午前中
カーテンの隙間から入る朝日の眩しさで目を覚ます。
横を見ると、心地よい寝息をたてながら彩が眠っている。
その彩を起こさないように、ベッドから出る。
一度、背伸びをして、体をほぐす。
そして、コーヒーでも飲もうかと、ドアノブに手を掛けた時、向こうからドアの開閉音が聞こえた。
僕は、リビングに行き、そこを通り越して康平さんの部屋へと入っていく。
「おはよう」
と僕は声をかける。
康平さんは、ベッドに腰かけたまま頷く。
「彩ちゃん、寝てるんだろ?」
今度は僕が頷く。
「康平さん、戻ったの?」
彩が部屋に入ってきて、寝ぼけ眼をこすっている。
「うん」
「どこ?」
彩は寝ぼけているのかアホらしい質問を僕にする。
「ベッドの上にいるよ」
彩は、ベッドの前に行き、丁寧に頭を下げる。
その頭が康平さんに当たりそうになって、康平さんがサッと避ける。
僕はなんだか笑いそうになってしまった。
「康平さん、おはようございます」
「おはよう。じゃあ、俺寝るわ」
「お休み」
僕が微笑んでそう返すと、彩も
「おやすみなさい」
と、返した。
その後、僕と彩は、リビングでコーヒーを飲んだ。
泥のような味。
コーヒーが喉の奥で、粘液と絡まる。
僕は、コーヒーが嫌いではないのだけれど、決して、不快にだってならないのだけれど、コーヒーがおいしいとは言えない。
なぜか、コーヒーがコーヒーの味をしないのだ。
僕にとって、コーヒーの味は、泥の味なのだ。
僕と彩は、朝食をとる。
トースト、スクランブルエッグ、サラダ。全て、彩が作ってくれた。
僕らは、食事中何も話さない。テレビも見ない。
これも、約束をしていない約束事だ。
僕と彩は、シャワーを浴びた。
一緒にシャワーを浴びる。
時折、彩の乳房や陰部に触れると、彩も僕の薄い胸板や頬を触ってくる。
羞恥心もなければ、快感もない。ただ、僕らは触れ合う。
動物的に、肉体的に、本能のままに。
まるで、リンゴを食べる前のアダムとイヴのように。
僕と彩は学校に徒歩と電車で向かう。
この時は会話をする。
煙のような会話をする。
その煙のような会話は、僕を安心へと運んでいってくれる。
電車の中は、比較的空いている。
ラッシュ時を、通り越しているからだ。
これだから、2限目からはいい。
なんて、会話もする。
学校に着くと、僕と彩は分かれた。
今日は、受ける授業が違うのだ。
―――2限終わったら、ホールで―――
僕は、授業を受ける。
一番奥の、窓際の席から、一つ空けた席。
今は、彩がいないんだったと思いだして、席を詰める。
僕は、教室の風景を眺める。
もしも、この世で人間が僕一人だけになってしまったら。
僕は、どこにいくだろう。
まずはスーパーに行って、食材を買う。
その後、家電量販店でゲームを漁る。
レンタルビデオショップにでも行って、映画を漁る。
いろいろやりたいことはあるけれど、でも、何といってもやっぱり、僕はこの世界に誰もいないということを、心の底から噛みしめるだろう。
時には、路上に寝っ転がったり、散歩したりしながら。
そうして、寂しくなったら、死んでしまえばいい。
僕は、チャイムの音と、学生たちが教科書やノートを片す音に救われるように、目を覚ます。
お読みいただき、ありがとうございました。
次話も是非!




