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我こそ魔王なり

 脳内に草原があった。爽やかな風が吹き、背の高い草たちが波うった。青い空には白い雲とまぶしい太陽があって、高くに鳶が「ピィヨロロー」と鳴きながら飛んでいた。

 間抜けな爽快感が首筋を吹き抜けていく。タンポポの綿毛が柔らかな輪舞を踊る。穴蔵から出てきた背高帽の兎が、二足歩行でヨチヨチ駆けていく。

 世界は広く。

 心は軽く。

 なんとも度しがたい……。

「……いや意味分かんねぇわそれ」

 ドン引きして、リアルに戻る。お姫様の寝室だった。俺はレティの首に届く寸前で短剣をピタリと止め、思わずネルフィリアにツッコミを入れていた。

「なんの取引? 勇者とお前の命が同価値だと? え、バカなの?」

 ネルフィリアが顔を真っ赤にして歯噛みする。あ、ゴメン。素で育ちの悪さが出た。

「その者はわたしの命令に従ったにすぎません。責任はわたしにあるはず」

「いや苦しすぎだろ。つかガチ殺しに来やがって何言ってんの? 普通に二人とも死罪じゃね?」

「魔王の命と勇者の命は等価のはず。あなたは傷を負いましたが、まだ生きている。であるなら、その傷の分をわたしの命で払います」

「不意打ちで刺しといて都合のいいこと言いまくりって一周回ってカッケェ。なんでお前魔族側じゃねぇの? つか魔王は王だが勇者は個人だろ。王と個人の命が同価値っておかしくね?」

「ここはあなたが治める魔界ではなく、そしてこの部屋はわたしの寝室です。ならばわたしが法です」

 この人頭おかしいよ。

「お前、今のうちに出家して尼にでもなった方が良いぞ。女王になったら絶対暴君になるからさ。……あ、ここ神聖王国か。宗教家が王様もやるんだっけ」

 悪いことは言わないから、宗教と政治は切り離せって。時代が進むごとに歪みが酷くなるぞ。

 俺はレティの首筋から短剣を離し、バトンのように一回転させる。俺の血が散った。結局、こいつらと関わって俺ばかり損してる。

 まあ、うん。けれど、こういうのは嫌いじゃない。

 意地汚い開き直り。泥臭い悪あがき。みっともない生き汚さ。

 それが人間だ。

 俺が尊いと感じた生のカタチだ。

「……いいだろ。確かにここではアンタが法律だ。勇者は殺さない」

 シリアスな雰囲気もぶちこわされたしな。なんか殺る気も失せたし……それに、楽しいことも思いついた。

「だが、アンタの決定をそのまま受け入れるほど善良でもない」

 生きるべきか死ぬべきか。まだ答えを出すには早すぎる。

 うめき声が聞こえた。レティが呪縛を解こうともがいていた。獣のように四つん這いになって、なんとか立ち上がろうとしている。少しだけとはいえ、もう動けるようになっているのか。さすが勇者だな。

 きっと、次はもっと強くなっているだろう。

 楽しみだ。

「勇者よ。この世界で生まれ、神に選ばれた尊き魂よ。追ってこい。そして観るがいい。この狭い神殿では識ることのない、多くの真実を」

 ベタな展開だが、思いついたのだから仕方が無い。

 古来より魔王とはこうするものだ。

「それまで、姫は預かっておく」

 ぽん、とネルフィリアの肩に手を置いた。呪縛から脱したレティが、弾けるように床を蹴る。俺はニッと笑ってやった。

「恋い焦がれるように、待っているぞ」

 転移する。




「さあ、楽しくなって参りました! 勇者は継承し姫様は捕らえられ、魔王は重傷ときた。クッソ痛ってぇマジ死ぬかと思った。いいか、ヤツらソッコーでこのロムタヒマに攻めて来るぞ。死霊兵をジャンジャン作って守りを固めろ。ククリクも喚んで対策練らせろ。つか後で俺が連れて来る。この姫さんは地下牢に……いや、VIPだから北の塔の最上階に閉じ込めておけ」

「ゴアグリューズッ! 見つけたぞぉ!」

「ケガしてるときに来るの卑怯じゃね? てかお前のメカニズム微妙に理解できねぇとこあんだけど、実際どうなってんの?」

「いやぁおもしろいモノ観させてもらったよゴアっち。まさか勇者がこんなにいきなり出るとはね! あ、ボクを呼ぶ必要は無いよ、説明も要らない。遠見で観ててすっ飛んできたからさ!」

「覗き見してんじゃねぇぞ!?」

「……というか、わたしをどうなさるおつもりですか?」

「知るかよ。ノリで攫ってみただけだ!」

 心が軽い。やっぱりバカはするものだ。魔王となったからには、姫の一人も攫わないでどうするというのだ。俺が知ってる魔王はこういう役回りだ―――。

「―――……ああ、そうか」

「どうしたのです?」

 俺の呟きを聞き咎めて、ネルフィリアが眉をひそめる。

「いや、魔王役をやってみようと思ってな。俺が知ってる、俺の魔王像をなぞる。ゲームとかの知識になるが……うん、おもしろそうだ。本当の俺の役割が分かるまで、それを俺の役回りにしよう」

 アンタバカでしょ? という顔で、ネルフィリアが見てくる。もちろんバカだ。今まで分かってなかったのか。なんて愚かな女だ。


「よし、決めたぞ。世界征服だ。俺が魔王になったからには、この世界にはせいぜい覚悟して貰う」



なろうで一度は書いてみたかった異世界転生モノ。だいぶ自分の趣味入りました。

自分の中ではかなり実験的なものになりましたが、一人でも楽しんでいただけた方がいれば幸いです。

とりあえずオログガンは使いやすすぎ。


いずれレティ視点で勇者の旅の物語を……などと欲が出ますが、まずは途中で止まってる絵描きの話を書きたいかなー。なんにも考えてないし。

ただ基礎の世界観はできたので(というか、基礎工事のような作品でした)、使い回していろいろ書くのも楽しいかな、とか。


まあ先の話は未定ですし、ここまでにして。

この作品にお付き合いしていただき、ありがとうございました。気が向けば他の作品も読んでやってください。

それでは、また。

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