思い出2
僕は、ゆっくりとドアを開く。
彩は、僕の後ろで寂しそうに立っている。
3年2組
ここは、僕と弥生ちゃんが半年間過ごした教室だ。
黒板に書いてある落書き。
掲示板に乱雑に貼ってある手紙。
薄汚れた床。
どれもが、憎たらしい程に懐かしかった。
僕の席は、窓際の一番奥だった。俗に言う、特等席だ。
僕の席の前に座っていたのが、弥生ちゃんだった。
僕は、自分の座っていた席に座って、机の中を探る。
出てきたのは、一枚の紙。
―――死ね―――
僕は、
首を傾げる。
そして、また、机の中を探る。何か、僕の手に綺麗に収まるものを僕は、しっかりと掴んだ。
前に人影が現れた。弥生ちゃんが、僕の前の席に座る。
やあ。久しぶりだ。
彼女は、髪をなびかせて、こちらを向く。
やあ。
ふわりと、彼女の匂いが僕の鼻をくすぐる。
僕は、恥ずかしさで俯く。照れ隠しだ。
―――死ね! クズ! カス! キモイ! 学校来んな! 殺す! ―――
僕の机には、そうしたいくつもの言葉が、黒い油性ペンによって書かれてあった。
僕は、不審げに前を向く。
彼女は、眉を顰める。そして、一枚の雑巾で、根気よく、僕の机を拭いてくれる。
昼の白い眩しい光が、オレンジ色に変わる。
夕方になった。
僕は、黒い影に囲まれる。
その黒い影は、手を繋ぎ合い、僕の周りを回っていく。
―――死ね! クズ! カス! キモイ! 学校来んな! 殺す! ―――
その言葉を繰り返しながら。
僕は頭を抱える。
机に額を押し付ける
―――死ね! クズ! カス! キモイ! 学校来んな! 殺す! ―――
僕の周りを回っていく。
分かったから。もう、全部、分かったから。
黒い影は消えていく。
オレンジ色のした夕陽は、白い陽射しに変わっていく。
僕は、涙で濡れている顔を、袖で拭った。
「ねえ、広樹。帰ろう」
彩は、すがるように僕に言った。
「お願いだから。帰ろう」
「僕は、今まで、何を偽って生きてきた?」
彩は答えない。
「君はどうして、僕と付き合ってくれている?」
「あなたのことが、好きだから」
「嘘だ」
「嘘じゃない。あなたのことが好きよ」
「何で、僕のことが好きなんだ?」
「あなたは、いつだって夢を見ているから」
僕は、一つ息を吐いた。
頬に涙が流れる。それは、僕も、彩も。
「康平さんはいないんだ」
「いるよ」
「真矢さんもいない」
「いるよ」
「康平さんは、熊のぬいぐるみで、真矢さんは、肖像画だ」
「違うよ」
「違くないよ」
「彩には、見えてなかったんだろう?」
僕は、苦しく、苦しすぎるけど笑った。
「見えてるよ」
彩は、溢れだす涙を、両手で覆う。
「ありがとう」
僕は、僕の前でうずくまっている彩を置き去りにして歩きだす。
「……行かないで」
彩はポツリと言った。
僕は無視をした。
「お願いだから、行かないでよ!」
僕は、無視をした。
無視をして、教室から出た。彩の、声を背に受けながら。
その時僕の手には、光り輝くカッターナイフが握られていた。
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