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2.始まり

 迷路にそのまま屋根を付けたような館内も、さすがに慣れてしまった。

 全体の東側の二階すべてが客室。全部で12個の客室がある。西側は、一階があの大広間、二階が白鳥さんの寝室や書斎などとなっている。そして、迷路の要因となっている、北側に先割れスプーンのように伸びた三本の廊下である。真ん中の道を進むと大浴場、右側の道を行くと娯楽室、左側の道を行くと洗濯場やキッチンとなっている。気を抜いて方向感覚を失うといったいどこがどこだか忘れてしまう。というか、完全なる旅館である。

 西側と北側と東側の通路が交わるロビーにしか一階と二階を結ぶ階段は無い。そのため、二階の客室に行くには少し不便だが、運よく私は一回の一番ロビーに近い部屋に泊まれた。

 部屋に戻り、伸びをする。窓の外は白すぎる雪景色だが、いつの間にか雪は止んでいた。午後九時、今日は朝が早かったため、少しだけ眠気がある。気晴らしに風呂に入ることにした。

 大浴場に行くとまた白鳥さんと出くわした。

「さっきぶりだね」

 白鳥さんの部屋をはじめ、客室にはみんな小さなユニットバスがついているが、みんな大浴場に入りに行く。白鳥さんも自分の部屋にユニットバスはつけたものの、別荘に泊まるときは大体大浴場に入るという。

 午後十時を回ったころ、早めに寝るかと布団に入る。眠気からか、すぐに夢の世界へと誘われた。

 そして、事件が起きた十一時、叫び声にも似た狂乱に起こされた。

「探偵! ねぇ探偵!」

 Rikoの声だった。あまり用心深くは無いので鍵はかけていなかったが、Rikoはただドンドンドンとドアをたたき続ける。

「何があったんだ」

 眠気もちょうどてっぺんに来ていたあたりだったが、ただ事ではないと感じ取ってはいた。それは真剣なまなざしを向けるRikoからも感じ取れた。

「白鳥さんが! 白鳥さんが!」

 この慌てぶりから、その続きの言葉は予想できていた。ただ、あまり想像もしたくなかった。

「死んでるの……」

 今にも倒れそうなRikoを部屋に入れ、私はすぐに白鳥さんの部屋に行った。

 部屋の前のドアにはMikoと佐中さん。そして大野さんが青白い顔をしていた。

「Rikoから話は聞きました」

「お、俺どうしたらいいか……」

 動揺を隠しきれない佐中さん。大野さんも動揺しているだろうが、佐中さんをなだめている。

「警察には?」

「連絡したよ」

「中の状況は?」

「俺が最初に見つけたんだ。白鳥さんと話をしようと思って部屋に来て、ノックをしたんだが何も返事がなくて。ドアノブ回したらドアが開いて、そしたら……血まみれの白鳥さんがいたんだ」

 大野さんが第一発見者だったらしい。とりあえず、探偵という肩書きだけではあるが、まずは三人をロビーで休ませ、私は部屋の中を調べることにした。

 部屋の中はすでに明るく、部屋のど真ん中には椅子、そして白鳥さんが座っていた。お腹からは血が出て、下に滴っている。さらに、かなり広範囲に血が巻散っていた。

 これは間違いなく殺人事件であった。

 血はまだ固まっておらず、現場を保存するためには血に足を踏み入れてはならない。なので、私は部屋の中心以外を調べることにした。

 私の部屋より随分と暖かい部屋であるのにまず気づいた。寒がりだった白鳥さんはいつもこれぐらい温かくしていたのだろうか。

 白鳥さんの寝室は私たちの部屋とあまり変わらなく、机が一つ、テレビも備えつけられている。小さな冷蔵庫があるが中身は空である。本棚の本は飛び散った血にぬれているのもある。

 部屋を一望しても、あまり不可思議なことはない。ただ、白鳥さんが血まみれになっていること以外、何も変化がないのだ。

 ただ、白鳥さんの真正面の方の床だけほとんど血が飛んでいなかった。おそらく犯人は真正面から白鳥さんを刺し、噴き出た血は犯人にかかったということだろう。

 私は風呂場を見てみる。すると、意外なことに風呂は使用の跡があった。ユニットバスは濡れていて、壁にも水滴がまだついている。私は大浴場で白鳥さんを見た記憶があったが、なぜこのユニットバスは使われているのだろうか。ただ、このことが事件と関係があるともわからず、私は一旦ロビーに戻ることにした。

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