偽りと真実
僕は、これまで多くのことを偽って生きてきた。
康平さんや真矢さんのこと、高校生活のこと。
この高校に訪れて、僕はいろいろと、僕のことを知った。閉じ込めていた記憶が、僕の脳に戻っていく。
でも、まだなのだ。
まだ、パズルは完成していない。
あと、ワンピース。
あの、事件のあった体育館へと、僕は向かう。
あの日。
あの場所で、何が起こったのだろう。
あの時、彼女は何と言ったのだろう。
僕は、その全てを解き明かす。
それには、とても多くの、苦しいことや辛いことがあるのだろう。現に今も、僕の胸は、張り裂けそうだ。
でも、もう、自分の空想の中では生きられない。
彼女が呼ぶから。
そこにいてはいけない、と。
空の色が、青からオレンジへと変わっていく。
あの日のように。
不意に僕は耳に風を感じる。
僕の前に、男子高校生が走っていく。その男子高校生の後ろ姿は、今日の午前中に見た男子高校生と似通っていた。
そして僕は、その男子高校生を追いかけた。
オレンジ色の夕陽に照らされた、体育館。
この真新しい体育館の外観は、殺人事件が起こったとは思えない。建てなおされたようだ。
男子高校生が体育館の前で立ち尽くす。そして、ゆっくりと入っていく。
その途端、体育館が薄汚れていく。
真っ白の壁が、所々黒ずんでいく。
壁には、時折ヒビが入っている。
そして、その全てがオレンジへと染まる。
これが思い出か。過去か。僕の戦う相手だ。
僕も体育館へと入っていった。
そこには、男子生徒と女子生徒、総勢20人に囲まれている弥生ちゃんがいた。
男子高校生は、入り口付近で固まっている。
弥生ちゃんは、蹴り飛ばされ倒れる。
髪を引っ張られる。
弥生ちゃんは、声を一言も発さない。
弥生ちゃんのワイシャツは破れ、ブラジャーが見える。
暴力と凌辱を浴びせられる。
「ふざけるな!」
僕が発したと思ったその叫びは、入り口付近で固まっていた男子生徒のものだった。
初めて、僕は彼の顔を見た。それは僕だった。男子高校生の僕だった。
彼は、元い、過去の僕は入っていく。それに付いていく。
20人の生徒は、入ってくる僕たちに気づくことはない。
過去の僕は、ゆっくりと、20人の生徒たちに近づく。そして、一人の生徒の後ろにつく。
―――嘘だ―――
過去の僕は、手を振り上げる。
その手にはカッターナイフが握られている。
一人の生徒のうなじに向けて、突き刺す。
血が、血が、血が、飛び出る。その血が、弥生ちゃんの顔に飛び散る。
過去の僕は、学生たちを次々に刺していく。
首の頸動脈や、腹、顔、なりふり構わず刺す。
学生たちは、声は発さず、ただただ怯え、その場に固まっているだけだった。
そして、僕に殺されるだけだった。
辺り一面、血で覆われている。
そこには、20人の学生たちの死体と、僕と、弥生ちゃんしかいなかった。
それら全てが、オレンジ色の夕陽に照らされて、美しいと感じた。
過去の僕は、地面に膝をつき、うなだれている。
地面に落ちたカッターナイフは持つところも、全て血に染まっている。
弥生ちゃんは、そこに立ち尽くしたままだ。しかし、やがて地面に落ちたカッターナイフを手に取った。
それを、ハンカチで拭った。
そして、振り返って、うなだれている僕にこう言った。
「きっと、いくから」
過去の僕は、叫びながら体育館を飛び出した。
今の僕は、血まみれの彼女に見とれていた。
やがて、彼女も血も消えていった。そこは、元の真新しい体育館に戻っていた。
僕は、体育館の真ん中へと少しだけ歩いた。
僕は、虚空を見つめた。
そこには、人形の国もお菓子の国もなかった。
そこにあったのは、現実だった。彼女は、これを見ていたのだと思った。
僕は、手に持っているカッターナイフを自分に向けた、そして、それを喉元に刺した。
僕は、膝をつき後ろに倒れる。
天井が見える。
そこにはうっすらと、弥生ちゃんの姿も見えた。
彼女は、僕の元に降りてきて僕の頬をそっと撫でた。そして、僕の唇に自分の唇を重ねた。
―――いこうよ―――
僕は、もう一度、僕の喉元にカッターナイフを刺した。
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