表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/17

拙速を尊ぶ

 モノから時を奪う。それは瘴気属性の魔法の中でも高度なもので、一瞬で対象を風化させることができる秘術だ。夜に一つ目の砦へたどり着いた俺は、単身でその分厚い石の壁まで近づき、呪文を詠唱する。

 静かに、素早く、スマートに。夜闇に乗じて奇襲を成功させ、この砦を制圧する。そのために俺はこの方法を選んだ。こんな石の壁を砂にするのにはかなりの魔力が必要だろうが、中の兵士に悟られず壁を壊せるならば激安だ。

 詠唱が終わり、魔法が完成する。

「……先は去りして因は散。なれよ果ての姿を晒せ」

 最後の文言を紡ぎ、構築した魔力を放つ。


 凄まじい音がした。石の壁が盛大にぶっ飛んだ。さすが高度な大魔術。失敗するときは派手だなチクショウ。


「くっそう全然成功しねぇ! 俺は魔王だぞ? ちょっとくらい気を使えよ世界がよ!」

 悪態を吐いてから即座に転移し、近くに待機させている軍団へ戻る。目を丸くしてるヤツらの前に現れ、大声を張り上げた。

「邪魔な城壁は破壊した。我らの進軍を阻むモノはもはや無い。蹂躙せよ!」

 魔族たちの鬨の声が上がる。おう、もう手遅れだから派手に音たてていいぞ。

 それは黒い雪崩のようだった。

 俺の開けた穴目がけて下級の魔族が吸い込まれていく。隊列もへったくれもないスタンピード。殺意むき出しな混沌の波。

 慌てて兵士が迎え撃とうとするが、元より数でも力でも勝っている。籠城もされないなら苦戦する理由が無い。魔族は夜目も利くしな。

 明らかな不利を悟り、兵士たちが撤退を始めるのが見えた。だいぶ早いが予想の範囲内。当然、下級魔族たちは追撃する。そんな命令はしていないにもかかわらず、だ。

「ようし、全軍進め」

 しばらく待ってから、俺はそう命じる。

「はっ、全軍前進!」

 側近の竜人が号令をかけ、のそりと待機組が動き出す。

 待機していたのは下級魔族以外の軍だ。一つ目の砦は下級魔族たちだけで落とさせた。わざわざ俺が一肌脱いだのもそのためだ。

 魔王軍といってはいるが、俺はこれを軍だなんて思っていない。正直、チンピラの集まりよりなおタチが悪い。

 砦に着くと案の定、大半は敗走した兵を勝手に追いかけてどっかへ行ってしまっていた。多分半数以上は戻らないだろうが、まあ近隣の村でも荒らしてくれればいい。嫌がらせくらいにはなる。

 残ってるのだってロクなやつらじゃない。死体を喰うヤツがいた。遊ぶヤツがいた。奪い取った武器の切れ味を試してるヤツだっていた。さすがに胸くそ悪くなるが魔族なんてそんなもんだ。

 下級魔族はだいたい頭が悪くて残忍で、欲求に忠実だ。数は多いが最も制御できないヤツら。だからこいつらは一回戦闘に入れば、もう魔王軍でいることすら忘れてしまう。

「竜人隊はこの砦に残って下級魔族軍を再編成。略奪部隊と輜重隊に分け、後方支援につとめろ。可能な限りでいい」

 側近に命じた俺は、あえて返事を待たずに魔王軍へ向き直る。だって側近あいつ絶対嫌そうな顔してるし。


「この砦は下級魔族と竜人隊に任せ、我々はこのまま第二の砦に向かう!」


魔王軍に重要なのは速度だ。一つ目の砦なんかで減速なんてしてられない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ