日常
彩は、僕がカレーライスを食べ終わるのを待っていてくれた。
いつものように。
そして、遅れて3限目に向かう。
大教室の木製の重いドアを開ける。
教授や学生たちの冷ややかな目線が、僕らに注がれる。
彩は、その目線を気にも留めず、一番後ろの一番奥の窓際の席に座る。
いつものように。
そして、僕は玲の横に座る。
いつもの、ように。
黒板の前では、僕にとっては意味のない授業が行われている。
どうしてだろう。
一年の時は、もう少しやる気があったのに。
二年になってから、何もできなくなってしまった。
このままでは、留年コースだろう。
彩が僕の肩を肘で小突く。
そして、小さく口を開け、小さく僕に喋りかける。
「ちゃんと聞かなきゃだめだよ」
「分かってる」
「分かってない」
「分かってる」
「分かってない」
「うん、分かってない」
いつだって、先に折れるのは僕の方だ。
彩には敵わない。
まるで、小さい小動物みたいな彩に、僕は敵わない。
僕の方が大きくて、力が強いというのに。
「ねえ、今日、家行っていい?」
「え? 別にいいけど」
「じゃあ、決まり! 夕飯作ってあげる」
「楽しみだ」
僕らは、小さく笑い合い、前へと向き直る。
僕の耳はさっきより、少しクリアにになっていて、さっきより、やる気がでてきた。
きっと、一生使うことはないであろう、数式を僕はノートに書き連ねていく。
お読みいただきありがとうございました。
次話もよろしくお願いします。




