砂漠の花
耳を傾けてください。
他の人たちの声に。
対立するあの人たちの声に。
きっと、今まで聞こえなかった声が聞こえるはずです。
世界中にはたくさんの人たちがいます。
たくさんの神さまがいます。
たくさんの文化があります。
これは西の砂漠で起こった、悲しい話。
昔々、砂漠の国にはふたつの国がありました。
ひとつ目の国は、たったひとりの神さまを大事にしている国でした。
ふたつめの国は、たくさんの神さまを信じている国でした。
ふたつの国の真ん中には、それぞれの国の神さまのお社がありました。ふたつの国は、そのお社を巡って、ずっとずっと争いを続けていました。
その戦いで、ひとびとは疲れ、国はどんどんやせていってしまいました。
ある時、ふたつめの国の女王さまが言いました。
「お社をふたつの国で、いっしょに使いましょう。仲直りしましょう。」
と。だけれど、ふたつめの国のひとびとも、ひとつ目の国も、それを認めませんでした。
「あのお社は僕らのものだ。」
「いや、あそこは私たちの神さまのものだ。」
ふたつの国は、そう言って譲りません。ついには、
「あっちの国がおれたちの生活を苦しくしているんだ。」
「向こうの国を倒すのは、正しいことだ。」
と考えるようになりました。
争いは前にも増して、激しくなりました。
ひとびとは命をけずり、相手を憎んで、血を流し続けました。
女も子どもも、武器をもって戦いました。
倒した敵の数は、誇りの大きさでした。正義の証でした。平和への第一歩でした。
「話し合いましょう。このままでは、どちらの国も滅んでしまいます!」
女王さまの声は、それぞれの正義と平和のために戦うひとびとの胸には、届きません。
砂漠の真っ白だった砂は、長く続く争いで、赤く紅く染まりました。
「話し合いましょう。争わなくても良い世界をつくりましょう!」
そう訴えつづけた女王さまは、ついに自分の国の少年に殺されてしまいました。
少年は言いました。
「あちらの国の味方の女王は、悪だ」
と。
女王さまがいなくなったふたつめの国は、ひとつ目の国を滅ぼし、お社を手に入れました。
しかし、ひとびとはつかれはて、土地は痩せ、お金は底を尽きていました。
食べるものも、着るものも、住む場所もないふたつめの国のひとびとは、砂漠の熱い太陽に焼かれ、夜の寒さに凍え、やがてみんな死んでしまいました。
残ったのは、古びたお社と、赤い砂漠だけ。
ねえ、みなさん。
正義って、平和って、何でしょうね?
お読みくださり、ありがとうございました。