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思い出
廊下に出て、僕は固まった。
そこにあった風景は、残酷なものであった。
弥生ちゃんが、数人の男女に囲まれている。
彼女は、地面に座りこんで、うなだれている。
「痛い!」
彼女の声が廊下に響く。
彼女は、一人の男に髪を引っ張られ、引きずられていく。
「痛い」
彼女は、ポツリと言った。
僕の心の中には、冷たく気持ちの悪いものが流れ込んできた。
弥生ちゃんは、どうにか自力で立ち上がり、仕方なさそうに数人の男女に付いていった。
僕は、何もできず、立っていた。
もう一人の僕も、僕の前に立っていた。
僕と高校生の僕は、ギュッと拳を強く握った。
―――追いかけなくちゃ―――
行けない。
僕は、知っている。僕が行けないことを。
この景色は、本当にあったことで、本当の思い出だ。
「広樹!」
彩が叫ぶように僕の名前を呼ぶ。
「もう、帰ろう」
帰れるわけない。
僕は、何を忘れている?
僕は何を偽っている?
僕は何に、囚われている?
僕は、再び歩き出した。
この階の真下。そこは、僕と弥生ちゃんが、高校3年生の、あの事件の年に過ごした教室がある。
僕は、狼狽えている。怖い。
でも、知らないほうがもっと怖いことなのだと、思う。
そこにあるものは何なのだろう。
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