竜に転生したけど、飛べないので飢え死にします。
初めての小説投稿になります。人外と少年の七日間。恋情は、ない。
ハァイ! 私、前世でトラックに轢かれて血みどろ轢死体……こほん、具体的な描写は心臓によろしくないわね。揚げる前のメンチカツみたいになって死んじゃったJK。JK。JKだよ? 花のJKだったんだよ? もう……道交法無視しやがったのが原因だよね。前世の私が。
でどうやらファンタジーなことに、私は剣と魔法の世界的なとこに転生したらしい。何でわかるかって?
ドラゴンが地球上にいてたまりますか。見よこの鱗の生えた屈強な身体。蝙蝠っぽい翼。どう見てもドラゴンでしょ。がおー、食べちゃうぞー。まだ子供なんで、サイズは大人の十分の一くらい……それでも普通の馬くらいはあると思うけどね。
でさ。でさでさ。まあ転生? しちゃったもんは仕方ないじゃん? 見た目通り、堂々と二度目の人生を謳歌しようとしたらさ。
お母様に捨てられてしまうらしい。今私の首根っこをぐわしっと掴んで、ばっさばっさと羽ばたいているでっかい生き物、こちら今世でのマイマザー。巨大ドラゴン。何と今までの実況は空中からお送りしてましたー。
いや私が悪いんだけどね。決してマザーが悪のドラゴンで、子供を邪険に扱う性質とかそういうんじゃないのよ。
実は私、飛べないのです。
はいここでクエッション! ドラゴンと聞いて思いつくものはなに? そう! トカゲっぽいシルエット、火を吐く、あと翼だよね。空を飛べるのってドラゴンのステータス。
ところがさ、私中身人間なわけよ。普通のドラゴンが持ってるような本能とか欲求とか、薄いのね。加えて人間には羽なんか生えてないわけ。
そりゃ飛べなくて当然だよね⁉ 空中怖い、足場ないの怖い! 走る方が得意です‼
ってそれとなく主張してはみたんだけどねー。ドラゴンってプライドが高いみたい。「走る? は? 何の利点があるのそれ? それよりとっとと飛び方覚えなさい」的な感じでお母様に一蹴されてしまって。そんなこと言われても飛べないものは飛べないので、根気よく教えてくれたお母様もついに匙を投げた現在、出来損ないとして捨てられに連行なう。飛べない竜は一族の威信に関わるんだってさ……
ばっさばっさ、ばっさばっさ。お、何やら小さな谷が見えてまいりました。私を掴んだマイマザーは、その谷に向かって降下……⁉
姥捨山ならぬ子捨谷か‼ え待って待って本気で捨てる気なんですね、いや知ってたけど! 心の準備が‼
え? 暴れると落とす? はいごめんなさいお母様。この谷狭いですもんね。翼の幅ぎりぎりです? 落とさないで。捨てられるのは理解したんでせめてそっと捨てて。
着地したお母様の鉤爪から解放されて、ちょっとよろめいてから四本の足を踏ん張る。一縷の望みをかけて巨大な頭を見上げると、溢れそうなくらい憐れみをたたえた眼差しと視線がかち合った。
見つめ合うこと実に三秒。短い。
私などいなかったかのようにマザーが羽ばたいて離陸。ちなみに私は風圧で吹っ飛んだ。
あいたた。頭を振って起き上がり、その場に座り込んだ。
ぐるんと谷底を見回す。お母様の羽ばたきで少々乱れてるけど、草地だ。ちょっと掘ってみても岩がコンニチハなんてことはない。うむうむ。真ん中の辺りに、浅くて細いけど川がある。飲み水には困らなそうだ。横……狭い方の幅は三十メートルあるかないかってとこ。お母様の翼長ぎりだもんね。長い方の幅はううん、ざっと百メートルくらいかな。まっすぐな谷だから端から端まで見える。ちなみに川はちょうど谷の端あたりで地面に潜ってる。ちくせう。そして肝心の深さはというと、さっき見上げた感じからしてお母様の背丈と同じくらい。とてもとても私には登れません。
よし、大丈夫。冷静な状況判断ができてるぞ私。
いや、まあね。転生してからこっち、たいていのことは受け入れられるようになったからね。はっと気がついたら仔ドラゴンでしたーって衝撃に比べたら、マザーに捨てられることくらいなんでも……
あるわ‼ 現実逃避失敗! 私は角の生えた頭を地面にめり込ませた。
水があっても食べる物がない! 草? 食べれません! 見てこの牙がずらっと並んだ口。ドラゴンは肉食だよ。お腹すく。飢えて死ぬ。事実何か私くらいの大きさの動物が残したと思われる骸骨あるし! 怖っ! ここ本気で子捨谷ですか⁉ お母様ぁあああああっ‼
「……! ……、……!」
……ん、んん?
ぎゃーすか騒ぐ自分の声の他に、何か聞こえてきた。複数の……これは、話し声?
谷底にぼっちなのはさっき確認したから、上かな? 地面から顔を引き剥がして首を伸ばす。
あ、何かいた。
崖っぷちにぞろぞろと、お、あの四つ足の動物は馬だな。んで他のは……後ろ足二本で直立してる。空いた前足に何か持ってて、なんかやたらきらきら光って眩しいんだけどあれどんな皮膚してんの? 鱗? 化け物かよ。
……あ、人間じゃん。 鎧っぽいもの着た人間じゃん。 前足じゃない手だあれ。
転生してこのかた人間見たことなかったからね……とっさにわかんなかったわ。
どうやら十人くらいで、崖下……つまりこっちを見てわちゃわちゃしてるんだけど、危ないなあれ。もうちょっと下がらないと落ちるよ。落ちるってば、危ない危ない、落ち、……あ。
落ちた。
一番身を乗り出してたのが、ぐらっと。
それを追うように他のもばたばた落ちてきてついでに落石、ってちょっと待てあの岩当たったら死ぬ死ぬ死ぬ死ぐへぁっ!?
お腹に強烈な一撃を食らって、そういえばドッヂボールは苦手だったなぁと思いながら私は気絶した。じーざす。
「うっぎゃぁあああああ⁉」
……うるさいなあ……
「死ぬ⁉ 殺される! 誰か助け……うわぁあああああ‼」
寝かせてよ、耳障りな……
「うう……うわぁああああ……ひっく……」
あーもうやかましいわ黙らっしゃい!
いい加減苛々して跳ね起きると、背中から何かが転がり落ちた。
「うぎゃっ」
さては私の安眠を邪魔したのはあんたか!
ぐわっ、とドラゴンの凶悪面を生かして声の元を振り返る。
「ひぃっ……」
そこにいたのは、しりもちをついて、涙目で、がたがた震える、顔の整った、
……子供じゃん。イケメンだけど。子供じゃん。
金髪、碧眼、白い肌、うん私の知ってる人間じゃないや。年は十……いくつだ?わからん。着てる鎧がコスプレにしか見えない。
さっきまでの苛々も忘れて見つめてると、突然怒鳴られた。
「ささささっきから何事だ! じろじろじろじろ見つめるな! く、食うならとっとと食えばいいだろう!」
涙目で言われても全く怖くない。さすがに人間は食べないよ。ちっちゃいしお腹いっぱいにならなそう。……冗談です。
おや、そういえばこの少年が生きてるってことは他の落ちてきた人たちも生きてるんじゃない? 大丈夫かな?
改めて辺りを見回す。
……生きてないわ、死んでるわこれ。まごうことなく馬含めた皆さん即死ですわ。岩に潰されたり首が曲がってたり。言われてみれば血の匂いがする。まあ原型を保ってるだけ前世の私よりマシかな?
そっか、少年だけ私の上に落ちてきたから助かったのか。グッジョブ私の鱗。竜の身体は丈夫かつ柔軟である。そして岩に当たられなかった運のよさよ。
「ううっ……ぐすっ……」
少年に目を戻すと、ぐすぐすとすすり泣いている。……そうだね、何でこんなとこに来たのか知らないけど、一緒にいた人みんな死んじゃったんだもんね。
清潔……とはちょっと言えないけど、食糧になる馬肉も確保できたし、埋めてあげよっか。ドラゴンは力持ちなのです。
問題は土葬できるほど土が深いかってことなんだけど……掘ってみればわかることだよね。
めそめそしている少年は放っておいて、少し離れたところにざくざくと穴を掘る。おお、掘れること掘れること。便利ねこの前足。
「……何をしている」
少年がのそのそと近寄ってきた。歩けるようで何よりだけど、びびりなのか何なのかわかんないね、キミ。まだえぐえぐ言ってんじゃん。
埋めてあげるんだよー、などと言おうにも言えないので、黙々と掘る。少年、そこにいると土かかるよ。
「犬のようだな……」
あぁん⁉
少年にぐいっと顔を近づけて威嚇してやった。私のどこが犬だって? あんたのために掘ってるんだよ。
「う、うわああ……!」
少年、座り込んでマジ泣きモードに突入。
……面白いぞこいつ。
さて、あまり少年で遊んでもいられないし、調子に乗って掘りすぎてもカッコ悪い。穴掘ってたら出られなくなりましたーとかどこのコントっていう。
そこそこの深さと広さに仕上がったところで、穴から這い上がる。んしょ。十人だかの人を埋葬するわけだけど、たぶんこれだけあれば十分でしょう。
一番近い遺体に近寄って、とりあえずそばに落ちてる荷物をどける。少年が食べられるものが入ってるかもしれないからね。私の食欲を刺激しない匂いだから生肉じゃなさそうだけど。
「……お、おい! ななな何してる、えぐっ、んだお前⁉」
え、マジ泣きモードからの復活はや。こけそうな勢いで走ってきた少年が、遺体の前に立ち塞が……らない。腰が引けてる。あは。
「く、食うのか⁉ く……死体っ、なんか食べても、う、美味くないぞっ……!」
ああもう、コミュニケーションできないのめんどいな。うざったくなってきたので、少年を鼻先で押しのける。あーん、と口を開けて、遺体の胴体をくわえこんだ。
「うぎゃぁあああ⁉」
うるせっ。あー、鎧がまずい……金属の味する……
目を見開いて絶叫する少年をもう一度押しやってのしのしと歩き、掘った穴に遺体を落とす。乱暴でごめんね。
えーと次は……岩の下敷きになっちゃったあの人かな……どかせるかなあんな大きいの……
とにもかくにも近寄ってぐいぐいと押してみる。ううん、揺れはするからもうちょっとだ。えい、えい。
「……お、おい、ドラゴン」
なんじゃらほい。なんていうか、びびりのくせに切り替えは早いのね。
「……お前、まさか、埋葬を……?」
そうだよー、という意味を込めて頷いておく。通じるかどうか知らないけどね。うう、この岩重い……あとちょっとのとこで動いてくれないよう……
「……手伝う」
ふーんそう。
……うへっ⁉
あんまりにも驚いたもんで力んじゃって、弾みで岩が転がった。うん。それはよかった。うん。
少年をまじまじと見つめる。え……このびびりくんが? 手伝うって言った? 大丈夫? 遺体触れるのキミ。貧血起こして倒れたりしない? っていうか私のそばにいてちびらない?
私の心配をよそに、少年は岩下から救出した遺体に手をかけた。沈痛な表情だけど……吐きそうでは、ない。変な子だなぁ……
夜ご飯は馬肉と携帯食、主にしたことは埋葬。
少年との生活、一日目。
◆
「う、うぅううおお……うわっ」
ふぎゃっ。
ハーイ。今何をしているかというと、真っ昼間から少年のお尻に鼻を潰されています。
あのさぁキミ、いくらなんでもこの断崖絶壁を登るのは無理があると思うよ? 落ちると危ないからこうやって元JKのプリティな頭で支えてあげてるわけだけど、さっきから私の目線より上に登れてないからね? 実は運動神経悪いでしょキミ。
「くそっ……もう一回……」
やめときなさい。
「わっ⁉」
少年が頭にまたがっているのを利用して、ぐいっと首を引く。少年を岩壁から引き剥がすことに成功。うむ、とっさに私の角に掴まるだけの判断力はあるのね。その判断力がもうちょっと成長してくれると、おねーさん嬉しいんだけどなー。
「どわわっ」
相変わらず面白い声を出す少年のことは嫌いじゃない。ぺいっと彼を地面に振り落として、私は馬肉の消化に入ることにする。食糧にはなるんだけど、この環境で何日も置いといたら腐っちゃうからね。食いだめ食いだめ。ドラゴンは胃袋も大きいんだよん。
「ぐすっ……くそ……」
あーまた泣いたー。この少年ほんと面白いんだけど。女子の泣き顔をからかう男子の気持ちがわかった。あのときは最低野郎とか思ってごめんね、顔も覚えてないクラスメイトくん。
「お前,なぜ飛ばないんだ……! 僕を乗せて飛べ!」
飛べたらそもそもこんなとこにいませんー。っていうか仮にも助けてほしいならその言い草はないでしょうよ。ちょっと腹が立ったので血塗れの牙を剥いてみせる。
「ひえっ」
あとそんな臆病だと、離陸三秒くらいで泣き出すんじゃない? やっぱり無理だと思うよ。
夜ご飯は少年が携帯食、私は昼間の大食いで胸焼けしてなし。主にしたことは不毛な崖登りと馬肉処理。
少年との生活、二日目。
◆
「寒い……」
そだね。私平気だけど、キミは寒そうね。
お天気は雨。当然傘なんかないので、少年は私の広げた翼の下にで膝を抱えている。ここまで近寄れるようになるとは進歩したじゃないの。私はなすすべもなく濡れてるんだけどね。
残りの馬肉を一生懸命消化しつつ、ちらちらと川の様子を監視。小さい川だけど、今までよりちょっと水の量が多い。あれが万一氾濫でもした場合、いくら岩壁のそばに避難してるといってもこの狭い谷じゃ逃げ場ゼロだ。死んじゃう。
……まあ、どうせ飢え死にすると言っちゃえばそれまでなんだけど……
「……どうして、私がこんな目に……」
そりゃ、こんなとこまでのこのこやってきて、挙句崖っぷちから身を乗り出すからでしょうよ。理由は知らないけど。
「黙って抜け出してこなければよかった……きっと誰も探してくれない……」
それは馬鹿だわ。なあに? 家出なの? 反抗期? 難しくて面倒なお年頃なのね。残念だねぇ、一言でも言い置いてれば助けがきたかもしれないねぇ。
「……ぐすっ……」
またか! もー、湿っぽいな、あたしゃ泣き虫は嫌いだよ……仕方ない、ちょっとおいで。
尻尾で少年を引き寄せて、伏せた胴体に寄りかからせる。
「……ん? お前、温かいな……」
そうなのです。火を吐くからかなんなのか、ドラゴンってやつは爬虫類っぽい見た目と違って体温が高い。もっとも、私飛び方と同様火の吐き方もわかんないけど。
少年はまるで赤ちゃんみたいに、私の鱗に顔をうずめ……えっ? し、ししし進歩したね? だだだ大丈夫なのかな?
「……こんなところで、死にたくない……」
……うーん、そっか。私は、ここでキミのお世話しながら、二人で干からびていくのもいいかな、って思ってるんだけど。
二人なら寂しくないじゃない?
夕食は携帯食と、残った最後の馬肉。今日は一日雨宿り。
少年との生活、四日目。
◆
少年との生活、七日目。
目覚ましに川に入って、ばしゃばしゃと水浴びをする。やっぱり清潔感って大事だよね。
「うわっ! おいドラゴン、水が飛んだぞ、濡れたじゃないか! 気をつけろ!」
キミん家のしつけはどうなってるんだ、「気をつけてください」でしょ! 私はキミのペットじゃないのよ。
ぐるるる、と威嚇してやると、少年はちょっと後ずさりつつ涙目で睨んできた。……あら? これは耐性がついてきている……?
少年が朝ご飯を済ませたらもうやることはない。まだぬかるんでいる地面に腰を落としてあくび……こら少年、私の尻尾は椅子じゃありませんことよ。せめて一言言ったらどうなの? ……ちぇ、睨んでも目が合わない。振り落とそうかと思ったけど、少年が泥まみれになって不機嫌になるだけなのでやめとく。不毛なことはしない主義です。脱出経路の捜索とかね。
ふわぁああ。少年と二人でぼーっとする。なんかあれだな、この年にして老後のおばあちゃんの境地を手に入れた気がする……もしや少年もおじいちゃんの精神を手にしたの? 静かでよろしいけどなんかごめんね。巻き込んだかな。
ひまーひまー、と言っていたって太陽は動く。谷の真上あたりにさしかかってくると、日陰がないので少々暑い。お昼だね。さすがにちょっと、お腹空いたなあ……ちなみに、少年はちゃっかり私の翼の下に避難している。最初のびびりはどこいったのさ、キミ。
「……! ……‼」
……おや?
どこからか話し声のようなものが……なにこれデジャヴ。上に決まっているので、うにょーんと首を伸ばす。
ひとだ。
少年のときより多い……うんと、五十人はいるかな? 崖ぎわより下がったところにいるので、ドラゴンの視力をもってしてもよく見えない。少年、目はいいのかな。とりあえずつついて、上に注意を向けさせる。
「なんだ……あれは、人か⁉ おおーい! ここだ! ここに人がいるぞ‼」
目はいいらしいけど、肺活量はないみたい。全然聞こえそうにないので、ふふん、お姉さんがお手伝いしてあげましょう。思いっきり息を吸う。
「……鼓膜が破れるかと思ったぞ! 加減しろドラゴン!」
ごめん。自分でも、こんな谷底に反響しまくるような大声が出るとは思わなかったんだ。
でも、一生懸命手を振るキミに気付いてもらえたみたいだからよかったじゃない。何やら叫びながら、ひと……やっぱり鎧を着た兵士っぽいのが、ぞろぞろと降りてくる。なんて言うの? あの、自衛隊とかがヘリから降りてくるときみたいな、ロープを使ったあれで。
うん? なんかみんな表情が険しいし、先頭の他より豪華な鎧来たおじさん、明らかに私を睨んでるんだけど……
地面に足が着くやいなや、おじさんは腰の剣をすごい形相で抜いた。へっ⁉
「――この性悪ドラゴンめが‼ 私の息子を今すぐ話せ! でないと討ち取ってくれる‼」
濡れ衣です‼
慌てて飛びずさってホールドアップ。ほーら触ってませんよおたくの息子さんは無事ですよ、……息子ぉ⁉
二度見した。おい少年、お迎え来たじゃないか。
少年は歓喜の表情で泣きながら駆け寄っていった。ほんと面白いし表情筋器用ね。
ええー……一人ここで飢え死にはするのはやだよ……このおじさん……お父さんか。に討伐されるのもやだけど。裏切ったな少年。
親子の感動の再会を眺めながらつらつらと考える。後続の人たちが親子の後ろにずらっと並んで睨み付けてくるので、動くに動けない。あ、少年げんこつ落とされて泣いた。そうだよね、家出して行方不明になったんだもんね。そりゃ怒るわ。
お父さんが少年からゆっくりと身体を離して、私に突き刺さる視線を二つ増やした。え、私本当に何もしてませんよ。
「息子をここに捕らえた罪……今ここで精算してもらおう! 総員構え‼」
ちょ待ぁあああああ⁉
思わず飛べないのも忘れて翼をばたつかせた。いや緊急事態だ頑張れ私!
無理。
しゅらんしゅらんしゅらん、ってこれもしかしなくても剣を抜いてる音だね! タンマタンマ、私中身は平凡なJKよ? ファンタジーの主人公みたいに武術の心得とかないからね?
……やべ。これ死んだ。竜の鱗だって、この人数に囲まれちゃ役に立たないでしょ。
……二度目の人生、もっと楽しみたかったのに。
「――待ってください父上‼」
叫んだのはしょうね、んっ⁉ まあいいや、この際キミだけが頼りだ。
「何だ、お前も加わりたいと言うのか?」
「違います、そのドラゴンは悪ではありません!」
おお、びびりが引っ込んでいる! そうだいけ少年、私がいかに甲斐甲斐しく世話を焼いたか思い出せ! そしてアピールするんだ!
「この七日間私を傷つけなかった、それどころか翼の下にかくまいさえしました! このドラゴンは私に懐いています!」
……ん?
「しかしドラゴンは人を食う生き物だぞ!」
「食いません――食いませんでした! このドラゴンは、私の命令に従って従者たちを埋葬しました――その岩の下を掘ってみてください。遺体が出てくるはずです!」
……命令? え? もしや頭腐ってる少年? 人間たちは地面を掘り返してどよめいているけど、私には不穏な空気しか感じられない。
「今だって飛び去りもせず、おとなしくこの場にとどまっているでしょう?」
その通りだ、じゃないよガヤども。飛べないだけだよ。
「このドラゴンがいなければ、私は生き延びることができなかったでしょう。――父上!」
あー成長したな少年、喋り方に威厳があるぞー。あれれー、さっきから悪寒がするぞーおっかしーなー。
「私は、このドラゴンに感謝したいのです」
少年、両手を広げて私の前まで歩き、お父上の方へ向き直る。場の空気は最高潮に――ついでに私の悪寒も最高潮。
「――よって、このドラゴンを我がペットとすることをお認めください‼」
ごめん、私ここで飢えて死ぬわ。
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