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日報4

北海道庁生活環境課、その成立は明治21年までさかのぼる。明治政府は明治10年に社寺局を設け、国内の神社、寺院、新宗教(天理教や黒住教など)

宗教に関するすべての行政を管掌したが、地理的観点から北海道における宗教に関する行政については、内務省管轄から外し、北海道庁の管轄に置いた。

北海道の宗教行政は、日本国内にあって、日本国の管理を外れたのだ。

当時、北海道の開拓はまだ手を付けたばかりであり、先住民族であるアイヌ以外にも多岐にわたる民族が独自の宗教の元生活していた。

それら先住民族を取り込むため当時の道内神社局は注力していたが、それは必ずしも同化政策だったわけではなく、

多数ある1宗教の一つとして認めるというものだった。

このような選択をとった理由は、当時の価値観からはとても容認しえない宗教行為も存在したが、すべてを否定することによる部族間抗争の愚を

侵さないための苦渋の選択があったことは類推できる。

彼らは、北海道行政により保護区に隔離されたり、場合によっては本土で行われたような虐殺による滅亡を余儀なくされたらしい。

かろうじて、それら、民族弾圧をすり抜けた者たちは、人に同化したり、去ったりしたらしい。

現代も、一部の民族は道内の保護区にて生存が確認されており、地域住民とのトラブルが発生することもある。

それらの仲裁、および管理を行うのが、ここ、北海道庁生活環境課ということだが、だが、え~と、組織ぐるみの誇大妄想じゃないですよね。

あ、守秘義務についての書類、誓約書、確かに書きました。え、親族、近所の人、調査済み?なんですかそれ?

そんなの誰にも言えませんよ。私が変人扱い確定でしょう!

あ、記憶を消す薬、いや、結構です。間に合ってます。薬なんか使わなくてもポンコツですから色々抜けてますので!

これ、日報に書いていいですか? そうですよねダメですよね、はい、座学、生活環境課の成り立ちについて、ですね。

にこやかに、いっぱいいっぱいの私の後ろから田代さんが指導をしてくれます。ここはいつもの自席ではなく、声の漏れない奥の会議室です。

がらんとした部屋には、私と田代さんしか居ません。

机の上には、私のノートパソコンと、積み上げられた過去の事例書という民族事件の資料が置かれています。

「まぁ今日はここまでだけど、明日から少しづつ、事例書を読み進めていきましょうね」

良い笑顔です。さっきまで読んでいた事例書と相まって、きっと今夜は夢に出てくるそんな気がします。

とりあえず、今日も定時で退庁です。ありがとうございました。ありがとうございました。

大事なことなので、二回言いました。


ふぅー お湯から右手を肘まで出してまたお湯の中に沈める。その途中で開いていた手のひらを握りこみ、お湯につけてから指を一本づつ開いていく。これで3回目だろうか、意味のない動作を繰り返しながら、

私は今日の座学で読んだ事例書を思い出していた。

それは、オホーツク海にほど近い寒村で起きた誘拐事件だった。

犯人は現場からかなり離れた北見の学生、出身は記載されていなかった。

いや、多分原本には記載されていたんだろう。

私の見た資料からは削除されていた。

誘拐されたのは当時12歳の少女、発見されたときすでに殺害されていた。

犯人の学生は、自宅に踏み込んだ捜査官一人を撲殺、その後、銃殺された。

本来ならばすぐさまニュースとして扱われる事件だが、報道協定により、この事件が明るみに出ることはなかった。

F協定というらしい。

著しく常識を破壊し、人類社会に齟齬をもたらす恐れがある事件は報道してはならない。

誇大妄想以外の何物でもない。

しかし、この協定によりこの事件は隠蔽された。

何故か。

犯人が人間の姿をしていなかったからだ。

そして被害者であった12歳の少女もまた人間の姿をしていなかったらしい。

人外による、人外の殺害事件?添付されていた犯人の解剖調書、私はよく理解できなかったが、犯人は熊の獣人で、被害者は魚の獣人だったらしい。

この世界には人に交じって人以外の人類が存在している。

ネス湖のネッシーとか屈斜路湖のクッシーとかなら平和だったんだけどね。

オホーツク海の寒村も、その後廃村になっていると追跡記録に記載があった。

ほんの20年前の事件なのに、多分調べても何もわからないように痕跡は消されている気がする。

こんな事例が詰まった事例集とこれから付き合うと思うと、正直、気が重いです。

お風呂の中で思考はグルグル渦を巻く、流れていく思考は私の経験した数々の知識を巻き込み、最適解を探そうと悪戦苦闘する。

遠野物語には度々、経立ふったちと呼ばれる魔物の記述がある。

これは年を経て獣から進化した魔物と人の関わり合いの物語だ。

彼らは、民話の中に潜んで語られている存在なのかもしれない。

現代は、物語の中に潜んでいた不思議な物の存在を容認しない。

すべてを白日の下にさらすまで暴きつくすか、

もしくは一生表に出てこないように全力で封じ込める事だろう。


私の配属された部署はきっとそういう部署なんだ。

何か、かけていたジグソパズルのピースが見つかって、

嵌めてみたらすんなり嵌った時のようにすっきりした。


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