二人と一人
僕は、台所から包丁を取り出した
研ぎ澄まされた刃先が冷たく光った
居間を大股で縦断して
縁側に腰掛ける白ワンピースの彼女に近づいた
「あら、ーーくん、どうしたのそんなに息を荒くして」
彼女は屈託の無い、いつも通りの眩しい笑顔で醜い僕に声をかけた
いつもと違って僕の心臓は早いリズムを刻んでいた
どうしてこうなっているのかは自分がよく分かってる
「ーーあ、」
コミュ障の僕らしい発声だと思った
「ぼ、僕は、」
「……うん」
君が羨ましかった
君みたいになりたかった
こんな、夢の中でさえ美しくいられない僕は
君みたいに容姿端麗になりたかった
君みたいに内面が美しい人でありたかった
本当の姿は、君とはかけ離れている
ものすごくかけ離れている
ろくに外に出ることも出来ない
最後に外出したのはいつだったか思い出せない
人と目も合わせられない
容姿なんて生涯貶されたことしかない
頭が良いわけでもなければ
運動ができるわけでもない
ものの締切は守れないし、言われたことすらちゃんとできない
人から怒られることこそあれど、褒められた試しなどなかった
分かっていた。自分の努力が足りないんだってことは
人間、努力すればどうにかなるもんだと教えられてきたから
けれどすべてがうまくいかなかった
努力することすらうまくいかなかった
全てが空回りをし続けた
努力しているはずなのになんで?と思った
そんな自分を言い訳がましいと思った
自分はできる限りのことをしたんだから、
だから良いのだと、自分を褒めれば自尊心を取り戻せると思った
でも結果は伴っていないのだからと
結局人並みにできない自分を責め続けた
しばらくは周りが凄いのだと思っていた
自分は精一杯やっているのに到底追いつけない
それどころか自分と彼らの距離はどんどん伸びていく
やはりおかしいのは自分なんだと気づいた
人間は平等だっていう言葉は、未だに信じられないよ
「君みたいに美しい人といられて僕は幸せだった
何度も君を殺してごめん
君はいつも僕のそばにいてくれた
君がいてくれたから僕はこうやっていられるんだ
ありがとう」
鼻の奥がつんとした
目の奥が熱くなった
僕は彼女のそばにしゃがんだ
そして思いを込めて
その胸に刃を深々と埋めた
純白と銀の間から赤黒いものが溢れた
醜い僕の中に流れるものと同じ見慣れた色
純白を侵していく血を見て、最後くらいは彼女が同じ生物であると実感出来た、
ような気がした
彼女は穏やかに微笑んだまま
座り込んだ僕をきつく抱いてくれた
彼女の温もりは案の定感じなくて、
僕は現実の冷たさだけを最後に味わっていた
「さようなら、僕の幻想」
………………
「〇日、周辺住民からの通報で、XX歳無職の男性が死亡しているのが発見されました。遺体にの胸部には包丁が深々と刺さっており争った形跡などはなく、また、付近に遺書らしきものも発見されたため、警察は自殺と断定しましたーー」
………………
頼れる生身の人間がいれば、少しは僕も違う人生だったかもしれない。




