢。特技の似ている令嬢。ジュリアの面影を求めて奔走する。時同じくして転生したジュリアもリオナという名前にはなったが、シュバルツを求めて、様々な男性を観察し、そして運命の二人は出会う。似ているかも?と思う反面、希望が見せた思い込みなのかもと悩むが、二人はついにお互いを前世の夫であり、妻であると確信し、確かめ合ってプロポーズ。ハッピーエンドである。

まさに私にぴったりの劇。

もしかしてアシュリー様は私に意図的にこの劇を見せたのだろうか。サミュエル様…なのだろうか。


「クリスティーナ嬢は『前世』を信じる?」

「勿論です。私ほど強く前世を信じる女性はいないでしょう。アシュリー様は?」

「勿論信じるよ。」

「……。」

「……。」


沈黙が落ちる。


「ねえ、クリスティーナ嬢って…」

「クリスティーナ嬢!!」


夜会で付いた私の信奉者ABCが出てきた。アシュリー様のお言葉を遮って。

別に彼らを見下してABCとか言っているわけではない。お名前が

アンディ(A)

ボブ(B)

チャーリー(C)

だったのだ。いつも3人一緒にいらっしゃってそのお名前なので私はABCの方と覚えている。


「このようなところでお会いできるなんて偶然ですね!」

「ええ。」

「よもや醜い化け物と観劇中とは思いませんでした。何か不埒な真似はされませんでしたか?」

「なにも。とっても楽しんでおりますわ。」


今、君らが湧いて出て、ちょっと不快な気分にさせられたけど。3人はチラとアシュリー様を見た。


「醜い化け物の分際で麗しのクリスティーナ嬢を観劇に誘い出すなど、相当太い神経をしているらしいな。どんな卑怯な手を使ったんだか。」

「クリスティーナ嬢、このような化け物と一緒におられるくらいでしたら、私たちと食事に参りませんか?」


ああ。すごいイラっとした。


「まあ。私が連れているパートナーを不当に貶めて、私を不快にさせるなんて、人の機嫌を損ねるのがお上手ですわね?」


笑顔で皮肉を言った。


「ふ、不当になど…」

「他者を助けるための思いやりによる怪我の跡を『醜い化け物』などと連呼されて、この方の心はどれほど醜いのだろうと心配になりましたわ。この世に心を映す鏡が無くてよろしかったですわね?そんなものがあればきっと皆さんは『なんと醜い…』と恐れられてしまうでしょうから。」

「く、クリスティーナ嬢…」


ABCはおろおろと私の機嫌を取るための言葉を探している。


「アシュリー様、参りましょう。これ以上聞いていてはお耳が汚れてしまいますわ。」

「うん…。」


一緒に劇場を出る。


「お食事も付き合っていただけるのかしら?」

「一応店を予約してる。……クリスティーナ嬢は僕と一緒で嫌じゃない?」

「嫌なら、今日私はここにはおりませんわ。」

「ごめんね。僕も自分が醜いことは知ってるんだ。」

「醜くなんてないですわ。綺麗ではないですけれど、尊い怪我の跡ですもの。」

「ありがとう…。でも僕が醜くても、僕を嫌いになっても、相手が本当に僕の愛しい乙女だったら何がどうあっても捕まえちゃうんだけどね。僕を嫌って僕を避ける乙女たちの行動は正しいよ。」


アシュリー様は笑ったけど、多分冗談じゃないんだろうなあ。

アシュリー様に連れられて、お洒落なレストランに入った。清潔感のある綺麗なお店。「メニューはコースだけれど、食べられないものがあったら言って?一応オリーブの実は抜くように言ってあるけど。」と言っていた。私はオリーブの実が苦手だったりする。あの微妙な味と弾力のある歯応えがなんとも苦手で。オリーブオイルは平気なんだけど。勿論そんな事アシュリー様には教えていない。アシュリー様ってやっぱりサミュエル様なのかな?期待を抱えつつお料理を頂く。

これがまた出てくる料理全てがいいお味で…


「美味しいですね。」


幸せそうに微笑んでしまう。アシュリー様は美味しそうに食事を味わっている私を観賞しているようだ。


「ねえ、クリスティーナ嬢は何故お茶会の日、泣いていたの?」

「アルベルト様が、私の知っている曲を演奏されていて…でも、以前聞いた時とは全然違うイメージで、もしアルベルト様が私の知っている方だったら、きっともう以前のことなど興味が無いのかな…と思ってしまったら泣けてしまって。」

「そう…」


アシュリー様はワインで喉を潤した。


「クリスティーナ嬢は兄さんが好きなの?」

「……わかりません。……ずっと、とある方を探してるんです。その方がアルベルト様なのかも、って思ったんですけど…よくわからなくなりました。今はアシュリー様がその方なのかも…と思って期待してしまってるんです。」

「……。」

「私は13の頃からハントリー音楽祭には必ず行くようになりました。アシュリー様はセモナ美術大賞をご覧になられたことはありますか?」

「5歳の頃から毎年行ってる。去年。去年だけは…会場に行くための旅先で火事にあって、怪我をしてしまって、ずっと入院していたから行けなかったけど。」


よりにもよって去年か…火事…というのはお顔を負傷されたあれだよね。もしアシュリー様が、サミュエル様で、私を探すために旅先で怪我をされたというなら、なんと切ない…


「去年、私はセモナ美術大賞で佳作に入りました。今度、その絵を見てくださいませんか?」

「是非。」


アシュリー様のとろりとした蜂蜜色の瞳に私が映される。


「アシュリー様の左手の怪我とはどの程度酷いものなのです?」

「…実はもう治ってるんだ。」

「え!?」

「怪我した当初こそ上手く指が動かなかったけど、今は平気。バイオリンも旅先でこっそり弾いてる。ただ、それを知られたらもっと酷い怪我をさせられるかもしれない…と思って、治ったことを隠してるんだ。バイオリンを弾くための指は…僕の二番目に大切なものだから。」


酷い怪我を『させられる』?


「その怪我は誰かにさせられたものなのですか?」

「誰にも信じてもらえないけど、兄さんに。自分よりバイオリンが上手な僕がどうしても許せなかったんだろうね。ガラスの破片でざっくりやってもらったよ。兄さんは僕が自分の不注意で怪我をしたと吹聴してたけど。父さんも、母さんもそれを信じてる。僕が何を言っても父さんは信じてくれない。母さんは『もしかして…?』くらいには捉えてるかもしれないけれど。」


アルベルト…!なんてやつ!人当たりの良い好青年かと思っていたのに!奏者の指を傷つけるだなんて!


「では、バイオリン…私にも、聴かせてくださいますか?」

「クリスティーナ嬢が絵を見せてくれたら、僕も1曲君に贈るよ。二人で答え合わせしよう。」


きっとアシュリー様はサミュエル様なんだと思う。『答え合わせ』がすごく自信ありげだ。甘やかに微笑む瞳にドキドキする。

二人で食事を楽しんだ後は、きっちり家まで送ってもらった。



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